日本の柱である自動車産業の今後は?
トヨタ自動車に対して、欧州の資産運用会社3社が、6月開催予定の定時株主総会を前に、気候変動に関するロビー活動に係る決議案を提出した。トヨタ自動車の株を合計で約4億ドル分(約551億円)保有する3つの運用会社によるこの動きは、新社長の佐藤幸治氏が、同社の環境ロビー活動について、投資家や環境アクティビストたちから圧力を受けていることを浮き彫りにした。
※日本の大手電力会社の決議案についての記事はこちらから。
株主決議案
5月10日、気候変動に関するロビー活動のさらなる開示を求めて株主決議案がトヨタ自動車に提出された。この決議案は、デンマークの年金基金であるアカデミカーペンション(資産運用総額約2.7兆円)、ノルウェーの資産運用会社であるストアブランド・アセット・マネジメント(資産運用総額約16.5兆円)、オランダの年金投資会社APGアセット・マネジメント(資産運用総額82.7兆円)が中心となり、長期間、積極的にトヨタと対話を進めてきたものである。*1 アカデミカーペンションは当初、2021年に株主決議案を提出する予定だったが、トヨタが気候変動に関するロビー活動を見直すとの確約を得たため、それを取り下げていた。また昨年の決議書は、到着が1日遅かったという理由で却下されたという。
投資からはは、トヨタが行う業界団体や公的な声明を通じたロビー活動が、気候変動による会社のリスクを軽減し、パリ協定の目標や2050年までにカーボンニュートラルにするというトヨタ自身の目標に合致しているかどうかを詳述する報告書の提出も求めている。アカデミカーペンションは、トヨタが気候政策への関与に関する独自の報告書を、多数の投資家が利用するインフルエンスマップで設定された基準と比較すると、「投資家の期待をはるかに下回る」と述べている。
インフルエンスマップとは、独立系のシンクタンクで、ビジネスと金融が気候危機にどのような影響を及ぼしているかについてのデータに基づいた分析を、投資家が主導する気候変動に関する協働エンゲージメント・イニシアチブ「Climate Action100+」の投資家向けに提供しており、同イニシアチブに参画する機関投資家の総資産は68兆米ドル(約9380兆円)にのぼる。インフルエンスマップは、トヨタ自動車を気候変動に関するロビー活動に最も消極的な企業の1つであると評価している。また同社は、内燃エンジンの廃止を義務付ける政策に反対しているとして、低評価をつけた。ロイター通信は昨年、トヨタの前代表である豊田章男氏が日本政府に対して、ハイブリッド車をバッテリー電気自動車と同等に支持するか、もしくは自動車業界の支持を失うリスクがあることを暗示したと報じている。
日本企業はかつて、プリウス・ハイブリッドで環境に優しい車の世界的リーダーとして文句のつけようがなかったが、最近ではバッテリー電気自動車(EV)の導入が遅れていると批判されている。
トヨタ自動車の動き
決議書の提出を受けて、トヨタの広報担当者は、今年度の純電気自動車(EV)販売台数が5倍に急増する見込みであることを明らかにした。またトヨタのように気候変動政策への関与について開示している日本企業は他になく、世界的にも多くはないと述べ、そうすることで一定の評価を受けていると付け加えた。
トヨタの取締役会は、一部の国ではクリーンエネルギーの供給が不十分であるなど、電気自動車の大量導入にはまだ多くの障害があるとし、この提案に反対票を投じるよう株主に促した。そのため、カーボンニュートラルを達成するには、ハイブリッド車や燃料電池車を使用する必要があるとした。さらに、トヨタが2021年から発行している、気候変動に関する広報活動の詳細を記した年次報告書を今年中に改善する予定であると述べた。これには、産業団体との取り組みの評価を検証する「公認第三者機関」の任命も含まれる予定である。
またインフルエンスマップに対して、EV目標が考慮されていないことや評価方法の客観性や透明性についての情報がないことについても疑問を呈した。
欧州の資産運用会社3社の声
- APG アセット・マネジメントの最高情報責任者(CIO)ハーマン・スロイジャー氏
「トヨタ自動車は世界最大の自動車メーカーであり、同社のEV化を加速させることは、同社の事業競争力を向上させるだけでなく、産業全体の脱炭素化を推進する上でも極めて重要である。トヨタは、日本の製造業と経済を牽引する自動車関連産業において、極めて重要な役割を担っている。したがって、トヨタが業界団体、規制当局、サプライチェーンと主導的に関わることは、日本経済の脱炭素化、日本の持続的な経済成長、雇用創出にとって極めて重要であると考える。私たちは、特に最近の一部の関連会社における排ガス不正表示問題を考慮し、トヨタが私たちの提案に基づき、サステナビリティ情報開示の強化と透明性の向上を図ることを推奨する。これは、トヨタの温室効果ガス削減コミットメントと戦略に対する投資家の信頼を回復するために重要なことである」。
- アカデミカーペンションの最高投資責任者であるアンダース・シェルデ氏
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