国連気候変動会議COP30はブラジルで開催され、18時間超の延長協議の末に合意へ到達したものの、化石燃料削減の新たな約束は盛り込まれなかった。最終文書からは「化石燃料からの移行」の文言が削除され、適応資金や実施面でも対立が表面化し、多くの国が失望を表明した。一方で、脱炭素社会への移行への協力継続や適応分野での前進も示され、議論はCOP30後も続く見通しである。
COP30閉幕に見る化石燃料論争と残された国際的課題
COP30気候サミットが、2025年11月10〜21日にブラジル・パラー州ベレンで開催され、22日に最終合意に到達した。*1 約18時間以上の延長協議にもかかわらず、化石燃料削減に関する新たな拘束力ある誓約を確保できず、ブラジルの議長アンドレ・コレア・ド・ラゴは、一部の参加国に「より大きな野心」があったことを認めつつも、最終合意文書からは「化石燃料からの移行(transition away)」という直接的な文言が削除された。会合はコロンビアの強い異議により一時中断され、同国は化石燃料に関する文言の追加を要求したが、ド・ラゴは半年後の中間会合で議論を再開できると約束することで事態を収束させた。結果として、化石燃料や森林についての新たなロードマップや明確な実施計画は打ち出されず、多くの参加者が「非常に失望」と評価する一方、産油国など一部の国々は自国のペースでの移行を認める今回の妥協案を受け入れている。*2
本会議は議長国ブラジルが「実施のCOP」と位置づけ、世界が何をすべきかではなく、それをどう実現するか、すなわち既存のコミットメントを具体的な行動へと落とし込むためのツールや指標、プロセスを詰めることを狙いとしていたが、実際には気候資金、貿易措置、排出削減経路などをめぐる深い対立が最後の瞬間まで進展を妨げた。他方で、IISDのパトリシア・フラー社長が指摘するように、ベレンでは深刻な分断が露呈した一方で、化石燃料からの移行に向けて各国が協調を続けようとする強い意欲も示されており、この議論はCOP30後も継続していくと見込まれる。また、気候変動の影響への「適応」は会議全体で大きな注目を集め、ムチロン(Mutirão)決定は、適応資金を交渉のテーブルに留め置くとともに、気候変動の影響を最も受ける国々を支援しようとする政治的意思を再確認するものとなったと評価されている。*3
新たな気候資金ワークプログラム
COP30では公式議題ではなかったものの、気候資金が大きな焦点となった。議論の中心には、昨年バクーで採択された「気候資金の定量化された共通目標(NCQG)」を各国がどのように達成していくのか、特にパリ協定第9.1条の下で公的資金の提供をどのように拡大するかという点が据えられた。こうした議論を踏まえ、議長国が提示し締約国が採択した政治的ハイレベル文書「ムチロン決定」は、この課題の緊急性を明確に認識し、バクーでのコミットメントの実施を継続的に議論するため、2年間の気候資金ワークプログラムを新たに創設した。ムチロン決定は、気候資金だけでなく、一方的貿易措置、各国のNDCがパリ協定と整合していないことへの対応、排出報告の強化という四つの争点を包括的に扱う政治パッケージとして位置づけられている。
このプログラムは、2035年までに途上国向けの公的・民間資金を合わせて年間少なくとも1.3兆ドル(約201.5兆円)へ拡大するという「バクーからベレンへのロードマップ」に対し、政治的フォローアップの場として機能し得る。これは今後10年間における途上国の気候行動を支えるうえで不可欠な資金である。また、途上国がバクー決定で掲げた年間3,000億ドル(約46兆5,000億円)の動員目標を達成するため、先進国による公的資金提供の継続的な拡大を求める場としての役割も担う。
適応資金の3倍化、しかし提供は遅延
ムチロン決定では、2035年までに適応資金を3倍に引き上げることも求められた。この新目標は、COP26(グラスゴー)で掲げられた従来の目標終了後も取り組みを継続するものであり、拡大する適応資金ギャップへの対応が急務であることを示す重要な政治的メッセージとなっている。先進国に対し、支援拡大を維持する圧力としての役割も期待される。
一方で、この目標は途上国および市民社会がベレンで求めていた水準には届かない。当初は2030年目標として提案されていたものが2035年に後退し、基準値も示されていないためである。気候影響が悪化する中で2035年という時期設定は遅く、途上国の急速に増大する適応ニーズを満たすには不十分であり、地域社会・経済・生態系の保護に必要な行動を遅らせる懸念がある。実際には、LDCs(後発開発途上国)や小島嶼開発途上国(SIDS)が2030年までに適応資金を年1,200億ドル規模に引き上げることを強く主張する一方で、欧州諸国などはこのテキストに反対すれば「途上国向け資金を阻む側」とみなされかねないとの懸念から、緩和面での譲歩と引き換えに2035年の3倍化目標を受け入れたとの指摘もある。*4
争点となった適応指標
今回のCOPで重要課題の1つと位置づけられたのが、グローバル適応目標(GGA)の指標セットに関する合意であった。この技術的プロセスは、ムチロン決定の下で議論された適応資金の高レベル交渉とも密接に結びついていた。しかしCOP30は、最終的にGGA指標に関して統一的な成果を得ることができなかった。
採択された60の指標リストには、世界全体の適応状況を評価するための主要項目が含まれており、実施手段(資金、技術移転、能力構築)の追跡指標、ジェンダー対応の適応政策に関する指標、さらにジェンダー、年齢、地域、生態系別の分解提案も盛り込まれている。しかし、過去2年間にわたり専門家グループが作成してきた指標に対し、会期末に急きょ変更が加えられたことで信頼性は損なわれ、実務での運用が困難になるという懸念が指摘されている。閉会総会での混乱や異議もあり、今後の技術作業の方向性は不透明で、2027年まで継続的な改訂が行われる可能性も示されている。
各国は適応に関するモニタリング、評価、学習(MEL)システムの強化を進めているが、今回採択された指標では十分な指針が得られず、第二回隔年透明性報告(BTR)や第二回グローバルストックテイクに向けたエビデンス形成に影響が出る可能性がある。また、2年間にわたる交渉の末、国家適応計画(NAP)評価の決定も採択された。NAP評価は途上国の適応計画や実施における進展を認識する一方、必要な資源や気候情報へのアクセスに関して依然として大きな課題があることを示した。さらに、先住民の知識や伝統的知識、ジェンダー対応アプローチの統合、自然に基づく解決策(NbS)や生態系ベースの適応の可能性が強調された。しかし、NAPプロセス拡大のための具体的支援策は示されず、適応主流化や生物多様性国家戦略・行動計画(NBSAP)との政策整合性といった重要な要素が欠けている。
化石燃料からの移行ロードマップ、88か国賛同
会場全体で共有されていた最大の問いは、「化石燃料からの移行、化石燃料補助金の廃止、再エネ3倍化という国際的コミットメントをどう前進させるのか」、そして「各国のNDCに存在する野心ギャップをどう埋めるのか」であった。
最終盤までに88か国が、化石燃料からの移行ロードマップ策定を支持し、この内容をムチロン決定に盛り込むよう求めた。しかし、
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