私たちが今後7年間で温室効果ガスの排出量をほぼ半減できなければ、地球温暖化は1.5度を越え、気候変動による最悪の影響に苦しむことになる。これは気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による最新の報告書(AR6)で発表されており、温室効果ガス排出量が増加し続ける現状を見ると達成は一見不可能のように思える。
しかしIPCCは、脱炭素社会を実現するために効果的かつ低費用で実現可能な選択肢はすでに私たちのまわりに溢れていると指摘した。最悪の事態を回避するために、2030年までに最も効果的な対策を示す図表が私たちが従うべきガイドマップを提供する。本記事ではその図表を読み解きながら私たちが今日から行動できる3つのことを紹介する。
*最新のIPCC報告書についてはこちらの記事を参照。
目次
2030年までの温室効果ガス削減ポテンシャル
世界最高峰の科学者チームが175の研究に基づいて作成した以下のグラフを見ていく。横軸は、各分野における2030年までの温室効果ガス削減量のポテンシャルを示す(実線はその不確かさの範囲)。そして色は削減にかかる費用を表しており、青色が安価で、黄色から赤になるほど費用が高価になる。
(出典:IPCC, Sixth Assessment Report)*1
エネルギー
まずエネルギー部門では風力発電と太陽光発電が少ない投資で大きな温室効果ガス削減を実施できることがわかる。このふたつは、現在の電力システムを継続するよりも低いコストで推進できるだけではなく、2030年までに年間80億トンの温室効果ガス排出量を削減できる可能性があり、これは、現在の米国と欧州連合の合計排出量に相当する。一方で原子力発電や炭素回収・貯留(CCS)、バイオエネルギー(木材や農作物を燃やして電気を作る)の温室効果ガス削減量は、風力・太陽光発電の10%にとどまる一方で非常に高い費用が発生するため、削減費用対効果が低いことがグラフから読み取れる。
農業、林業、その他の土地利用
IPCCの科学者たちは、風力発電と太陽光発電の次に重要なのは、森林やその他の自然環境の破壊を食い止めることだと明らかにした。これにより、2030年までに年間40億トンの温室効果ガス排出量削減の可能性があり、現在のアフリカと南米全体から排出される化石燃料の約2倍に相当する。劣化した森林の回復を含めると、追加で30億トン近くの温室効果ガスが削減できる。しかもその多くは、欧州連合(EU)の排出量取引制度による二酸化炭素排出権の価格の半分である、1トンあたり50ドル以下で達成できる。また農業活性化による土壌炭素隔離(酸化炭素の大気中への排出を抑制する手段)や生態系・森林再生も、ほとんどが1トンあたり100ドル以下で約30から40億トンの温室効果ガス排出量削減の可能性があることがグラフから読み取れる。
また、持続可能な食生活、つまりプラントベースの食事への転換や赤身肉の摂取を減らすことで、化石燃料大国であるロシアの年間汚染量に匹敵する17億トンの温室効果ガス排出量を削減することができる。*2
建築
建築物のエネルギー消費を減らすことや、省エネ型の照明や家電を導入することは費用をかけずに始められるかつ両者で約10億トンの削減ができることがグラフから読み取れる。一方で、自家発電などのオンサイトで設置する再生可能エネルギーへの転換やエネルギー効率の良い新しい建物を建築することは比較的高い費用がかかるが、排出量削減ポテンシャルも高い。
運輸
運輸部門はほとんど費用をかけることなく実施できるものが多く、具体的には燃費の良い自動車や電気自動車の普及、公共交通機関、自転車、電動自転車への転換が挙げられる。グラフによると、公共交通機関、自転車、電動自転車への転換は電気自動車の普及よりも温室効果ガス排出量を削減する可能性があり、片方だけではなく同時に進めていくことが大切である。また、植物などの生物から作ったバイオ燃料への転換は比較的費用が高いが、船舶、航空、大型陸上輸送からの二酸化炭素排出の削減が可能なため、短期・中期的に高い効果が予想される。
産業
産業界の温室効果ガス排出量の削減は、省エネ対策が最も費用対効果が高く、材料の効率化、リサイクルの強化、燃料の転換などが挙げられ、どれも高めの費用が発生する。その中でも燃料転換(電化、バイオエネルギーや水素)には1トンあたり20ドルから200ドルを要するが、年間20億トンCO2の削減が期待される。産業の技術開発や生産プロセスの変革などを通してバリューチェーン全体で排出量削減を推進する必要がある。
以上のように、長期的に排出削減を確実に達成し、持続可能な未来を確保するためには、すべての分野で急速かつ広範囲な移行と変革が必要である。特に、風力、太陽光、樹木、省エネ、メタンガス削減、食生活の変革といった解決策に、新しい技術は必要なく、既得権益を押しのけて、効果のある政策を迅速に追求するわたしたちひとりひとりの意志が問われている。
わたしたちにできる3つのこと
- 家や会社の電力を変更する
毎日使う電気だからこそ、再生可能エネルギー100%で電力供給している会社やプランを選ぶことで温室効果ガスの排出量削減に大きな効果をもたらす。さらにそれらの会社を選ぶことによって再生可能エネルギー市場が活性化し、より多くの会社のエネルギー転換を後押しすることにつながる。さらに節電をしたりエコな家電を選ぶと相乗効果が期待できる。余裕があれば、屋根にソーラーパネルを設置したり、次世代エコ住宅の暮らしを目指すこともできる。
- 地産地消を促進する
毎日購入している食材を地域のものに変えるだけで輸送にかかる温室効果ガスを減らすことができる。また日本産の農作物を購入することで農業が活性化し、森林保全や農地保全にもつながる。さらに食事を野菜中心にすると、畜産や加工肉生産によって発生する温室効果ガスを減らすこともできる。
- 公共交通機関や自転車を利用し、車をEVにする
自家用車を使用する回数を減らし、公共交通機関や自転車を使うことで費用をかけずに温室効果ガス削減ができる。同時に自家用車を電気自動車(EV)に変更することも温室効果ガス削減に効果的。
今日から始められる3つの温室効果ガス削減できることを挙げた。これらは簡単だが、費用対効果が高いことが報告書で示されている。温室効果ガスを削減し、地球温暖化を止めることは政府や科学者だけができる仕事ではなく、地球に生きるすべての人にできることである。今日からあなたはなにをはじめますか?
参考記事