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コロナショックが世界経済を揺るがす今、ESG投資は成功したのだろうか?
誰もが知る通り、今まさにコロナウイルスは生活を混乱させ、世界経済と金融市場を揺るがしています。
それでは、安定的かつ収益率が高いと期待されているESG投資は、そんな株式市場の混乱の中で、市場平均を上回り、成功を収めることが出来ているのでしょうか。
S&P、Bloomberg、Morningstarなどの世界大手の情報ベンダーや、世界大手銀行のHSBC、そしてよりアクティブなエシカルファンドなどは、気候変動やESGへの対応が優れている企業の株価の変動を分析しています。
それぞれの主な分析結果をまとめてみました。
結果は非常に興味深いものでした。コロナが世界的に拡大し始めてから、市場は大幅に下落しましたが、ESG投資の収益率は平均よりはるかに上回っていたのです。その理由にも迫ります。
HSBC (ESG銘柄は平均より+7%〜13.6%)
2019年12月10日〜2020年3月23日の間の、気候変動対策が優れた世界的企業613社の株価とESG評価が高い140社の株価を世界市場平均において比較したところ、気候変動に優れた企業は市場平均を7.6%上回り、ESG株は平均を7%上回っていました。アジア太平洋地域に限定した場合では、更にパファーマンスが目立って高く、それぞれ市場平均の価格を13.6%(気候変動株)と8.9%(ESG株)上回っていました。
ブルームバーグ(平均ESGファンドは市場より11%得)
ブルームバーグの分析によると、同社が追跡した2800本のファンドのうち、ESGファンドの平均価格は今年3月14日時点で平均12.2%減少しましたが、スタンダード&プアーズのトップ500社(S&P500)の23.2%の下落と比較すれば、平均を11%超えています。これは大きな転落ですが、S&P 500インデックスによる同時期の減少と比べてその半分にすぎません。
モーニングスター(サステナブルファンドの3分の2は上位半分にランクイン)
金融サービス会社の大手であるモーニングスターによる、約200の米国ファンドの個別の分析でも、ESGファンドの価値は下落しましたが、従来の平均ファンドよりはるかにパフォーマンスが優れており、過去1か月間で、サステナブルな企業に集中した株式ファンドの3分の2は、それぞれの同業他社グループのファンドの収益率の上位半分にランクインしています。
エシカルな基準を設ける上場投資信託(ETF※)も市場を上回っています。
BetaSharesが提供するオーストラリアの株式ファンドで、エシカルな基準で投資判断されている「FAIR」と同様にスクリーニングされている国際的な株式ファンド「ETHI」は、どちらも平均ETFよりも優れたパフォーマンスをみせています。
FAIRは現在までに20.77%減少していますが、オーストラリア市場トップ200社(ASX200)は25.99%減少しています。これは、エシカルETFが平均よりも5%以上値下がりを抑えたことを意味します。
国際株式ファンドETHIは7.78%低下し、MSCI世界市場指数は10.26%低下しています。これは、エシカルファンドが世界市場平均よりも2.5%優れた結果を出していることを意味します。
なぜESG投資が平均より下振れが少ないのか?
ESGファンドや銘柄が従来の同業他社に比べてパフォーマンスが優れていることには、いくつかの理由があります。
- ESGファンド、特に基準が高いエシカルファンドや低炭素ファンドの場合、気候変動への影響を考慮し、化石燃料関連企業の保有を大幅に減らしているか、または除外しているものが多いです。つまり、今年初めにサウジアラビアとロシアの間で石油価格戦争が勃発したときに、すでにそれらのESGファンドはそのセクターの市場変動から隔離されていたため、コロナショックによる石油需要の減少による株価急落を回避できたと言えます。
- ESGファンドは、石油やガスへの依存が大きく大気汚染に加担する他の産業(航空会社やクルーズ船など)への投資も制限する傾向があり、コロナウイルスの混乱による海外旅行の急激な減少を受けた旅行関連企業の価格崩壊にはあまり影響を受けていません。
- ESGファンドは、サプライチェーンについて透明性のある企業に、より積極的に投資する傾向があります。というのも、サプライチェーンに関するデータを提供する企業はそのコアビジネスに影響を与えうるリスクが特定しやすいため、今回のパンデミックでも、発生している供給の混乱を回避できている可能性があります。
- ESGファンドは多くの場合、ガバナンスに強い企業に特に重点を置き投資先企業としていますので、不安定な期間でも投資先による的確な対応が期待されます。
まとめ
コロナショックに対するESG投資の成果に関して、様々な調査機関や金融機関の分析を探ると、結論は一致します。コロナショックは市場全体の下落を引き起こしていますが、ESG投資は平均より安定的で、株価は平均より上回る結果を打ち出しています。どのESGファンドも市場全体が下落していく一方で、儲けを見せる例は少なくはあれども、投資先企業の選定によって最悪のロスは抑えていることは明らかです。このコロナショックは、投資には常にリスクが付くものであることを私達に改めて思い知らせることとなりましたが、ESGの実力は簡単には破られません。今後も投資リスクを低減できる要素としてESGはさらに注目されるでしょう。
参考記事
HSBC
https://www.gbm.hsbc.com/insights/global-research/esg-stocks-did-best-in-corona-slump
Morningstar
https://www.morningstar.com/articles/972475/sustainable-equity-funds-are-outperforming-in-bear-market
用語リスト:
※ETF:上場投資信託(Exchange Traded Fund)とは、証券取引所に上場している投資信託です。