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任天堂、130年の歴史で初めて女性を取締役に起用。 その背景には投資家のESGエンゲージメント。

国内ゲーム業界王手の任天堂に、今年8月 1889年の創業以来初めて女性の取締役が就任した。京都の玩具メーカーとしてスタートした当社だが、130年の歴史の中で日本国籍の男性以外が取締役に就任したことは初めてである。この決定には、英資産運用大手(フェデレーテッド・ハーミーズ・インベストメント・マネジメント)のエンゲージメント(建設的な目的をもった対話)による影響が大きい。

これまで任天堂が抱えていたガバナンス面での問題点が二つある。

一つ目は、取締役会の女性比率の低さだ。
任天堂は女性顧客の割合が高いグローバル企業であるにもかかわらず、役員会は日本国籍を持つ男性のみで構成されてきた。
例えば、Nintendo Switchの初期の購入者は、男性が7割、女性が3割であった。さらに現在では約50:50の比率になってる。そのため、競合他社よりも女性客が多い傾向にあることが非常に注目されていた。その一方、取締役会の性別の多様性が低いことが、機関投資家から指摘されてきた。

二つ目は取締役会の独立性に対する懸念だ。
同社は伝統的に社長が取締役候補者を指名してきたこともあり、2013年まで取締役全ては社内の人間で占められていた。実際、社外取締役の就任においても監査役時代を含めて14年以上任天堂に在籍した後、2016年にクーリングオフ期間を設けずに取締役と監査・監督委員会の委員を兼任していた事例がある。同社は、2013年のインサイダー100%の取締役会から2016年以降は33%へと取締役会の独立性が急速に進展しているが、未だ改善の余地が残っている。さらに、指名委員会を設置していなかったこともあり、取締役の指名・推薦のプロセスに不透明さが増し、当社の独立性に対する懸念が強まっていた。

そんな中、2016年に英ロンドンが拠点のハーミーズのEOSチーム(Hermes Equity Ownership Services)によるエンゲージメントが開始された。

まず、EOSは同社の「取締役会の女性比率の低さ」に関して、「独立取締役会評価」を実施し、独立取締役としてふさわしい女性候補者の探索を強化するよう促した。

任天堂は、EOSの助言を受け、2016年に初の取締役会の自己評価を実施し、評価プロセスを取締役会のアジェンダに統合することで、外部取締役会評価を検討することを約束した。さらに、2017年から10年かけて女性上級幹部へのパイプラインを確立するためのタレントマネジメントプログラムの強化に取り組んでいる。また、2019年の年次総会での社長への反対票と、その後の更なる関与を受けて、2020年1月に「指名諮問委員会」を設置することを発表した。この委員会は、社長と監査・監督委員会のメンバーで構成されており、取締役5名のうち3名が社外取締役となっている。

次にEOSは、「取締役会の独立性に対する懸念」に関して、独立した取締役会評価の実施をするよう促した。

その後、任天堂は、2020年5月には、長年務めていた取締役が退任することと、米国での勤務経験を持つ現役弁護士である女性を初めて取締役会に起用することを発表した。

EOSは、この任命を歓迎するとともに、投資家が同社の業務目的や取締役選任に対する説明責任をよりよく理解できるよう、指名プロセスの開示を改善し、指名諮問委員会の利用規約を公表することを奨励した。

次のステップとして任天堂には、取締役会の多様性に対する期待が女性取締役1名の選任にとどまらないタレントマネジメント、特に社内での女性執行取締役の登用計画のさらなる明確化に期待したい。

経営幹部・取締役の女性比率がまだ低い日本企業に対して、企業のレジリエンスを重視しダイバーシティ経営を求めるESG投資家によるエンゲージメントは今後活発化する一方だろう。


参考記事:

ハーミーズEOS: https://www.hermes-investment.com/uki/wp-content/uploads/2020/08/nintendo-case-study-august-2020.pdf

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