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気候変動への適応は失敗している?「2023年適応ギャップ報告書」が警告

ドバイで開かれていた第28回国連気候変動会議COP28が13日、全会一致の合意をもって閉会した。気温上昇における化石燃料排出の役割にくぎを刺し、将来的な石炭・石油・ガスの削減について概要を示したもので、国連は、この合意は歴史的なもので、2015年のパリ協定以来の大きな前進だとしている。*1

しかし、UNEP(国連環境計画)は「2023年適応ギャップ報告書」で、世界中で気候変動のリスクと影響が加速している中、開発途上国が気候変動の影響に適応するために必要とする適応資金は大幅に不足していると警告した。

気候変動対策の遅れの代償は増え続けている

資金不足。 そして準備不足。気候変動への適応に向けた投資と計画のどちらも不十分であるため、適応の進展は、資金、計画、実施という毎年評価される3つの分野すべてにおいて鈍化している。

UNEP事務局長であるインガー・アンダーセン氏は、2023年適応ギャップ報告書の前書きを「2023年、気候変動は再び破壊的で致命的なものとなった。世界的、地域的に気温の記録が塗り替えられた。暴風雨、洪水、熱波、山火事が壊滅的な被害をもたらした。世界は温室効果ガスの排出を緊急に削減しなければならないし、脆弱な人々を守るために適応への取り組みを強化しなければならない。しかしどちらも実現していない。」とはじめた。

「国際社会は、温室効果ガスの排出削減に加えて、途上国の気候変動への適応を支援するために、何十兆円もの資金を投じてこの声に応えるべきである。なのに、裕福な国々はいまだにスヌーズボタンを押し続けている。この決断は、責任を負わなければならない損失や損害が増大するにつれて、自らに跳ね返ってくることになるだろう」と警鐘を鳴らしている。*2

適応は失敗している?

UNEPの「2023年適応ギャップ報告書」は、気候変動適応に関する行動の計画、資金調達、実施の進捗状況を調査したもので、開発途上国の適応資金ニーズは、国際的な公的資金フローの10〜18倍であることを明らかにしている。これは、前回の推定範囲より50%以上高い。

途上国における適応のモデル化されたコストは、この10年間で年間2,150億米ドル(30兆円以上)と見積もられている。国内の適応優先事項の実施に必要な適応資金は、年間3,870億米ドル(約58兆円)と見積もられる。 このようなニーズがあるにもかかわらず、途上国に対する多国間および二国間の公的適応資金のフローは、2021年には15%減少して210億米ドル(約3兆円)となった。

適応資金ニーズの高まりと資金フローの停滞の結果、現在の適応資金ギャップは年間1,940億~3,660億米ドル(約27兆円〜52兆円)と見積もられている。同時に、適応計画と実施は停滞しているように見える。このような適応の失敗は、途上国の気候変動適応資金ニーズと国際的な公的資金フローの差が、縮まるべきところで拡大していることを意味し、特に最も脆弱な人々の損失と損害に甚大な影響を及ぼす。*3

農作物は不作になり、家畜は焼けるような暑さで死に、町や村は流されてしまう

十分な資金調達がなされず、その結果、適応プロジェクトが実施されないという事態は、深刻である。気候危機の責任が最も軽い人々を保護することは、道徳的かつ気候正義的に明らかな要請である。

また、将来のコストを最小限に抑えるために、今すぐ適応策に投資する経済的なメリットもある。報告書は、沿岸部の洪水への適応に10億ドル(約1500億円)投資するごとに、経済的損害が140億ドル(約2.1兆円)減少することを示す研究を引用している。

一方、農業への適応に年間160億ドル(約2.4兆円)投資すれば、約7,800万人が慢性的な飢餓に苦しむのを防ぐことができる。農作物は不作になり、家畜は焼けるような暑さで死に、町や村は流されてしまうことを救うことができるかもしれない。

重要なことは、先進国が気候変動による損失や損害に対する責任を直視するよう求められている中、緩和策と並んで適応策への投資を行うことで、将来のコストを最小限に抑えることができるということである。

気候変動の影響を最も受けやすい55カ国だけでも、過去20年間ですでに5,000億ドル以上の損失と損害が発生している。強力な緩和策と適応策を講じなければ、これらのコストは急増するだろう。

誰かがこのツケを払わなければならないのだ。今すぐの適応策への投資、もしくは将来の負債最も賢明な行動は、適応のための資金を提供する新しい方法を見つけることであり、UNEPの新しい評価では、国内支出の増加、国際的な資金調達の強化、民間部門の関与から始めて、その方法を検討している。その他の方法としては、送金、中小企業への融資の増加や調整、世界的な金融の仕組み改革などがある。

革新的な資金調達メカニズムに移行する

損失・損害基金や、気候ファイナンスに関する新たな集団的定量化目標の設定に向けた議論は、革新的な資金調達メカニズムを確立させる方向への重要な一歩である。COP28は、気候変動適応に関する世界目標に向けて情報を提供し、適応資金ニーズのための強固な枠組みを提供するために、新たな機運をもたらさなければならなかったが、資金調達の話が先送りになったようだ。

国際社会が今日、すべての温室効果ガスの排出を止めたとしても、気候が安定するには数十年かかるだろう。異常気象は長期にわたって続く。国際社会、政策立案者、多国間銀行、投資家、民間セクターは、低所得の脆弱な国々や不利な立場にある人々を気候変動の影響から守るために必要な資金を提供し始めなければならない。そうでなければ、死者が増え、損失と損害が拡大し、今後数十年間に支払わなければならない負債がはるかに大きくなってしまう。

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