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アフリカで広がるインパクト投資

経済的リターンだけでなく、社会的リターンも同時に追求することを目指すインパクト投資が、世界的に注目を集める。今回のブログでは、そのインパクト投資が急速に広がるアフリカの事例について徹底解剖していく。

1. インパクト投資とは

インパクト投資とは社会面・環境面での課題解決を図ると共に、財務的な利益を追求する投資行動のことを指す。従来の投資は「リスク」と「リターン」という2つの軸による価値判断が下された。これに「インパクト」という3つ目の軸を取り入れた投資、かつ、事業や活動の成果として生じる社会的・環境的な変化や効果を把握し、社会的なリターンと財務的なリターンの双方を両立させることを意図した投資を、インパクト投資と呼ぶ。
The Global Steering Group for Impact Investment (GSG)、「インパクト投資拡大に向けた提言書2019」
「インパクト投資」は、通常の投資と同様に一定の「収益」を生み出すことを前提としつつ、個別の投資を通じて実現を図る具体的な社会・環境面での「効果」と、これを実現する戦略等を主体的に特定・コミットする点に特徴がある。
金融庁、「インパクト投資等に関する検討会」報告書、2023年案

インパクト投資と比較されやすいものにESG投資がある。ESG投資とは、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス (Governance)」に関する課題に対し、企業がどのように取り組んでいるかを基準に投資先を選ぶ投資方法である。ESG投資では、持続可能な企業への投資を通して環境や社会にプラスの影響を与えることを目指しているが、個々の企業に対する個別の投資を通じた効果まで必ずしも勘案するものではない。それゆえ、より個別・明確に、個々の企業・事業に対する投資を通じた改善効果を把握・勘案し、投資を行うことへのニーズも高まっていき、社会的な問題や環境課題に直接的な解決策を提供するような企業やプロジェクトに投資し、社会的な変革を実現することを目指しているインパクト投資の市場拡大に繋がっている。

2. なぜ今インパクト投資が注目されているのか

インパクト投資市場は急成長しており、持続可能な農業、再生可能エネルギー、自然保護、マイクロファイナンス、住宅、医療、教育などの手頃で利用しやすい基本的サービスといった分野において、世界で最も差し迫った課題に取り組むための資金を提供している。世界市場規模は年々倍増しており、世界的なインパクト投資家ネットワークであるGIINによると、2019年が2,390億ドル、2020年には4,040億ドル、そして2022年のレポートでは、1兆1,640億ドル(約161兆円)と推定されている。*1 日本においても同様で、GSG国内諮問委員会の調査で把握された国内のインパクト投資の残高は2016年が約337億円、2021年には約1兆3,204億円、2022年には5兆8,480億円と、急速に拡大していることが確認されている。*2

インパクト投資の世界市場が拡大している背景には、いくつかの要素が存在する。

  • 社会的な課題に対する関心と危機意識の高まり

貧困と格差、若年層の失業、犯罪とテロ、教育の機会、高齢化、気候変動に起因する問題など、21 世紀の社会が直面している課題は広範で深刻さを増している。これらの課題に対して、人々の平和と繁栄を確保することを目指す国際的な枠組みとして2015年の国連サミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)があるが、達成のための資金が不足している。国連の調査によると、2030年までに年間5~7兆ドル(693~971兆円)の投資が必要とされており、資金不足解消のためには、革新的な金融商品の開発と投資や民間資金の活用が叫ばれている。またこれらの課題は人道的な問題であるだけではなく、企業の事業環境とも密接に結びついていることや国際的な枠組みや規制が整備されてきていることからも、企業が投資利益を確保するために、これらの課題に取り組む意義がある。

⇒課題解決のために不可欠な技術の開発やビジネスモデルの変革(イノベーション)に取り組む企業への支援が不足している実情をインパクト投資によって牽引することができる。社会的効果と成長可能性に資する高い技術があり、一度実装された場合急速な市場拡大・成長につながる可能性があっても、収益化までの過程や時間軸がリスクと捉えられるため従来の投資軸では投資家を集めることが難しい傾向にあった。しかしインパクト投資を用いることで財務目標とソーシャル・エンタープライズを結びつけ、社会的な変革と環境的な持続可能性に対してアプローチすることができる。

  • 投資家の意識の転換

本来、投資とは、国や会社の社会活動に貢献し、社会や経済が発展した際に利益として資本や資産を増やすことが目的であり、より良い未来を創るための行為であった。その後「リスク」と「リターン」の2次元平面で評価され、効率性ばかりが追求されるようになると、同じ資金でより多くのリターンを稼ぎ、短期間に回収できることのみが良い投資と考えられるようになった。しかし、人類の経済活動が地球破壊を引導していること、経済格差の増大や、労働者の搾取などの現代資本主義に対する危機感から、従来の金融市場への関与によって金銭的な利益の追求に特化していた投資家は、社会的な影響や環境への配慮も重視するようになってきている。

⇒投資家がより社会への意識を高め、公正な社会の実現のために責任ある投資であるインパクト投資に意識を転換している。また今後の社会を担っていく若い世代の投資家が増えていることもインパクト投資市場の成長を後押ししている。現代の投資に求められているのは、将来にわたって持続可能な社会の基盤を守ることであり、投資がそのためのメカニズムの一つとして機能することである。

  • 政府の支援制度

多くの国や地域で、社会的および環境的な目標を達成するための政策や規制が制定されており、これによりインパクト投資への支援が行われている。政府の関与は、市場の安定性や透明性を高めるだけでなく、投資家にとってのインパクト投資への参入の敷居を下げ、インパクト投資市場の成長を促している。例えば公共サービスに民間資金を呼び込むことで行政の財政支出を削減するために、日本では地方自治体を中心にSIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)を活用した官民共同事業が開始されている。SIBとは行政が携わる分野において社会的サービスの提供を NPO や企業に委託し、必要となる資金を民間の投資家が拠出し、事前に合意した成果が達成された場合、行政は投資家へ成功報酬を支払う仕組みである。

インパクト投資をめぐる日本の動き
内閣・内閣官房が「新しい資本主義グランドデザイン」及び「骨太方針2022」でインパクト投資推進を明記(2022 年6 月)
経団連が報告書「“インパクト指標” を活用し、パーパス起点の対話を促進する」を公表(2022 年6 月)
内閣官房により「インパクト投資とグローバルヘルス」に係る研究会が発足(2022年9月)
東京都がソーシャルインパクト投資ファンドを創設(2022 年9 月)
金融庁は「インパクト投資等に関する検討会」を設置 (2022 年10 月)
インパクトスタートアップ協会が発足(2022 年10 月)
一般財団法人社会変革推進財団がインパクトIPO 実務的示唆と展望「インパクトIPO 実現・普及に向けた基礎調査」発行(2022 年11 月)
経済同友会会員有志がアフリカへのインパクト投資促進に向け、ファンド運営会社「株式会社and Capital」を設立(2023 年1 月)
インパクト志向金融宣言の署名機関数が47 機関を超え、2021 年11 月の発足から1 年で倍増(2023 年3 月)

GSG国内諮問委員会、日本におけるインパクト投資の現状と課題 -2022年度調査-

このように、社会的および環境的な持続可能性への関心の高まりや、投資家の意識の転換、政府の関与などの要素が組み合わさり、インパクト投資の世界市場は成長を続けており、持続可能な未来の実現に向けた重要な手段となっている。

3. インパクト投資の例

実際にどのようなインパクト投資の例があるかを紹介していく。世界中に様々な事例があり、日本にも地域の課題を解決するためのインパクト投資などがあるが、本ブログでは社会に変化をもたらし、利益を上げたいと考えている投資家に注目されているアフリカに焦点を当てる。国土と人口で2番目に大きな大陸であり、25歳未満の人口が全体の60%を超えているアフリカは、未開発の天然資源が豊富にあり、持続可能な農業の大きな可能性、変革的な自由貿易協定、女性の権利を向上させる新たな政策、デジタル商取引の急成長などの可能性がある。

スタートアップへの投資

アフリカ大陸のハイテク新興企業に投資された2022年の資金総額は対前年比8%増の65億ドル(約9000億円)となり、アフリカスタートアップへの注目度が高まってきている。*3

上記の日本の動きにも記載されているように、経済同友会有志は2023年1月、アフリカの社会課題解決につながるスタートアップ企業の支援に特化したファンド運営会社「株式会社and Capital」を設立した。100M USD (約1.4億円) のファンド規模で、2023 年年内~2024 年春頃に投資活動を開始することを目指しており、ヘルスケア、食料安全保障(栄養、農業等)、再生可能エネルギー、職業訓練、女性活躍などアフリカの社会的課題解決の推進を目的としている。アフリカでのスタートアップ企業への投資で日本は出遅れている中、インパクト投資を通じて、アフリカの社会課題解決を意図するベンチャーキャピタルやスタートアップに対する投資を行い、社会課題解決と経済的なリターンの最大化を目指すのみならず、日本企業からの対アフリカ事業促進及び投資促進することを企図している。*4

その他に国際協力機構(JICA)はアフリカにおいてProject NINJA(Next Innovation with Japan)やアフリカ連合開発庁によるHome Grown Solutions (HGS)を通じてスタートアップの創業期にあたるシード・ステージの支援を行ってきた。

Project NINJA( Next Innovation with Japan)は、JICAの開発途上国におけるビジネス・イノベーション創出に向けた起業家支援活動として2020年1月に始動したもので、起業家育成活動、ビジネスマッチング、ベンチャー投資/インパクト投資の促進、エコシステム強化に向けた政策提言などを支援する。Project NINJAの活動を通じて、JICAが様々な関係者と連携し、起業啓発活動、起業家が抱える課題の特定・政策提言、企業経営の能力強化、産業毎の起業家間の連携促進、開発途上国の起業家と日本企業とのマッチングや投資促進等を実施する方針である。実際に2021年に行われたビジネスプランコンテストで優秀な成績を収めた企業に対して、日本企業とのマッチングが行われた。例えば豊田通商株式会社は、投資子会社Mobility54を通して、コートジボワールのMoja Ride社(*5) に、5万米ドル(約700万円)相当の転換社債引受による出資を決定した。すでに25社のヘルスケア領域に投資を行っているファンドを運営するAAIC (Asia Africa Investment and Consulting Pte Ltd)は、ナイジェリアのLifestore Healthcare社(*6)へメンタリングの機会を提供した他、出資や事業提供を見据えたMOUの締結などが見られた。

またJICAは、創業初期段階の企業に向けた金融支援へと支援の幅を広げるために、2023年3月、Verod-Kepple Africa Partners(VKAP社)が運営するVerod-Kepple Africa Ventures投資事業組合(VKAVファンド)に対する出資契約を調印した。アフリカの人口は2050年までに約24億人になると予想されており、アフリカ連合も産業構造の転換を重要な目標として掲げている。アフリカでスタートアップ企業が独自のデジタル技術やビジネスモデルを活用して社会課題を解決するケースが増えている。VKAVファンドは、イノベーションを駆使してアフリカの金融包摂、保健医療、気候変動等のアフリカ全域で社会課題の解決に取り組むスタートアップ企業への投資を行い、アフリカの経済成長に貢献することを目指している。*7

ソーラー事業支援への投資

持続可能な開発目標(SDGs)の目標7では、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」を掲げており、2030年までにすべての人に電力を届けるためには、発電所建設や送配電網の整備遅れなどで世界の無電化人口の半分以上を占めるとされる、アフリカでの問題解決が欠かせない。日本の商社もアフリカ農村部の無電化地域で、小型の自家用太陽光発電「ソーラーホームシステム(SHS)」事業への参入を活発化させ、電力不足といった社会課題解決を商売につなげる新潮流を足掛かりに、先行する中国や欧州勢へ巻き返しを図る姿勢を見せている。*8

アフリカ最大の小売店プラットフォーム構築を目指すWASSHA(ワッシャ)株式会社は、ビジネスを通じて社会課題を解決し人々をエンパワーする「Power to the people」をミッションに掲げ、2013年の創業以来、アフリカでIoTテクノロジーを活用して事業を展開している。2014年2月からの累計調達額は約35億円で、2022年には第一生命保険株式会社やダイキン工業株式会社など計5社を引受先とする第三者割当増資を実施し、総額11.4億円の資金を調達した。*9

同社はタンザニア、ウガンダ、モザンビークにおいて、小規模な小売店(以下キオスク)と提携し、所得の安定しない一般消費者に特化した電力サービスとして、太陽光充電式のLEDランタンを、一日単位でレンタルするサービスを提供している。レンタルに特化して開発されたLEDランタンは、電源スイッチがAndroidアプリによって制御されており、現地で普及する電子マネーの送金サービス「モバイルマネー」で利用料金をプリペイドした場合にのみ1泊分だけ利用できる仕組みを構築した。また、キオスクの与信判断を自動化するアプリケーション、キオスクでの在庫管理を効率化するアプリケーション等を自社で開発、オペレーションで活用することにより、アフリカ未電化地域での効率的な事業運営が可能となり、2023年内には、タンザニア、ウガンダ、モザンビークに加え、西アフリカへの進出も予定している。

2015年の事業開始以来、サービスは順調に拡大し、提携キオスク数は2022年5月時点で5,100店舗を突破、1日約10万回レンタルされている。このように事業を拡大しビジネスとして成功しているだけではなく、電気が届かない地域に住む人々の暮らしニーズに応えつつ、脱炭素電源普及に貢献しており、社会課題に直接的なインパクトを与えている。

貧困層のための金融サービスへの投資

全ての人々が等しく金融サービスを利用可能な開かれた金融システムを構築することは、経済繁栄の共有と包括的な経済成長と公平な社会の実現を可能にするため、誰一人取り残されない世界を作る上で不可欠である。フィナンシャル・インクルージョン(金融包摂)によって、起業家支援と雇用創出を促進し、経済的安定、健康、教育など、さまざまな角度で個人の生活レベルを改善させるためのツールを提供することができる。

2001年、新興国の金融サービスへのニーズから、世界初のマイクロファイナンス投資の民間運用会社として国連主導で設立されたブルーオーチャードを紹介する。ブルーオーチャードの運用実績は20年以上で、世界に約2億8,000万人の受益者をもつ、現在世界最大の民間のマイクロファイナンスファンドである。730以上の金融機関のネットワークを通じて、100以上の新興・フロンティア市場に投資してきたため、インパクト投資に特化した高い専門性を持つ運用会社として、機関投資家から公的機関まで幅広い顧客を持つとともに、世界の主要な開発金融機関から信頼されている。*10

同社の投資を通じた貢献により、エマージング及びフロンティア市場において、2022年12月までに2.8億人以上の貧困層、社会的弱者層の人々が、金融関連サービスを利用できるようになっており大きなインパクトをもたらしている。*11

地球規模の課題解決をするビール

ブリュグッダー(Brewgooder)は、貧困や不平等がなく、すべての人に公平に良い生活を送るチャンスがある世界を実現することを目指すスコットランドの醸造所で、2030年までに100万人が地域社会に力を与え、機会を得ることができるよう、売り上げをプロジェクト資金に助成している。これまで15か国、17万人に2億リットル以上の水を届けており、ウォーター・プロジェクトを通じて、ビールの醸造に使用した以上の水を環境と人々に還元している。*12

ブリュグッダーは、ニューヨークのブルックリン・ブルワリーと提携し、西アフリカの スーパーフードである古代雑穀フォニオを使用した英国初のビールを開発した。このビールは、アルコール度数4.3%、軽い後味のセッションIPAでフォニオという素晴らしい味わいの原料を際立たせた傑作である。フォニオを使った醸造は、他の穀物からビールを造るのと同じ工程を踏むため、機材の再投資等の支出は必要ない。さらに以下の理由から醸造所のサプライチェーンをより包括的で炭素集約度の低いものにする大きな可能性を担っている。*13

・栽培過程が持続可能

アフリカ最古の穀物のひとつであるフォニオは、干ばつに強く、栄養分の乏しい土壌でも育ち、さらに苗を植えてから収穫までにかかる期間は約6~8週間と短いため、持続可能性が高く評価され、食糧不足を救う食べ物であると期待されている。フォニオは、年間降雨量わずか600mmで生育し、他の穀物が必要とする灌漑、農薬、肥料を一切必要としない。他の穀物は、1ポンド(453.6グラム)栽培する場合、麦芽が327ガロン(約1500L)小麦には219ガロン(約1000L)、白米には400ガロン(約1800L)の水が必要である。

・栄養価が非常に高い

フォニオはスーパーフードと呼ばれ近年注目されており、タンパク質、鉄分、食物繊維、希少アミノ酸であるメチオニンやシステインを多く含んでいる。また難消化性でんぷんが多く、GI値が低く、グルテンフリーで、アレルギー物質を含んでいない。

・農村の発展に繋がる

西アフリカの小規模農家から商品を購入するため、経済的安定と持続可能な収入をもたらす。またブリュグッダーは財団を通じてフォニオ栽培国の農村コミュニティの発展を支援するために資金の一部を再投資している。

このように、ビールを購入することによって、美味しく楽しいひと時を過ごせるだけではなく、人びとの健康や気候変動、食糧安全保障、貧困の削減といった多角的な社会問題の解決に貢献することができる。

4. 個人が今すぐ始められるインパクト投資

上記の例のようにインパクト投資家が資金の力についてこれまでとは違った考え方をする事例、エキサイティングな新しいアイデアを持つ起業家の事例、斬新なソリューションから恩恵を受ける最終消費者の事例など、インパクト投資の成功例や成果が一定数あり、さらに市場は日々拡大している。それでは、個人投資家が今すぐ始められるインパクト投資の事例を紹介する。

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