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GPIF: 温暖化を1.5℃-2℃未満に抑えると、日本企業の価値が増大

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が発表した「2019年度ESG活動報告」は、今まで経済的コストになると考えられてきた温暖化対策は、中長期的に日本企業の利益になることを明らかにした。温暖化を2℃未満に抑えることで、ポートフォリオ全体の価値が2.63%(その内日本企業の株式は12.3%増)、さらに1.5℃未満の場合は17.57%増大すると予測した。

GPIFは気候バリューアットリスク(以下、CVaR : Climate Value-at- Risk)という手法を用いて分析を行った。この手法では、前提としている気候変動シナリオに応じ、(1)政策リスク、(2) 技術的機会、(3)物理的リスクと機会において、気候変動に起因するコスト・利益の現在価値を算出できる。

この報告書では気温上昇を1.5°C・2°C・3°Cと想定した場合のGPIFが保有する株式と債券(社債) のポートフォリオのCVaRも算出している。マイナスの影響は、3°Cシナリオで最も大きく(−5.65%)、2°Cシナリオ(+2.63)、1.5°C シナリオになるにつれ(+17.57)、逆にプラスの影響が大きくなっている。これは、気温上昇を抑制するための制約や政策対応が大きくなるにつれて、技術的機会が大きくなることが強く影響している。また、 物理的リスクは気温上昇の度合いが高くなるほど、リスクがより大きくなることが考えられ、これを考慮すれば、実際は分析結果よりもさらに、現状の政策を継続した場合の3°Cシナリオの方がポートフォリオへの影響はより大きくなる可能性がある。

政策リスクでは温室効果ガス排出量の削減目標に達するために必要な企業のコストが算出されている。ポートフォリオ全体で比較すると、1.5°Cシナリオでは-10.2%、2°Cシナリオでは-6.19%、3°Cシナリオでは-1.58%と、温暖化を抑えれば抑えるほど新しい対策にコストがかかる。しかし反面、対策を取らないことで、技術的機会は得られず、物理的リスクによるマイナスの影響が大きくなる。

また、業種別の影響に着目すると、このまま対策が打たれなければ、温室効果ガス排出量削減に伴うコストによって、化石燃料の発掘や電力供給に携わる「エネルギー」、「公益事業」、「素材」の企業価値が押下げられるリスクが大きいという分析結果になった。一方で、「ヘルスケア」や「金融」 などの業種のリスクは低いことが示された。

 

技術的機会は企業が気候変動で得られる可能性がある機会を将来にわたっての利益額として示している。ここでは、国内企業のスコアの高さが顕著となった。特に、「自動車」のスコアが突出して高くなっており、「エネルギー供給」「電気自動車」「化学」とは大きく差を広げた。原因として考えられるのは、国内株式において自動車メーカーの環境関連の技術力が高いことに加え、国内株式における自動車セクターのウエイトは高さ、GPIFポートフォリオでの自動車メーカーの投資比率の大きさなどが挙げられる。

さらに、この分析では「自動車」には内燃機関の燃焼効率改善に関す特許が、「電気自動車」にはバッテリーやハイブリッド技術、燃料電池に関する技術が含まれている。

 

物理的リスクでは、企業が所有する施設・物件に対して、気候変動によって生じるリスクを損失額として分析している。政策リスクや技術的機会とは異なる傾向が見られた。 まず、「エネルギー」や「公益事業」は政策リスクと同様に物理的リスクも大きく、政策リスクが小さかった「金融」でも物理的リスクについては大きいことが示された。国内外ともに要因のほとんどは「沿岸洪水」と「猛暑」によるもので、海抜の低い人口密集地に「金 融」では店舗数が多いことや、「電気通信サービス」 では通信設備が多く立地していることが、物理的リスク増大に影響していると考られるとしている。ただし、金融については、インターネット取引の増加に伴い、実店舗の重要性が低下しており、物理的リスクを過大に評価している可能性がある。なお、国内株式では「資本財・サービス」など、政策リスクが大きいセクターも物理的リスクは抑えられていることが示された。 なお、国内社債においては、「素材」に次いで「電気通 信サービス」、「生活必需品」で物理的リスクが大きいことが示された。

 

まとめ

世界最大の年金法人(2020年度運用資産総額150兆6,332億円)のGPIFが、気候変動リスクと技術的機会を具体的に分析したレポートは多くのESGアナリストに注目されるだろう。企業価値・株価に確実に影響を与える気候変動への備えは、ESG投資家には中核的な判断材料として今後も関心を集める見込みだ。


参考リンク

出処:GPIF 2019年度ESG活動報告

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