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2024年総会シーズン、気候変動関連の株主総会決議に注目

毎年4月から5月にかけて米国で、そして日本では6月頃に、多くの大企業が年次株主総会を開催する。総会では、株主が取締役会専任議案に対する賛否や、サステナビリティ課題に関する懸念やその他の重要事項に関する決議を行う機会である。

2024年の総会シーズン、株主は金融機関やその他の炭素集約型企業に対し、気候変動関連の情報開示を強化し、世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるという世界的目標を達成する道筋と整合する事業戦略を求めている。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、2050年までに世界の気温上昇を1.5度に抑え、排出量を正味ゼロにするというパリ協定の目標を達成するためには、新たな化石燃料プロジェクトの開発を中止しなければならない。従って、金融機関は、化石燃料の新規開発を可能にすることを止めるよう、環境団体や物を言うアクティビスト株主から圧力を受けている。

企業の環境経営を促すために、年次総会での株主の決議は重要な手段のひとつである。誰もが投票できるわけではないが、一般市民は資産運用会社や年金基金に預貯金や退職金の管理を任せている。そのため、責任のある投資家やNGO団体は、主要な機関投資家の資産運用会社が説明責任を果たし、委任状による議決権を行使して企業の透明性向上や気候変動対策の強化を支援するよう働きかけている。

2024年次総会シーズンとその後に注目すべきトレンド

気候関連情報開示の強化で収まらない投資家の要求

今年は、例年通り、情報開示の強化を求める決議が多く見られるだろう。気候変動を含むESG課題に対する企業の取り組みの透明性は、投資家が慎重な投資判断とスチュワードシップの決定を行うために必要な情報を確実に入手するために極めて重要である。近年、投資家は、単なる情報開示だけでなく、より強力な方針と目標を求める決議を提出することも増えている。一方で、米国市場で見られるいわゆる「反ESG」運動が、この種の決議への支持を冷え込ませている。大手資産運用会社はこれまで、より行動志向の決議案への支援に消極的であり、米国証券取引委員会(SEC)は企業からの苦情に応えて他の決議案をいくつか阻止している。

実際、多くの投資家は、情報開示はリスク管理の一部にすぎず、気候変動のような増大するリスクに対応するために企業が事業戦略を適応させる必要性が高まっていることを認識している。情報開示の改善は、企業に期待されることの上限ではなく、下限であると考えるべきである。長期投資家は野心的で科学的知見と整合性のある排出削減目標、移行計画、施策を、成功し強靭なビジネスに必要な要素として企業のESG課題に対する実行力を測っている。

金融システム全体に波及するシステミック・リスク

機関投資家と規制当局は、気候変動が金融市場にシステミックなリスクをもたらし、世界経済にかつてない影響を及ぼすと予想されるとの認識を強めている。投資家は、投資判断だけでなく、スチュワードシップ戦略※に関する判断においても、こうしたリスクを考慮する責任がある。責任ある投資家の気候変動に関する責任は、資本配分の決定にとどまらないことが潮流の考え方になりつつある。

*国連責任投資原則(PRI)によると、スチュワードシップとは投資家が、現在または潜在的な投資先 / 発行体、政策立案者、サービス・プロバイダーまたはその他のステークホルダーに対する影響力を行使し、 全体的な長期的な価値を最大化することを意味する。*3

責任のある機関投資家は、投資先企業に説明責任を果たさせ、世界的な気候変動目標に沿い、実体経済において排出削減を実現するよう後押しする、積極的なスチュワードでなければならないことがESGを重視するアクティブ運用会社の中でコンセンサスになりつつある。今年は、システミック・リスクとしての気候変動リスクの管理と緩和への包括的なアプローチを奨励する決議を投資家が支持することが、これまで以上に重要である。

株式の持ち合いによる金融機関の利益相反

金融機関の年次総会は、利益相反の特異な例として注目される。JPモルガン・チェースゴールドマン・サックスなどの大手銀行の筆頭株主は、ブラックロックやバンガードなどの大手資産運用会社である。一方、同じ銀行の資産運用部門は、大手資産運用会社の株式を大量に保有している。従って、その結果はしばしば明白である。不作為のリスクがますます明らかになっても、これらの企業が互いに反対票を投じることはめったにない。しかし、受託者としては、ウォール街の同業者の機嫌を取ることではなく、顧客の利益を第一に考えるべきであることが健全な企業ガバナンスの面でも問われるだろう。

株主決議への部分的な支持でも重要な意味を持ちうる

株主の議決権行使結果の賛否比率は、ある問題に対する精神的な支持を表すだけでなく、投資資本と権力を表している。これは、過半数の支持を得ることで勝利が決まる政治選挙ではない。賛成比率が10%や20%であっても、大したことではないと思われるかもしれないが、それは変革や反対意見を押し進める相当量の資本を意味する。

企業はしばしば、50%を下回る株主決議に対して行動を起こす。特に取締役会決議では、株主の反対は一般的でないため、取締役に対する反対票の割合が少なくても、不支持の強いシグナルとなる。

2024年の株主総会シーズンに注目すべき気候変動関連の主要テーマと議決事項

1. 1.5度に沿った事業計画を採用しなかった金融、電力、石油・ガス会社取締役に対する反対票

注目ポイント

取締役会の役員は、気候変動関連リスクの管理・軽減方法を含め、企業の方向性を決定する上で重要な役割を果たす。取締役の専任・解任に関する議決権行使は毎年行われるため、環境経営やESGに特化したテーマに関する株主決議が提出されていなくても、投資家は重要な問題に対する取締役会の対応について意見を述べることができる。銀行や資産運用会社が脱炭素社会への移行に果たす重要な役割を認識し、投資家は金融機関を含め、コーポレート・ガバナンスの強化を求める重要な手段として取締役の専任議案への関心を高めている。

米国企業に対する主な決議案

- 米国の銀行:ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカでは、取締役が石油・ガス事業への新規取り組みに関する除外方針を持たなかったり、石油・ガス部門への投融資にかかる排出量の絶対排出量目標を設定しなかったりしたことで、「反対票を投じる」キャンペーンに直面している。

- 米国の資産運用会社:投資家は、石油大手サウジアラムコのアミン・ナセル最高経営責任者(CEO)のブラックロック取締役への再選に反対している。

- 米国の保険会社:チャブ、ハートフォード、トラベラーズ、W.R.バークレーでは、引受や投資に関連する(スコープ3)排出量の開示を怠ったとして、取締役が「反対票を投じる」キャンペーンに直面している。

- 米国の石油・ガス会社:エクソンモービル、コノコフィリップス、オクシデンタル・ペトロリアムなどに対して、一部の投資家は、スコープ1と2の排出量および関連するスコープ3の排出量の少なくとも95%をカバーする中期的な排出量削減目標を持たない石油・ガス会社の取締役会全員に対して反対票を投じることを推奨している。また、政策への関与の評価が低いなど、それ以外の理由で1.5℃の目標達成に沿った削減経路とのずれがある石油・ガス会社や電力会社(シェブロン、バークシャー・ハサウェイ、NRGエナジー、サザンカンパニー、WECエナジーグループ、ドミニオン・エナジー、デューク・エナジー、ファースト・エナジー、PPL)の取締役は、専任議案に対する反対票に直面している。

日本企業に対する注目決議案

日本のメガバンク3行と中部電力を対象とした気候変動関連の株主提案が発表されている。環境保護団体を中心とする株主の連合は、中部電力とメガバンク3行が2050年までに排出量をネット・ゼロ(実質ゼロ)に削減するため、より具体的な情報開示を求める決議案を提出した。

今年の新たな株主決議は、投資家が、4社それぞれの取締役会が気候変動に関連する事業リスクや機会について適切な監督を行うために必要な能力や人材を有しているかどうかを評価するための情報開示を求めるものである。

メガバンク3行に対する期待事項

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