ESGインタビュー ESG投資

ESGの「E」の重要性

ThinkESGの古野編集長が、東京工業大学の環境・社会理工学院でで講師を務める、キム・シューマッハ博士にインタビューしました!

シューマッハ博士(Dr. Kim) はサステナブル・ファイナンスとESGを専門的に研究されており、ルクセンブルクの環境・気候・持続可能開発省のリサーチコンサルタントとしても活躍されています。日本のサステナブル・ファイナンスの分析と、その課題克服を展望したDr Kimの論文「Sustainable Finance in Japan」は先月オンライン科学サイトの「Journal of Sustainable Finance & Investment」に掲載されました。

 

ESGにおける「E」、環境への配慮はなぜ重要ですか?

Dr Kim:「E」は人間の生命を維持していくために、根本的に必要な要素だと考えています。きちんと機能する自然環境がなければ、そもそも生命は存続できません。もちろん社会や経済的な要素も大切ですが、それらは人間がいてこその問題です。健全な地球無しでは、人類も存在できません。また、全ての生物はエコシステムの中で重要な役割をはたしていますが、彼らの活動は人間にとっての経済的価値をもたらすことも忘れてはいけません。つまり、健全な自然環境を保つための投資は、最終的には人間の社会的な繁栄にも貢献していると言えます。逆に「E」を無視してしまえば、その上に成り立つ他のものも崩れてしまいます。だから私は、ESG投資において「E」が最も大切だと思います。

 

サステナビリティへの配慮が優れる企業を探すには、何を重視すべきでしょうか?

Dr Kim: 一番重要なのは、情報開示と情報の透明性です。もしも情報開示をしていなくても、その企業が必ずしも環境や社会に悪影響を及ぼしているとは言えません。その一方で、その企業が環境や社会に貢献しているかどうかも、判断できません。企業の立場から考えてみれば、自社が何か良いことをしていれば、それを公表したいはずです。隠すようなことが一切なければ、積極的に情報開示するのではないでしょうか?

情報開示をしないということは、投資家にとってのリスクにも繋がります。例えば、フォルクスワーゲンは自社の自動車のエンジンの排気ガス浄化装置について情報開示をしませんでした。これによる問題は、外部による検査で発覚し、アメリカの大気汚染防止法に違反する行為として起訴されたのです。他にも、多くの化石燃料会社は、サプライチェーンにおける法令遵守について情報を開示しません。だから、法律が設定されていたとしても、実際にはそれが守られていないケースも多いのです。

それを踏まえた上で、以下の4つのポイントに注目して企業の情報開示を調べてみてください:

①どれくらい情報にアクセスしやすいか

②情報がどう整理され、一般の人にも理解しやすいか

③自社の欠陥についてオープンに言及しているか

④その欠陥を改善するための具体案を提示しているか

これに注目して、綺麗なウェブサイトにも誤魔化されないように注意してください。企業が口先で主張していることよりも、実際の取り組みを評価することが大切です。

 

ESGラベルがついている投資信託は複数ありますが、どの商品が本物のESGか見極めるには、なにが大事ですか?

Dr Kim: この質問に答えるには、まず「グリーンウォッシング」という言葉を紹介する必要があります。「グリーンウォッシング」とは、実際には環境に配慮されていないものに対し、あたかもそうであるかのように企業が提示することです。例えば、ある商品の環境配慮の取り組みが誇張されたり、そもそものデータ不足でそのような事実が確認できないことがあります。だからグリーンウォッシングは、マーケティング戦略として採用されることが多くみられます。近年、実際にはサステイナブルではない多くの投資ファンドが、「ESG」「環境配慮」といった言葉を使って商品を売っています。投資ファンドの金融商品は複数の企業の株により構成されているので複雑です。というのも、一部がサステイナビリティーに特化していても、全体として環境に優しいのかは判断できないことが多いからです。

このような問題を解決するために、ラベリング機関が存在します。企業におけるESGラベルは、オーガニック食品のラベルをイメージするとわかりやすいと思います。オーガニックのラベルを持っている商品なら、化学添加物の不使用や動物への配慮など、一定の条件を満たしていることが一目でわかります。金融におけるラベルも同じような役目を果たしています。

ところが現在、「ESG投資」の定義が明確にされていません。つまり、どんな銘柄がESGなのかを具体的に決めるのは、各ラベリング機関に委ねられてしまっているのです。ということは、あるラベリング機関がESGと設定する基準は、他の機関とは全く違う可能性があるのです。

そして、ここにまた別の課題が潜んでいます。まず第一に、私たちはそのラベルがどのように制定されたのか知ることができません。なぜなら、多くのラベリング機関はどのような基準でラベルを許可しているのか公表していないからです。さらに、これらの機関の意思決定は専門家委員会に頼っていて、外部の人は、そこでどのような議論がなされているのかわかりません。そもそも多くのラベリング機関は、ラベル制定における基準を自己申告ですら公表していません。一部の機関は公表していますが、していない機関がほとんどです。もちろん、専門家の知識は大切ですが、情報の透明性はそれ以上に重要視されるべきです。

その他に注目すべき点は、ラベリング機関のキャパシティーです。あまりにも急激にラベルの対象企業を増やしている機関があれば、それは要注意です。なぜなら、不自然に急成長している機関は、各ファンドの評価に費やす時間が限られているからです。だからみなさんは、ラベルのついた商品を見つけても、「ESGへの取り組みの絶対的な証拠」としてとらえるのでなく、そのラベルを得るための条件や専門家委員会のメンバーを確認してください。多くのラベリング機関の専門家委員会は、環境科学者が参加していない場合もあります。コロナウィルスの状況と同じように、「本当の」専門家が対応にあたるべきです。

 

新型コロナウイルスの感染拡大により、ESG投資はどのような影響を受けますか?

Dr Kim: コロナウィルスは、今後起こり得ることを世界中に予兆しました。例えば、情報開示と情報の透明性における社会的、環境的な問題に私たちは気づかされました。さらに、社会・環境問題に関連する要素(ESG)と経済的利益との間の対立も明確になりました。また、航空業界や化石燃料業界を見てわかる通り、このような危機によって産業全体が一気に停止される危険性も発覚しました。このような事は、再び起こり得ると覚えておくことが大切です。だからこそ、私たちは専門家の意見に耳を傾けなければなりません。

さて中期的には、コロナウィルスはESG投資にどのような影響を及ぼすでしょうか?既に、一般的なファンドよりも、ESGの方が収益率が高いことがわかっています。このような危機の中、サステイナブルな投資家の方が経済的な利益も高くなるということは、十分なデータからわかっています。それは、物理的な資源の方がデジタル資産よりも、はるかに多くのリソースを要するからです。人々が移動をやめ、外食もしなくなった今、物理的な資源を保持することの方がリスクが高いのです。

しかし、経済活動が急停止したことで、多くの失業者の方が出てしまったことは問題です。だからこそ、どのように経済を再開すれば、これまでの持続不可能な社会パターンに戻らずにすむか、考えなければいけません。それも、環境的な持続可能性だけでなく、人々が貧困に陥らないシステムを構築しながらです。もし今後の意思決定が専門家の意見に沿っていれば、社会全体が恩恵を受け、経済的な利益も同時に得ることができるはずです。

 

ESG投資についてより詳しく学ぶために、オススメの情報源を教えてください。

Dr Kim: 最も簡単に学べるのは、国連が提供するE-ラーニングプラットフォームです。ここから、サステナブル・ファイナンス入門のコースを受講できます。このコースは、ドイツやスウェーデンの専門家によって作成されました。

その次に簡単なのは、国連責任投資原則(PRI)です。この団体は、責任投資の質と量を向上するために、産業界や学術界と協働しています。PRIのウェブサイトには初心者向けの情報が多く載っていて、非常に見やすい構成になっています。

既に中級レベルの方には、国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP-FI)がオススメです。この団体は、先ほどの二つよりもっと掘り下げて、持続可能な金融システムの基礎を説明してくれます。ちなみに、彼らの業績が、今日のサステナブル・ファイナンスの基盤を作ってるとも言えるでしょう。

そして最後に、専門的な側面にまで踏み込んだ有用なリソースは、「The Journal of Sustainable Finance & Investmentです。この学術誌のサイトにアクセスすると、論文や特集記事が多く公開されていて、サステナブル・ファイナンスの基本的な概念を学ぶことができます。

自分の理解度に応じて、以上4つの情報源を参考にしてみてください。そこから、ESG投資について優れた情報が得られるはずです。

 

まとめ

生命の基盤となる環境「E」をまず守らなければ、社会問題も解決できません。そして、ESGラベルがついている商品を見つけても、すぐに飛びつくのではなく、そのラベルの制定条件や意思決定に関わった専門家を確認するようにしてください。何よりも、情報開示と情報の透明性が大切です!

今回のインタビューの様子については、こちらからご覧になれます。

 

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