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2023年最新IPCC報告書における10の発見

各国の科学者や政府の代表を始め、国際機関等から650名以上が出席する気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第58回総会が、2023年3月中旬にスイスのインターラーケンで開催された。IPCCが今回発表した気候変動の物理科学に関する第6次統合報告書(AR6)から明かされた10の発見について説明する。*1

1) 人類が引き起こした1.1℃の地球温暖化は、近年の歴史上稀にみる異常な気候の変化をさらに加速させている

すでに、地球の気温は産業革命以来1.1℃上昇し、世界のあらゆる地域で海面上昇、異常気象の増加、海氷の急速な消失などの変化が起こっている。気温が0.5度上昇するごとに、極端な暑さ、豪雨、地域的な干ばつの頻度と深刻さが増加しており、さらに温暖化が進めば、こうした変化の規模はさらに大きくなることは以下のグラフからも明確である。

気温上昇 1.5度 2度 3度
熱波の頻度(10年に1回) 2.5年に1回 1.8年に1回 1年に1回
強さ 1.9度上昇 2.6度上昇 5.1度上昇

2) 気候変動が人や生態系に与える影響は、想定以上に広範囲かつ深刻であり、温暖化が進むごとにリスクが急速に上昇する

AR6で報告された最も重大な結論は、気候変動の負の影響は、すでに想定を超える広範囲かつ深刻なものとなっていることである。現在、世界人口の約半数が1年に1カ月以上、深刻な水不足に悩まされており、気温の上昇によってマラリア、西ナイルウイルス、ライム病などの媒介性疾病が蔓延しており、アフリカでは農業生産性1961年以降、農作物の生産性の伸びが3分の1にまで縮小し、さらに2008年以降、異常な洪水や嵐によって、毎年2,000万人以上の人々が家を追われている。

温暖化が1.5度進むと世界の乾燥地帯で9億5000万人が水・熱被害、砂漠化の被害を受け、洪水にさらされる世界人口の割合は24%増加すると言われており、気温の上昇ごとにこれらの脅威は強まるため、地球の気温上昇を1.5度以下に抑えることが非常に重要である。

出典:World Resources Institute

3) 環境対策は効果的にレジリエンス(回復力)を高めることができるが、対策を拡張するためにはさらなる資金が必要である

現在、少なくとも170カ国において気候変動に対する適応策を講じているが、多くの国において、その取り組みは計画から実施に至るまで、小規模で、消極・段階的、かつ直接的な影響や目先のリスクに焦点を当てているものがほとんどである。その理由として、資金が限られていることが挙げられる。IPCCによると、 途上国だけでも、気候変動への適応のために、2030年までに年間1270億ドル(約17兆円)、2050年までに年間2950億ドル(約39兆円)が必要になるとされている中、実際は、2017年から2018年にかけてわずか230億ドル(約3兆円)から460億ドル(約6兆円)のみが適応策の資金となっている。一方で、IPCCは、十分な支援があれば、気候リスクに対するレジリエンスを高め、より広範な持続可能な開発利益をもたらすことができると報告している。

4) 気候変動の影響の中には、すでに対応できないほど深刻なものがあり、損失や損害が発生している

技術的な支援や資金不足、経済的、政治的、社会的な障害によって気候変動への適応に苦戦する脆弱な人々がいる一方、人々や生態系がすでに適応の限界に直面している地域も存在する。例えば、熱帯地方の沿岸部のコミュニティでは、かつて彼らの生活や食料の安定を支えていたサンゴ礁システム全体が広範囲に渡って死滅したことや海面上昇によって、強制移動や文化的遺跡を放棄を強いられた。

今後、気温上昇が1.5度と2度の場合、アジアの都市(特に南アジアと東アジア)では、都市部でのヒートアイランド現象が加速する。高排出量シナリオでは、ほぼすべての都市で極端な気温と降水によるリスクが高まり、淡水の供給、地域の食料安全保障、人々の健康、産業の生産などに影響を及ぼすと予測される。2080年までに、南・東南アジアの9億4,000万人から11億人の都市生活者、特に貧困層が、1年間に30日以上続く猛暑の影響を受ける可能性がある。*2

これらの損失と損害を最小限にとどめるために緊急の対応が求められており、COP27で合意された資金調達手段を今後明らかにしていく必要がある。

5) 気温上昇を1.5度に抑えるために、世界の温室効果ガス排出量は2025年以前にピークアウト、2035年までに65%削減する必要がある

温室効果ガス排出量は過去10年間で着実に増加し、2019年には二酸化炭素換算で59ギガトン(GtCO2e)に達し、2010年に比べて約12%、1990年に比べて54%増加している。IPCCは、世界の気温上昇が2021年から2040年の間に1.5度に達するか、それを超える可能性が50%以上あるとし、特に高排出量シナリオでは、さらに早く、2018年から2037年の間にこの境界に達する可能性があると報告した。

また、炭素排出量の多いシナリオでは、2100年までに世界の気温上昇が3.3度から5.7度まで上昇する可能性も示唆した。気温上昇を1.5度に抑え、最悪のシナリオを避けるには、2025年以前に世界の温室効果ガス排出量をピークアウトさせ、2035年までに2019年比で65%削減する必要がある。

6) 気候危機の第一の原因である化石燃料からの脱却を、世界中で急速に進める必要がある

例えば、温暖化を1.5度に抑え、オーバーシュートを起こさないシナリオでは、2050年までに石炭の燃焼は95%、石油は約60%、ガスは約45%削減されていなければならない。そのシナリオの中では、2050年代前半に二酸化炭素排出量が実質ゼロになるまでに、510GtCO2しか排出することができないが、既存および計画中の化石燃料インフラからの二酸化炭素排出量だけで、この制限を340GtCO2も上回る、850GtCO2に達する可能性がある。

このような排出量の増加を防ぐには、

  • 既存の化石燃料インフラの廃棄、
  • 新規プロジェクトの中止、
  • 化石燃料発電所の炭素回収・貯蔵(CCS)技術による改修、
  • 太陽光や風力などの再生可能エネルギーの拡大(多くの地域で化石燃料より安価)など、

さまざまな戦略が必須である。欧米では石炭火力発電所の廃止が始まっているが、多国間開発銀行の中には、新たな石炭火力発電所への投資を続けているところもある。このままだと、何兆ドルもの財産を失いかねない。

7) ネットゼロで気候変動に耐えられる未来を実現するために、システム全体の変革も急務である

化石燃料は温室効果ガス排出の第一の原因であるが、気候危機に取り組むためには、世界の排出量の80%近くを占める発電、建築物、産業、運輸など、社会全体で排出量の大幅な削減が必要である。例えば、交通・運輸部門では、電気自動車(EV)や電気バスの供給を増やして、移動の必要性を最小限に抑える都市計画や、急速充電インフラの大規模な設置、船舶や航空用のゼロカーボン燃料への投資などによって、排出量を大幅に削減することができる。IPCCは最も温室効果ガス削減効果の大きい解決策を次のようにまとめた。

10の主要気候変動ソリューション

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