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二酸化炭(CO2)素排出量のおよそ7%を占めるセメント生産は、現在最もCO2排出量の多い産業部門のひとつだ。従来のセメントの排出量の約90%は、出来上がったセメント製品のほぼ4分の3の割合を占めるクリンカー(水、砂利、砂を結合させる結合材)の製造によるものである。

通常、クリンカーは石灰石と粘土を回転窯で約1482°C以上に加熱して作られる。クリンカーのCO2排出量の約3分の2は石灰石が加熱される際に、残りは熱を発生させるための燃料の燃焼により放出される。

この問題に対するアプローチとして、①エネルギー効率の改善、②よりクリーンな燃料の使用、③排出される炭素の回収、④代替原料への切り替えなどが挙げられる。本記事では、それらのアプローチを実践するメーカーの最新事例をピックアップする。

①エネルギー効率向上

イギリスのスタートアップ企業Carbon Re*1は、人工知能と機械学習による燃料使用の効率化を目指している。Carbon Reの共同設立者であるエイダン・オサリバン氏によれば、主な問題のひとつはクリンカー製造時の燃料の浪費だ。そこでCarbon Reは、多くの生産者の実際の燃料使用量を分析し、生産目標に必要な最適燃料を予測する機械学習アルゴリズムを訓練している。小さな改善が積み重なれば、大きな効果につながる。「燃料を2%節約することは、1工場あたり何万トンもの炭素を削減することになります。」とオサリバン氏。

CO2排出量の20%を占める重工業には、AI活用の可能性も大いに期待できる。

②よりクリーンな新燃料

燃料の種類を完全に変えようとしている企業もある。世界最大のセメントメーカーのひとつであるセメックス社*2は、持続可能な太陽光燃料のパイオニアとして知られるスイスに本社を置くシンヘリオン社*3と共同で、太陽エネルギーによりクリンカーを製造している。*4

昨年、両社はスペインでの試験プロジェクトで化石燃料を使わずにクリンカーを生産したと発表した。このアプローチでは、鏡が太陽光をソーラー・レシーバーに集光することで窯を約1482°Cに加熱し、化石燃料を使わずにクリンカーを製造する。両社は現在熱エネルギーを貯蔵できるようにすることで、連続的にクリンカー生産を行えるよう開発に取り組んでいる。2030年までに太陽熱を利用したクリンカーの商業生産を目指す。

③炭素回収

シンセリオン社は、上記の太陽熱を利用したクリンカー製造のプロセスにクリンカー製造で排出される二酸化炭素を吸収するための炭素回収を加えることも検討している。国際エネルギー機関(IEA)は、炭素の回収・利用・貯蔵を産業界の排出量削減の手段とみなしている。しかし、現在その導入はまだ途上であると言わざるを得ない状況にある。IEAは、2050年までのネット・ゼロ・エミッション・シナリオ*5の中で、「2030年までに、産業界で排出される二酸化炭素の8%を貯蔵する必要がある。しかし、この分野の技術導入と投資はまだ初期段階にある。」と述べる。

世界最大のセメントメーカーのひとつであるハイデルベルグ・マテリアルズ社*6は、この状況を変えようとしている。ハイデルベルグ社は現在、ノルウェーのブレビックにある工場と併設する形で、セメント工場における世界初の大規模な炭素回収・貯蔵施設を建設中だ。来年末までに生産工程から排出される二酸化炭素の回収を開始する予定で、フル稼働時には年間約40万トンの二酸化炭素を吸収することができる。ハイデルベルグ社は、化学溶剤を使って化学反応により二酸化炭素を回収・吸収する、いわゆるアミン回収を選択した。液化された二酸化炭素はグローバルエネルギー企業のシェル(イギリス)、トタルエナジーズ(フランス)*7、エクイノール(ノルウェー)*8の新しいパートナーシップによって輸送され、ベルゲン市近郊の海底に貯蔵される。

日系企業の低炭素コンクリート技術

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