本日11月30日からドバイで開催される国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)は、初めて石油輸出国機構(OPEC)加盟国であるアラブ首長国連邦が主催国となる。この会議の議長は石油会社のCEOが務めることになっており、グリーンウォッシュや利益相反が懸念されている。ドバイでは、パリ協定の下での世界的な気候変動対策に関する最初の世界的なストックテイクが行われる予定であり、パリ協定に沿ってこれまで温室効果ガス排出量を十分に削減してこなかった世界の失敗を直視し、軌道修正のための行動を加速させる機会となる。COP28は、ウクライナ戦争とイスラエル・ハマス紛争の中で開催されるが、その国際的な同盟関係への影響は、気候変動交渉にも影響を及ぼす可能性がある。
経済問題に関する政策研究を専門とする欧州のシンクタンクであるブリューゲルは、COP28で争点となる重要な問題を特定し、その成功を測る指標を提案した。同シンクタンクによると、COP28は、より壮大な誓いが空約束に終わらないよう、各国政府が気候変動への配慮を財政的な意思決定にうまく組み入れるよう、十分なインセンティブを与える必要があるという。
主要課題1)各国の気候変動対策計画のグローバル・ストックテイク
パリ協定は、グローバル・ストックテイク(GST)と呼ばれる、世界的な気候変動対策の定期的な評価を義務付けている。この5年間にわたるプロセスには、国連の主導の元、科学者、国際機関、そしてWe Mean Business Coalitionなどを通じた民間セクターが参加している。GSTの主な目的は、進行中の各国政府の気候変動対策の進捗状況の評価を促進し、より強力な取り組みを推進することである。ドバイで採択されるGSTは、気候変動の緩和、適応、気候資金の3つの主要分野に焦点を当てる。2年前の国連気候変動会議(COP26)で行われた各国が気候変動枠組条約事務局(UNFCCC)に提出した「国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)」の更新が、パリ協定の目標達成※の軌道に乗せることができなかったため、GSTの結果は厳しく精査されることになる。
※パリ協定の世界共通の長期目標は「世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2度より十分低く保ち、1.5度以内に抑える努力をする」こと。
NDCは、温室効果ガス排出量を削減するために各国が設定した目標と行動である。しかし、COP28前に発表された国連のレポートによる、現行のNDCが予定通りに実施されたとしても、2030年までに世界の温室効果ガス排出量は2019のレベルに比べてわずか2%減少すると警告している。パリ協定の努力目標である1.5℃を達成するには、2030年までに43%の削減が必要となる。今回初回となるGSTは、各国の取り組みを評価・比較し、世界および各国の行動がパリ協定の目標に合致しているかどうかを評価するものである。GSTが完了すると、各国は2年以内(25年まで)にNDCを改定する。しかし、COP28でGSTの枠組みをどうするかは、気候変動に取り組む機運を高める上で重要である。COP28では、政府、企業、金融市場に対し、官民の経済・金融の意思決定に気候変動への配慮をよりよく組み込むことの重要性を伝えなければならない。
重要課題2)気候変動の緩和: 化石燃料の段階的廃止、再生可能エネルギーおよびエネルギー効率の世界目標
COP27は、「低排出エネルギー」を促進する必要性についての一般的な規定で終わり、化石燃料の将来を定義することはほとんどなかった。しかし、今年初め、岸田総理を含めG7首脳は、2035 年までに電力供給の全て、または大部分を脱炭素化するという目標を表明した。G7首脳は、石炭火力発電(炭素回収・貯留技術などの排出抑制設備を持たない発電所)の段階的廃止に向けた取り組みを強化することを約束した。 COP28では、排出削減対策をしていない化石燃料の段階的廃止に関する期限を定めるよう圧力がかかるだろう。EUはこの目標に政治的資本を投入しており、加盟国は2050年よりもかなり前に、すべての排出削減対策をしていない化石燃料を世界全体で段階的に廃止することを提唱している。EUはまた、化石燃料への補助金を直ちに削減するよう求めている。COP28では、この点が途上国の争点になりそうだ。途上国は、先進国が2050年よりかなり前にネット・ゼロに到達することを望んでおり、そうすれば、炭素予算を最も必要とする国々に、より多くの炭素予算が割り当てられることになる(3)。
COP28議長国は、化石燃料の段階的削減を「不可欠かつ不可避」と位置づけ、この議論から逃げようとしていない。しかし、交渉の中心は石油・ガスのスコープ1とスコープ2であり、これは石油・ガスの燃焼による排出量ではなく、石油会社が石油・ガスを生産する際の排出量に関するものである。このような産業界からのコミットメントは歓迎されるが、エネルギー関連排出量全体の中で石油・ガス排出量の大部分を占めるスコープ3排出量(すなわち、石油・ガスの最終消費量)はカバーされない。また、世界各国の化石燃料開発計画も、パリ協定と大きく乖離していることが指摘されている。
セクター別のコミットメントは、野心を高めるために極めて重要であり、低炭素セメント同盟やグリーン鉄鋼・アルミニウム同盟のようなイニシアティブは、セクター別気候クラブ(主要セクターにおけるカーボンプライシング(炭素価格)などの気候変動対策の整合性に基づく経済間の優先的貿易措置)の概念が議論に持ち込まれる可能性もある。
再生可能エネルギーとエネルギー効率の世界目標に関するコンセンサスは、手の届くところにあるように思われ、COP28で採択される可能性がある。EUが強く支持するこの目標は、2030年までに再生可能エネルギー発電容量を3倍の11TWhに、エネルギー効率を2倍に改善することを目標としている。したがって、目標に関するコンセンサスは手の届くところにあると思われる。バイデン大統領と習主席の米中サミットにおける米国と中国の最近の合意は、世界の2大汚染国間の新たな協力関係を示すものであった。G20首脳は、世界的な再生可能エネルギー導入 にも賛成している。9月に開催されたアフリカ気候サミットの結論として採択されたナイロビ宣言は、アフリカの指導者たちが、2030年までにアフリカで300GWの再生可能エネルギー発電容量を達成するという目標を掲げたことで、途上国も再生可能エネルギーの導入拡大に前向きと言えるだろう。COP28での議論は、このようなコミットメントを強化するものと期待される。
重要課題3:気候ファイナンス
パリ協定第2条は、各国間の「共通だが差異ある責任」の原則に基づいて実施されるとしている。これは途上国から見れば、COP参加国すべてが気候危機への対応に取り組まなければならないが、歴史的な排出国には途上国の排出削減を支援する責任と能力があることを意味する。
この問題は、グローバルな気候変動対策のガバナンスの中核をなすものであり、具体的には、2009年に先進国が2020年までに途上国に年間1,000億ドル(約15兆円)の気候変動資金を支援するという約束をしたことに集約される。途上国は、気候変動資金がしばしば少なすぎ、遅すぎ、不公平すぎると長い間不満を漏らしてきた。
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