気候変動対策への設備投資額は過去最高を記録しているが、今世紀半ばまでに世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロ（ネットゼロ）にするために必要な額にはまだ満たない。脱炭素分野への投資の拡大が期待される中、シンガポールの政府系投資ファンドGICは、さまざまな脱炭素技術から期待される投資価値の増分を分析する新たなフレームワークを開発した。
GICの調査によると、気候変動ソリューションのサプライチェーンは、2030年までに5兆～11兆ドル（約740〜1600兆円）の追加投資価値をもたらす可能性があり、2050年までにネットゼロを達成するための世界経済の移行に伴い、電力ネットワーク、再生可能エネルギー、持続可能な自動車などの成熟したソリューションが最も有望な機会となる。銅、リチウム、水素、建物の暖房ソリューションも、低炭素ソリューションへの移行に合致した重要な投資機会を提供する。
気候変動対策への投融資の拡大の重要性
2023年の国連気候変動会議（COP28）を含め、気候変動対策への投融資の拡大の必要性は、金融業界の議論の焦点となっている。ブルームバーグNEFの推計によると、2022年には1兆1,000億ドル(約160兆円)、国際エネルギー機関（IEA）の推計によると、2023年には1兆7,000億ドル(約250兆円)に達する。しかし、COP28で政府や企業が追加的な資金拠出を約束したとしても、投資額は2050年までにネットゼロを達成するために必要な資金の数倍に満たないままである。
さらに、すべての投資が、投資家の受託者責任を満たす適切なリスク・リターン・プロファイルを有しているわけではなく、気候変動と投資の時間軸はしばしばミスマッチしている。気候政策イニシアティブ（CPI）によると、気候変動資金全体が増加する一方で、企業、投資ファンド、機関投資家からの民間資金調達の割合は、2018年の30.6%から2022年には15.2%に減少している。
気候変動資金に関する正確なデータを把握することは難しいが、相対的な民間セクターの貢献の減少傾向は、資金ギャップを超えて気候変動資金に関する議論を発展させる必要性を浮き彫りにしている。
投資家がエネルギー転換というメガトレンドへの潜在的なエクスポージャーを評価する方法を提供するため、GICは将来の気候シナリオにとらわれないフレームワークを開発した。このアプローチは、バリューチェーン全体にわたる投資機会を総合的に捉えるものである。気候変動対策プロバイダーだけを対象とするのではなく、資本財プロバイダー、原材料メーカー、低炭素燃料サプライヤーも含まれる。
2030年までに5～11兆ドル
GICの調査では、財務データと予測収益成長率に統計的手法を適用することで、気候変動ソリューションのサプライチェーンにおける増分企業価値の総額は、2030年までに5兆ドルから11兆ドル（約740〜1600兆円）に達すると推定している。
このレンジは、IEAの2つの気候変動シナリオを参考に算出されている。保守的なStated Policies（STEPS）シナリオは、既存および発表済みの枠組み以外にこれ以上の政策変更がないと仮定したもので、よりアグレッシブなネットゼロ（NZE）シナリオは、今世紀半ばまでに世界のエネルギー部門がネットゼロを達成する道筋をモデル化したものである。
GICは、各シナリオについて、代表的なプロジェクトに必要な設備投資、原材料投入、低炭素燃料のニーズを検討し、関連するサプライチェーン・セグメントの収益機会を特定した。GICは、技術横断的なバリューチェーンセグメントのセットを用いて比較可能な企業グループを構築し、過去の財務実績を分析することで、将来の企業価値と、負債、公開株式、未公開株式におけるそれぞれの投資機会規模を推定した。
GICは、上場株式に基づいてグリーン経済の規模を算出するFTSEラッセルの最近の調査に基づき、株式市場が世界の国内総生産（GDP）に合わせて成長するのであれば、グリーン経済は推定年率7～11％で成長し、現在の世界の上場時価総額の約8％から2030年までに約12～17％まで拡大する可能性があると予測している。
有望な成熟した投資可能なソリューション
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