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投資家が懸念する最大のESG問題とは?

環境問題(E)、社会課題(S)、企業統治(G)への取り組みが優れた企業を比較する評価指数は様々ありますが、年金基金や保険会社を含む「機関投資家」が現在最も懸念するESG課題は何かご存知ですか?

国連が2006年に設立した責任投資原則(PRI)に加盟する2,300以上の機関投資家が、ESGのそれぞれの重点課題の中、最も注目するテーマは気候変動です。経済界のトップや多くの首脳が毎年集まる世界経済フォーラムで今年1月に発表されたグローバル・リスク・レポートによりますと、今後グローバル経済に打撃を与える重大なリスクのトップ5はすべて環境関連で、その中、気候変動の壊滅的影響に対応しきれない失敗が最大のリスクであると警鐘を鳴らしています。

投資家が気候変動を懸念する理由は主に3つあります:

1) 気候変動がもたらす物理的影響「物理的リスク」
2) 気候変動を防ぐための緩和対策に伴う市場の変動「移行リスク」
3) 気候変動を引き起こした企業に対する訴訟「訴訟リスク」

目次

その1:物理的リスク

産業革命前に比べると、地球の平均気温は人間活動によって1℃上昇しているのが事実です。今までのペースで、大量の二酸化炭素を放出する石炭、石油、天然ガスなどを燃やし続けた場合、今世紀後半に地球の平均気温は産業革命前に比べて+3.2℃〜5.4℃まで上昇してしまい、人類の存続が危険にさらされる環境を生み出してしまうということが世界の科学者によって予測されています※1。+1℃で、高温、熱波、異常気象、集中豪雨、台風、干ばつ、森林火災などの発生が頻発化し、過去30年間で気象災害の発生率は2倍以上増えています※2。近年日本で起きている異常気象による自然災害の規模が拡大した影響で、経済的損失も増加傾向にあり、気候変動が進めば進むほど経済への打撃が深刻化することが予測されています。

その中、投資先企業が気候変動に伴う物理的リスクによってビジネスがどのように影響されるか、そして今後起こりうる変化に適応する戦略を打ち出しているかが重要な評価基準の一つです。気候変動の影響で巨大化する台風に脆弱な建物や沿岸地域、高温・洪水の深刻化によって収穫量が減る食材や、海水の温度上昇によって獲れなくなる魚介類など、温度上昇は国内の様々な産業にすでに悪影響を及ぼしいていることが年々明らかになっています。これらなどの物理的リスクが国内外の投資先企業のサプライチェーン、資産、製品、そしてビジネスモデルにどのような影響を及ぼすかをしっかり分析し、適応できるよう組織的に備えている企業が高く評価されます。

その2:移行リスク

国際社会は気候変動に伴う壊滅的状況を回避するためには、温度上昇を2℃未満に抑え、可能な限り1.5℃未満に抑えるための努力をすると合意しています。その気候変動対策の中核として、2030年までに全世界の年間二酸化炭素排出総量を約半分にし、2050年までには実質ゼロにすることが、各国政府と民間セクターに求められています。そんな中、「ネット・ゼロ・エミッション」(実質排出ゼロ)という目標を掲げている政府機関や民間企業の動きが活発化しています。一方で、CO2排出量が非常に多いエネルギー・運輸・製造業などの分野では、ビジネスモデルの根本的な改革が求められており、気候変動対策が遅れている企業の価値が下落するリスクが高まっています。

移行リスクの主な要因には、方針転換、規制強化や市場の変動があります。多くの国や地域がCO2排出量を抑えるための取り組みを強化する中、排出量の多い事業活動は厳しく規制される可能性が高まっています。同時に、技術革新によってCO2排出量の少ない代替エネルギーや商品が急速に安くなっていくことで、火力発電やCO2排出量の高い事業活動の経済的合理性が下がっています。このような市場の変動の他には、気候変動に対する問題意識が高まる中で、環境負荷の大きい生産方式で作った商品は消費者の支持を得られなくなり、業績も落ちる可能性があります。

このように、「ネット・ゼロ」への移行に優れていない企業はリスクが高いと見られており、脱炭素社会の実現に優れた技術を持つ企業や、サプライチェーン全体によって発生するCO2素排出量をゼロにする目標を掲げる企業は高く評価されます。

その3:訴訟リスク

気候変動に伴う経済的損失が増加し、生命や財産を脅かす原因として、温室効果ガスの排出元の企業などを提訴する「気候変動訴訟」が増加しています。2019年7月の時点で、企業や政府に気候変動対策の適切な実施を求める訴訟は1300件を超えています※4。
近年目立った例の1つはニューヨーク市の気候変動訴訟です。気候変動が起因する台風の巨大化によりニューヨーク市が受けた経済的損失の原因の一つとして、大手石油会社のトップ5社が今まで排出してきた二酸化炭素排出量を掲げ、同企業の損害賠償責任を追求する裁判が行われています。日本国内でも、神戸市の住民が同市に計画中の石炭火力発電所が地球温暖化問題の悪化に加担するとして、その発電所の建設中止を求め、建設に関わる神戸製鋼に対する訴訟を起こしています。排出元の企業に対する「気候変動訴訟」以外にも、年金基金の運用責任者が気候変動リスクを考慮していない投資判断をされている場合、年金加入者が同基金の責任者に対して、適切な資産運用を実施していない疑いで受託者責任を追求する訴訟も起きています。
このように、気候変動対策は企業の社会的責任として捉えはじめている時代の中、積極的に緩和対策に取り組まない企業は訴訟対象になる可能性があり、リスクの高い投資先として見られます。一方で、気候変動問題に対して真正面から取り組む企業体制は高く評価され、企業の信頼性にも繋がっています。

まとめ

現在世界各地で多発する異常気象や自然災害は気候変動により深刻化する中、世界の投資家は気候変動が最大のリスクとして捉え始めています。課題解決を重視するESG投資が年々伸びることで、気候変動対策に取り組む企業に資本が集まり、取り組まない企業は資金調達が困難になる時代が始まっています。気候変動の時代に生き残る企業を選別する手法として、ESGはますます重要な観点となるでしょう。気候変動に伴う物理的リスク、移行リスク、そして訴訟リスクへの対応が優れている企業がESG投資家に高く評価され、株価にも反映されることが期待されます。

ESG投資の新潮流の背景に気候変動が大きな存在であることは間違いありません。世界最大手資産運用会社ブラックロックのCEOラリー・フィンクが今年1月に公開した企業向け書簡に気候変動リスクは投資リスクであるという認識を明らかにし、「気候変動が企業の長期的業績を決定する主因になりつつある」と延べ、市場の変化について「予想以上に近い将来、投資資産の大幅な入れ替えが起こる」と指摘しました。

ESG投資家は、気候変動対応で特に優れた企業を選ぶことが常識になりつつあります。次回のブログでは、気候変動対応が優れた企業の選び方に迫ります。


 

出典:

※1:気候変動に関する政府間パネル(IPCC) WG1 第5次評価報告書、2013。

※2:ミュンヘン再保険会社(MunichRE)、2020。

※3:気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 1.5℃特別報告書、2018。

※4:Sabin Center Climate Change Litigation Database (www.climatecasechart.com)、2019。

 

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