マイクロソフトは、ブラジルのアマゾンおよび大西洋岸森林の再生を目的として、クライメート・テック(気候テック)のスタートアップであるre.greenと新たな協定を締結した。 *1
本協定により、両社の協力関係は拡大し、パリ市の3倍の面積に相当する地域の森林再生が進められる予定である。 マイクロソフトは、これらのプロジェクトから合計650万トンのカーボン・クレジットを購入する計画である。
目次
追加的に約350万トンの炭素除去
今回の協定は、2024年5月に締結された最初の協定を拡大するものであり、当初の協定では、アマゾンと大西洋岸森林の15,500ヘクタールの地域を再生し、15年間で300万トンのカーボンリムーバル(炭素除去)クレジットを購入することが含まれていた。 新たな協定では、さらに17,500ヘクタールが追加され、約350万トンの炭素除去が見込まれている。
森林再生に特化した気候テック re.green
re.greenは、ブラジルのリオデジャネイロに本拠を置く気候テックのスタートアップであり、
アマゾンおよび大西洋岸森林の劣化した土地の再生を専門としている。 同社の目標は、これらの地域で100万ヘクタールの劣化地を再生し、年間1,500万トンの二酸化炭素を吸収することである。*2
同社の森林再生プロセスには、独自に開発した空間分析技術を用いた劣化地の選定、地域の在来種に基づく再生モデルの使用、地域コミュニティとの協力による森林の再生と保護の推進、そしてプロジェクトの積極的なモニタリングが含まれる。
re.greenのCEOであるチアゴ・ピコロ氏は、「マイクロソフトとの2回目のオフテイク契約の締結は、高い信頼性を持つ自然を基盤としたソリューションへの共通のコミットメントを反映しており、これまでの具体的な成果を示しています。
これらの生物群系の再生は、大規模な脱炭素化の最大の機会の一つであり、マイクロソフトとのさらなる協定の締結により、私たちの影響力を高め、新たな地域に到達できることを嬉しく思います。」と述べている。
森林再生プロジェクトがもたらす多面的な恩恵
両社の協力関係はすでに成果を上げており、現在までに、re.greenは既に80種の在来種からなる440万本以上の苗木が、11,000ヘクタールの劣化または放棄された牧草地に植樹された。今回の取り組み拡大により、ブラジルは自然回復を中心としたソリューションの世界的リーダーとしての役割をさらに強調することになる。
新たな協定では、協力の焦点が3つの地域に拡大される。 これらには、アマゾン森林生物群系の東端、南バイーア州(大西洋岸森林の中央生物多様性回廊の中心地)、およびヴァレ・ド・パライバ(同じく大西洋岸森林の南東生物多様性回廊)が含まれる。
本プロジェクトは、炭素除去だけでなく、自然の森林生態系の多様性、構造、および機能の再構築、固有種や希少種、絶滅危惧種の生息地の増加、地域開発の促進、そして地域コミュニティへの社会的利益など、多岐にわたる利点を提供する。 再生活動や関連活動には、数百人が雇用されている。
2030年までにカーボンネガティブを達成する
カーボンリムーバルとは、大気中に存在する二酸化炭素(CO2)を直接取り除き、地球温暖化の進行を抑制するためのプロセスや技術を指す。単に排出量を削減する「カーボンリダクション」とは異なり、すでに排出されたCO2を取り除くことを目的としている。「カーボンネガティブ」とは、企業や団体が排出する温室効果ガス(主に二酸化炭素:CO2)の量よりも、削減や吸収によって取り除く量を上回ることを指す。これは単なる「カーボンニュートラル」よりも一歩進んだ目標であり、地球温暖化の進行を遅らせるために非常に重要である。
マイクロソフトとre.greenの協定は、2030年までにカーボンネガティブを達成するというマイクロソフトの目標の一環として、同社が進める一連のカーボンリムーバルプロジェクトの一部である。 これには、森林再生に焦点を当てた大規模な自然を基盤とするカーボンリムーバル協定や、海洋系の炭素除去、バイオ炭を利用したプロジェクト、直接空気回収(DAC)協定などが含まれる。
マイクロソフトのカーボンリムーバルおよびエネルギー担当シニアディレクターであるブライアン・マーズ氏は、「マイクロソフトは、ブラジルにおける在来種主導の再生を推進するため、re.greenとの協力を拡大できることを嬉しく思います。 2030年のカーボンネガティブ目標を達成するためには、多様なカーボンリムーバル手法を活用する必要があり、CO₂の隔離だけでなく、社会的および生態学的な成果を同時に向上させる自然を基盤としたソリューションを支援したいと考えています。」と述べている。
カーボンネガティブの重要性
地球温暖化が引き起こす異常気象、生態系の破壊、海面上昇といった深刻な問題の主な原因が温室効果ガス、特にCO2の過剰な排出である。この問題に対処するためには、単に排出量をゼロにするだけでなく、すでに大気中に蓄積されたCO2を取り除き、環境全体のバランスを回復させることが必要である。カーボンネガティブを達成することは、気候変動の進行を遅らせるだけでなく、自然環境を回復し、生物多様性を保全するための重要なステップとなる。
さらに、企業はカーボンネガティブを行うことで、気候変動によるリスクや厳しくなる環境規制への対応に加え、環境意識の高い消費者や投資家からの信頼を会得し、ブランド価値を向上させることを目的としている。また、再生可能エネルギーの導入や効率化を通じてコスト削減やイノベーションを促進し、新たな市場機会を創出し企業の成長と社会的責任を果たすことも戦略のひとつである。
4大ビッグテックのイニシアチブ
マイクロソフトは、このようにカーボンネガティブにむけた単独の取り組みのみならず、他のビッグテックとのイニシアチブを取っている。例えば、Symbiosis Coalition(シンビオシス・コアリション)は、Google、Meta、Microsoft、Salesforceの4社が共同で設立した連合であり、自然を基盤とした炭素除去プロジェクトへの投資を通じて、気候変動対策を推進している。 *3
この連合の目的は質の高い自然再生プロジェクトを促進し、気候変動の緩和、生物多様性の保全、そして先住民や地域コミュニティへの利益をもたらすことで、2030年までに最大2,000万トンの自然由来の炭素除去クレジットを調達することを目指しており、植林、再植林、アグロフォレストリー、マングローブ再生など、多様なプロジェクトを支援している。
マイクロソフトはSymbiosis Coalitionの主要なパートナーの一つとして、自然を基盤とした炭素除去プロジェクトに積極的に資金を提供している。この取り組みは、GoogleやMetaなど他のテクノロジーリーダーが持つ技術的知識や資源と相互補完的に機能しており、各社の強みを生かして気候変動への包括的な対応を実現している。このように、Symbiosis Coalitionは、気候変動という複雑な問題に対して、ビッグテック企業が連携して解決に挑む象徴的な取り組みで、このような企業間の協力は、持続可能な未来を築く上でのモデルケースとなり得る。
まとめ
マイクロソフトとre.greenが進める森林再生プロジェクトは、炭素除去を超えて、生態系の回復や地域社会への利益を生み出すモデルケースとして注目されている。この取り組みは、環境保護と経済的発展を両立させるだけでなく、技術と自然の融合が持つ可能性を示しており、他の企業や地域社会にも持続可能な未来を築くための指針を提供している。
一方で、カーボンリムーバルには依然としてコストや技術的課題が伴う。特に技術ベースの方法はインフラ整備が必要であり、自然ベースの方法にも持続性の課題が残る。しかし、こうした課題解決に向けた研究開発や政策支援が進行中であり、企業や政府がこの分野への投資を拡大することで、より効率的で大規模な炭素除去が実現する可能性が高まっている。
このように、森林再生プロジェクトは地球規模の気候変動という課題に対する重要な柱となりつつあり、その進展と成果がどのように広がるのか、今後の展開に期待が寄せられている。
参考記事
*1 ESG Today、Microsoft Signs Forest Restoration Deal to Remove 3.5 Million Tons of CO2
*2 re.green
*3 Meet the Coalition — Symbiosis Coalition | Nature-Based Carbon Removals