地球が人類にとって安全な活動領域をはるかに超えていることが、地球の健康状態をチェックする史上初のプラネタリーヘルスチェックによって明らかになった。 9つのプラネタリーバウンダリー(※人間が地球上で持続的に生存していくためには、越えてはならない地球環境の境界)のうち6つがすでに侵されており、地球の居住性を脅かす危険地帯へとさらに深刻化し続けている。
※プラネタリーバウンダリーについては、過去の記事を参照ください。
(出典: Planetary Health Check 2024)
本記事は、地球システム科学者ヨハン・ロックストロームとポツダム気候影響研究所(PIK)が主導し、様々なパートナーが支援する新しい「惑星境界科学(PBScience)」イニシアチブが作成した、100ページ近い報告書である「惑星の健康診断」についてまとめたものである。*1
人類と地球上の生命体は危険な状態
2024年「惑星の健康診断」は、新たに組織された「惑星境界科学(PBScience)」イニシアティブによる定期報告書シリーズの第一弾となるものである。
PBScienceは、地球システムの動向を追跡し、毎年「惑星の健康診断」を発表することで、政策立案者に、現在国家と世界の安全保障に深刻なリスクをもたらしている環境悪化に対応するための最新の診断ツールを提供する。 研究チームは、衛星やAIを通じて収集された包括的なデータ、複数の科学分野、そして先住民の知識を結集し、惑星の健康状態を統合的に把握できるよう、前例のない科学パートナーシップを構築することを目指している。
人類はすでにプラネタリーバウンダリーを急速に越えており、また政策立案者に最新の科学データを提供することが急務となっているため、年次報告書が必要とされている。
主な発見
国際的な科学者チームによる初の「惑星の健康診断」によると、9つの惑星の境界線のうち6つが越境しているだけでなく、さらに7つ目は危険なゾーンへと移行している。
その7つ目のバウンダリーである海洋酸性化の進行は、海洋生物、漁業、経済に問題をもたらす。
現在の人類のCO₂排出量に基づけば、この境界は数年以内に破られるかもしれないと専門家は言う。9つのプラネタリーバウンダリーは、地球の居住性を維持するために、地球システムが安全に作動できる限界を示すものである。 バウンダリーを超えると、地球に不可逆的な変化をもたらすティッピング・ポイントを突破するリスクが高まり、人類と地球上の生命体が脅かされることになる。
気候変動のバウンダリーを超えた場合、人類への経済損失は2050年に年間38兆ドル(約5,510兆円)、世界経済への影響は2050年までにGDPが18%減少する。*2
世界は 「危険な新時代 」に突入しつつある
昨年発表された研究では、気候変動、生物圏の完全性、土地システムの変化、淡水の変化、生物地球化学の流れ、(合成化学汚染物質などの)新規物質の導入に関する境界線は、すべて突破されていることが判明した。
「すでに突破されているすべての境界がレッドゾーンにさらに深く入り込んでいる」「我々の最新の調査によれば、地球システムの重要なシステムは弱体化し、回復力の喪失と、(不可逆的な)ティッピング・ポイントを超えるリスクの上昇を招いている」と報告書の著者であり、ポツダム気候影響研究所の惑星境界に関する共同リーダーであるレフケ・シーザー氏は言う。
プラネタリーバウンダリーが破られることで、地球の生命維持機能が永久に損なわれる危険性が高まり、報告書は世界が 「危険な新時代 」に突入しつつあることを警告している。すでに見られる境界線越えの症状には、生物種の急速な絶滅、猛暑、干ばつ、暴風雨、記録的な山火事、農作物や漁業の生産性の低下、淡水の不足などがある。さらに、今回の調査では、海洋酸性化の境界線が越境に近づいており、今後数年のうちに世界的な「安全な活動空間」の限界値を超える可能性があることが判明した。
海洋酸性化の影響
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