世界全体がネットゼロ達成に向けて急速に対応を行う中で、企業や組織は2050年までにGHG排出量実質ゼロという野心的な目標を持つだけでは不十分であり、ネットゼロに確実に移行していくためには「気候移行計画」を策定し開示していくことがこれまで以上に求められている。さらに、信頼性の高い気候移行計画を評価することが重要となっており、CDPは2022年に開示された全組織・企業の気候移行計画を分析評価した結果を報告した。
国際的な環境非営利組織であるCDPは投資家、企業、自治体、政府に働きかけを行い、それぞれの環境インパクトに関する情報開示を促している。特に上場企業の環境インパクトに関する豊富なデータセットを保有しているため、機関投資家などはCDPの情報を参考にに投資先企業の評価を行っている。
気候移行計画は組織が既存の資産、事業、ビジネスモデル全体を最新の気候科学の提言に沿った軌道(1.5℃目標達成に整合性のあるGHG削減計画)へと移行させる方法を明確に示した期限付きの行動計画である。移行計画は単なる情報公開ではなくビジネスの戦略の一部に組み込まれるような責任および変革が求められている。
CDPは各組織の公開した情報がどれほど信頼性に足るものであるかを調査するため、既存の枠組みであるTCFDやACTなどとも整合した信頼性の高い移行計画に必要な8つの要素に基づく21の重要指標を設定し、移行計画の評価を行い、分析結果を報告している。
CDPが気候移行計画の信頼性の確保に必要と提唱する8要素
- ガバナンス:移行計画が取締役会による承認を受けていること
- シナリオ分析:1.5℃目標に整合したシナリオ分析の実施
- 財務計画:移行計画実現のために必要な期限付きの資金計画の詳細があること
- バリューチェーンのエンゲージメントと脱炭素イニシアチブ:事業プロセス(およびバリューチェーン)の脱炭素化のため、期限付きのアクションとKPIが含まれること
- ポリシーエンゲージメント:企業の公共政策への関与が企業の気候変動に対する戦略に合致しているものであること
- リスクと機会:気候変動によるビジネスのリスクと機会が特定されていること
- 目標: 最新の気候科学を反映した時間制限付きのScience Based Target (SBT)を含むこと
- スコープ1,2,3の算定と認証:第三者機関による排出インベントリの認証があること
2022年には全世界的に気候移行計画の策定と開示に重点を置く意思決定が多くなされた。米国では証券取引員会(SEC)が気候情報の開示に関する規制を発表した。EUでも同様に気候移行計画の開示を求めることが欧州持続可能報告基準(ESRS)に記載されている。産業界が牽引するTCFDやGFANZについても組織や金融機関に対して同様の圧力がかけられている。
分析の結果
2022年には18600以上の企業がCDPに情報開示を行い、4100の組織や企業が1.5℃目標に沿った気候移行計画があると報告した。しかし、4100社のうち、1751社のみが計画の詳細を公開し、信頼性の高い移行計画に必要な重要指標を全て満たす企業は135社と開示を行った企業の1%未満であった。3341の企業が自社の戦略が気候に影響されていると認めるものの、移行計画は未策定であることが判明し、6250社は今後2年以内に移行計画を策定すると回答した。移行計画の策定を進めるとともに透明性を向上させることが課題となっている。
各産業界の取り組み
開示を行った電力業界の全企業のうち28 %以上の企業が移行計画を策定中であると回答し、他の業界に対し非常に高い割合であることがわかった。金融業界も同様に26 %以上の企業が策定中であると回答し、気候危機に対して大きな影響力を持つこれらの業界が変革に取り組んでいることはポジティブに捉えられる。一方で製造業、サービス業、食品関連、バイオテクノロジー業界では移行計画を策定中の企業が業界の9 %を満たさず、業界間での取り組みの違いが浮き彫りとなった。
産業ごとに信頼性の高い移行計画に必要な重要指標の達成度が分析され、電力業界および金融業界では重要指標の多くもしくは全てを満たす企業はそれぞれ業界全体の38 %、35 %と他業界に対して割合が高く、堅実な信頼性の高い移行計画は透明性の高い気候変動対策に投資し実現する鍵になると考えられる。
一方で、電力業界および金融業界の重要なバリューチェーンのパートナーである石油・ガス関連企業は重要指標の全てを達成する企業は業界全体の5 %にとどまっており、拡大するエネルギー需要に伴うクリーンなエネルギーへの転換を目指す上では、石油・ガス業界の移行計画の策定と開示が求められている。
地理的なトレンド
各企業を本部が所在する国ごとに分類し、各国の移行計画への取り組みが見えてきた。重要指標全てを満たす企業の割合が最も多い国はポルトガルのわずか6%が最も高く、日本を含むG20のほぼ全ての国で依然として信頼性の高い移行計画が策定されていないことが判明した (G20諸国では全ての指標を満たす企業は2%未満にとどまった)。国内企業16社の移行計画が全ての重要指標を満たすと評価されたが、
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