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経団連を主導する「7つの業界」が日本のエネルギー政策の遅れに大きく関与  英団体が発表。

英国の研究機関「インフルエンスマップ」はこのほど、GDPの1割に満たない化石燃料関連・炭素排出量の高い一部の業界が、日本の気候変動・エネルギー政策に大きな影響を与えているという調査報告書を発表した。その一方で、気候変動対策を先進的に進めている企業・産業の声はあまり反映されておらず、日本は未だ石炭への依存度が高い国となっている。このような脱炭素化遂行の遅れが続く日本の状況に対し、機関投資家からは懸念の声が上がっている。

その業界は、鉄鋼、電力、自動車、セメント、電気機器、 石油・石油化学、石炭関連の7つである。これらの業界は、日本最大の経済団体であり、日本のエネルギー政策の決定に重要な役割を果たしている日本経済団体連合会(経団連)の中で大きな影響力を持っている。そのため、これらの業界の意見がそのまま経団連の意見、ひいては日本産業界の意見として気候変動・エネルギー政策に反映される傾向にある。

実際、経団連の構造は、化石燃料を多量に消費する炭素集約度の高 い業界の主導になっていることから、気候変動に関する経団連としての見解が概して後ろ向きなの は当然と言える。同調査報告書では、これら7つの業界が業界団体を通じて積極的に国の政策に働きかけていると指摘。「パリ協定と整合する気候変動政策に反対の立場をとっていることが示された」としている。

具体的な気候変動政策に対するこれらの7つの業界の働きかけとして、主要な政府の委員会に参加し、エネルギー政策に影響を与え、政府との協議において 詳細にわたり提言を行うという特徴が見られる。

また、とりわけエネルギー基本計画やパリ協定に基づく成長戦略 としての長期戦略、地球温暖化対策などの主要 政策に対して働きかけがなされるという特徴がある。

エネルギー基本計画とは、経済産業省によって考案 され、日本のエネルギーに関する政府の方針を定めるとともに、エネルギーミックス(再生可能エネルギー、石炭、天然ガス、原子力の電力構成)検討の基礎となるものである。

それゆえ本計画は、日本の電力 会社や化石燃料を大量消費するセクターによる戦略的政策関与の対象になっている。結果としてG7の中で唯一、石炭火力発電所を大幅に新設しようとしているほど、石炭への依存度が高いエネルギー政策になっており、世界的にも批判の対象になっている。

このように日本のエネルギー政策が石炭寄りになっていることは、化石燃料関連・炭素排出量の高い一部の業界によるロビー活動の影響が大きいとされている。

一方、小売、金融サービス、物流(ロジスティクス)、建設、不動産などの主要セクターを代表する業界は「パリ協定と整合する気候変動政策に前向き」だが、政策立案への働きかけをほとんど行っていない。これらの主要セクターは、日本のGDPの70% 近くを占めており、同国における雇用と今後の経済成長において重要な役割を担っている。 

その反面、日本国内にも脱炭素化に向けて積極的に政策への関与・働きかけをしている企業も一部存在する。イオン(株)や富士通(株)、(株)リコー、三菱地所(株)などの優良企業が加盟する複数セクターにまたがる組織である日本気候リーダーズ・パートナーシップ (JCLP)は、とりわけ再生可能エネルギーにまつわる気候変動政策の強化を積極的に支持しており、日本政府に対して「日本の電源構成における“2030年に再エネ比率50%”の達成を目指し、政策を総動員」するよう要請している。その数値は第5次エネルギー基本計画における日本の現行の「22-24%目標」の2倍以上になる。また、6月には新型コロナウイルス後の経済回復策について提言を出し、脱炭素社会への転換を加速するよう政府に求めた。

しかし、今の現状から判断すると、それら多数の企業および業界の声が政府の気候変動・エネルギー政策に反映されているとは言えない。*

*セクターにおける気候変動対策への関与と姿勢 (出典:InfluenceMap)

日本におけるエネルギー政策の立案と実施は、経団連、経済産業省、内閣官房(自民党)との間に築かれた緊密な協力体制のもとで策定されている。

気候変動政策に関しては環境省の領分とされているが、エネルギー政策による影響は気候変動にそのまま直結するため、その意味で、実質的には気候変動分野も環境省の領分ではないという現実がある。エネルギー政策に関しては、経産省の領分であるため、環境省の影響力は小さい。

経団連は「経済界が直面する内外の広範な重要課題について、経済界の意見を取りまとめる」と述べているが、気候変動・エネルギー政策への働きかけに関して言えば、この声明は真偽を問われるべきであろう。

そのような脱炭素化遂行の遅れが続くことに対し、機関投資家からは懸念の声が上がっている。総額40兆ドルに及ぶ資産を保有する450の機関投資家が参加・支援している気候変動アクション・イニシアチブClimate Action 100+は、世界的に拡大している気候変動政策に後ろ向きな企業のロビー活動の問題を最優先課題として扱ってきた。今後も気候変動対策に後ろ向きな業界団体も投資家からターゲットにされるだろう。 

日本の気候変動関連の政策に対して経済界の意見を公平に反映するために、複数セクターにまたがる有力経済団体の透明性とガバナンスの改善と共に、ESGへの取り組みを重視するより多くの企業による前向きな気候変動政策への積極的な働きかけに期待したい。


参考記事:

ロイター: https://jp.reuters.com/article/coal-japan-industry-idJPKCN2523EU

インフルエンスマップ(調査書本文): https://influencemap.org/presentation/Japanese-Industry-Groups-and-Climate-Policy

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