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グリーンウォッシュに騙されないための3つのチェックポイント

気候変動に関心が集まり環境への意識が高まるにつれて企業にもサスティナビリティや環境配慮が求められている。近年問題として取り上げられているグリーンウォッシュをご存知だろうか。

グリーンウォッシュとは、汚れた壁を素早く簡単に、清潔で明るく、新しいものに見せる特殊な塗料に掛けて、評判を守るために、不快な事実や不利な事実を意図的に隠そうとする意味の「ホワイトウォッシュ」という言葉と環境に配慮しエコな「グリーン」なイメージを組み合わせた造語である。

本ブログではグリーンウォッシュについて、最近の事例を挙げながら、グリーンウォッシュの見分け方とグリーンウオッシュに関する規制の動きについて紹介していく。

虚偽または誇張したマーケティング手法

グリーンウォッシュとは、環境意識の高い消費者にアピールするために、企業が自社の製品や事業を実際よりも環境に優しいあるいは持続可能であるかのように虚偽または誇張した主張を行うマーケティング手法を指す。企業がグリーンウォッシュを行い投資家が欺かれた場合、持続可能性や社会的責任に真に取り組んでいない企業にESG投資が向けられることになり、環境と社会へのネガティブな影響だけでなくESG投資市場の健全性や信頼性が失われる。グリーンウォッシュに対抗するために、企業への早急な規制整備、ならびに、投資家のリテラシーを高める必要性が叫ばれている。

ダウの偽リサイクル靴

最近のグリーンウォッシュの事例を紹介する。2022年7月、ロイター通信は、米国に本社を置く素材科学会社の大手メーカーであるダウとシンガポール政府が主導するリサイクルプログラムを調査した。*1

今回のリサイクルプログラムは、人口560万人のシンガポール各地に何十個と設置された回収箱に寄付された靴のゴム底と中底を粉砕して、シンガポールの新しい遊び場や運動場の建設に使用することが目的である。これにより年間17万足のシューズが埋立地から変身すると2021年のメディアリリースは発表していた。

ロイター通信は、寄付された靴が実際にリサイクル施設で細断されるのか、そして建設活動に使われるのかを調査するために、位置情報装置を取り付けた11足の靴を2022年7月14日から9月9日の間に、シンガポールの様々な回収箱に投函した。その後6ヶ月間にわたってiPhoneの追跡アプリ「Find My」を使って靴の動きを観察したが、シンガポール国内の運動場にたどり着いた靴は無かった。11足のうち10足は、インドネシアに到着し、残りの1足は回収箱から2キロ圏内の公営住宅で確認された(何者かによって盗難された可能性が高い)。

寄付した靴がインドネシアの中古市場で見つかった

10足の靴は、まず回収箱からシンガポール最大の造船所に近い西シンガポールにある中古品輸出業者Yok Impex社の倉庫に移動した。そこから靴はシンガポールの国境を離れ、海路で世界第4位の人口2億7000万人を誇るインドネシアのバタム島へ移動した。

ロイター通信のジャーナリストは、アプリを頼りにインドネシアの首都ジャカルタと、バタム島のバザールに足を運び、3足の靴を発見した。ピンクとオレンジのニューバランスは、シンガポールで寄付された後、インドネシアのバタム島、ビンタン島、そしてスマトラ島まで640キロ移動し、さらにそこから1280キロ離れたジャカルタへ到着した。最終的にロイター通信の記者は、ジャカルタのショッピングモール3階の小さな店舗で綺麗に洗われ新しい靴紐がついた靴を30000ルピア(2700円)で買い戻した。一方、青と黒のナイキシューズは、バタム島の低所得者向けの広大なフリーマーケットで発見され、買い戻すのにそれぞれ18000ルピア(1600円)と12000ルピア(1100円)かかった。ロイター通信は、同じエリアで中古の靴を販売している6店舗のうち3店舗で「Yok Impex」という文字とシンガポールの会社のイルカのロゴが入った袋に靴が詰め込まれているのを確認した。

調査の結果、ロイター通信が寄付した11足の靴のうち、シンガポールで運動路や子供の公園になったものはひとつもなかった。サンプルが少ないとはいえ、これらの靴のうち1足もシンガポールのリサイクル施設にすら運搬されなかったという事実は、リサイクルプログラムの脆弱性を浮き彫りにした。

この結果を受けて、ダウは、2023年1月18日、国家機関であるスポーツ・シンガポールやプログラムの他のスポンサーとともに調査を開始したと発表。その際、シンガポールの靴プロジェクトは進展しており、西部ジュロン地区に建設中のスポーツ施設の表面に靴のリサイクル材を使用すること、新サッカー複合施設「Kallang Football Hub」の走路がリサイクルシューズの顆粒から作られたことに言及し、これらの施設では、本リサイクルプロジェクトでこれまでに再生された1万キログラムのリサイクル靴材が使用されると報告した。なお建設中の両複合施設に一般人は立ち入れなかったため、ロイター通信が真偽を確認することはできなかった。

そして翌月22日ロイター通信宛に、調査は終了しその結果、Yok Impex社は3月1日付でプロジェクトから外されることになったとメールが届いた。メールでは、寄付回収を古着輸出業者であるYok Impex社が請負っていた事由には言及しないまま「プロジェクト・パートナーは、このプログラムを通じて集められた靴の不正な持ち出しや輸出を容認しておらず、回収とリサイクルのプロセスの完全性を守ることに引き続き尽力する」と説明した。メールが届いた翌日にロイター通信の記者がYok Impex社を訪れ、プロジェクトから外されているかどうかを尋ねると、会計士のJune Peh氏は、1年間の契約終了後は、同社はこのプログラムから離脱することになると語ったが、その理由や正確な日付は明らかにしなかった。

ゴミ問題を深刻化する古着

インドネシアにおける違法な古着輸入市場は年間数百万ドルの価値がある。しかし衛生面や病気蔓延への懸念、また地元の繊維産業を保護する必要性から、インドネシア貿易省は、中古の衣類や履物の輸入を禁止する「中古衣料品の輸入禁止」措置を2015年に導入した。貿易省の消費者保護・貿易管理局長であるVeri Anggrijono氏によると、輸出業者や市場販売者が法律上の責任を問われることはない。また輸入業者には懲役や罰金などの刑罰を科すことができるが、これまでに貿易省が取った措置は輸入許可の取り消しと中古衣料の押収・廃棄のみだという。

廃棄物問題に取り組む非営利団体「Global Alliance for Incinerator Alternatives」の政策アドバイザーであるDharmesh Shah氏は、「インドネシアに流入する安価で規制のない古着の洪水は、インドネシアのゴミ問題を深刻化させている」と指摘する。さらにインドネシアに到着する古着のうち再利用されるのはごくわずかで大部分は「ただ、空き地で燃やされたり、川や埋立地に捨てられたりする」と語った。

実際バタム島の市場で靴を売る業者が匿名でロイター通信のインタビューに応じ、「Yok Impexのような古着業者からグレードの異なる靴の袋を買うが、開けてみるまで何が入っているかはわからない。質が悪く受け取った靴の半分を捨てることも珍しくない」と証言した。

「大衆を誤った安心感に陥れようとするもの」

環境団体のGreenpeaceやBreak Free From Plasticによると、靴を遊び場にしたり、ビニール袋をクリーン燃料にしたりと、新しいリサイクル技術の約束を売り込むことは、消費行動の拡大による環境への影響について、大衆を誤った安心感に陥れようとするものである。実際、Journal of Consumer Psychology誌に掲載された2013年の研究では、人々は、その製品がリサイクルされて有用なものになると言われると、より多くの製品を購入する傾向があることが明らかにされている。

プラスチック汚染の削減に取り組む米国の非営利団体、The Last Beach Cleanupの創設者であるJan Dell氏は、石油化学の大企業は、事業の収益部分と同じ透明性をもって、持続可能性プロジェクトの結果を報告しなければならないはずだと述べた。ダウは、これらの主張やリサイクルに関する実績について、さらなるコメントを拒否した。

その他のグリーンウォッシュの事例

上記のように実際に宣伝していることに実態が伴っていない例を他にも紹介する。

2019年、アイルランドの航空会社ライアンエアーは「欧州で最も運賃が安く、最も排出量の少ない航空会社」であると主張するテレビ、報道、ラジオキャンペーンを展開。しかし、イギリス広告監視機関は、航空会社が環境に関する主張を実証していないため、誤解を招くと判断し、広告を禁止した。*3

イギリスとアイルランドのマクドナルドは2018年秋に、プラスチック製ストローから紙ストローへの切り替えを実施。当初、この紙ストローに対してマクドナルドは「100%リサイクル可能」と言っていたが、実際は紙ストローの厚みがありすぎてリサイクルは困難であったため、批判を浴びた。*4

2015年、フォルクスワーゲンはディーゼル車の排ガス規制を逃れるためのソフトウェアを搭載する不正を働いた。同社は「クリーンディーゼル」技術を環境に優しいものとして売り出していたが、不正スキャンダルにより、それが事実でないことが判明した。*5

グリーンウォッシュは有害

グリーンウォッシュは真に持続可能な社会を目指す消費者や企業にとって、そして地球環境にとって有害であると指摘されている。なぜならグリーンウォッシュは製品や企業が実際よりも環境に優しいと消費者に誤解させるため、消費者は価値観や信念にそぐわない選択をさせられる可能性があるからだ。他にもグリーンウォッシングによって、本当に環境に配慮している製品や企業とそうでない企業の区別が難しいため、持続可能性と環境保護を促進する純粋な努力や企業と消費者の間の信頼が損なわれる可能性がある。

環境主張の透明性、誠実さ、説明責任を促進し、企業が持続可能な実践に真摯に取り組むことを促すために、グリーンウォッシングを抑制し、悪者にすることが重要である。

グリーンウォッシュに騙されないために

消費者としてグリーンウォッシュに騙されないためにはどうすればよいのか。そもそも大前提として持続可能であることや環境に優しいことは複合的でありその判断は非常に難しい。例えば環境に優しいオーガニックコットンを使った商品を低賃金労働者が制作している場合、もしくは植物性レザーの制作のために大量に二酸化炭素を排出している場合、その商品は環境に優しいと宣伝するに値するのだろうか。企業側が一部の情報しか開示していない場合消費者はどのように判断基準を設ける必要があるだろうか。

  1. 「エコフレンドリー」「グリーン」「サステナブル」など曖昧で一般的な用語や「100%天然」「化学物質不使用」など完璧を主張する宣伝文句には注意する。
  2. 商品が最小限かつサステナブルな素材や生分解性の素材で製造・包装されているかを確認する。環境に配慮した製品として販売されているにもかかわらず、その理由が十分に説明されていないものは要注意である。
  3. 企業の活動や製品について具体的な情報や実績を探す。その際には企業の自己申告データだけに頼らず、第三者認証や独立したレビューを用いて、企業の環境に関する主張と一致しているか確認する。第三者認証とは、木材を原料とするものの場合は例えばFSC認証制度(森林認証制度)、データ開示の証拠であるエコリーフ環境ラベル、エコマークやフェアトレード認証マークなどを指す。

規制の流れ

消費者として注意するだけでは防ぐことのできないグリーンウォッシングに対抗するためには規制を設ける必要があるため、各国では近年規制整備が早急な課題となっている。

日本では、残念ながらグリーンウォッシュは公的に規制されておらず、製品の環境上の利点や持続可能性に関する虚偽または誇張された主張に対しての取り締まりは、公正取引委員会の「不当景品類及び不当表示防止法」のみである。*6

米国では、

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