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2023年のESGテーマ

2022年はESG投資の観点からは不安定で不利益なできごとが多数起きた。一方で、コロナウイルスとエネルギー危機への対応に加え、さらに気候変動対策の強化や生物多様性の回復という中長期の課題解決がさらに重要とされる時代の中、ESG対応が優れている企業は外部環境の変化に対して引き続き柔軟に適応する能力(レジリエンス)が高いことを踏まえておけば、中長期的にパフォーマンスは市場平均を上回ることが期待できる。2023年も市場のボラティリティーが続くことは避けられないが、ThinkESGが注目する3つのESGテーマを紹介する。

インドのグリーン成長

世界の経済成長を引っ張って来た中国による行きすぎたコロナ対策と米中対立の長期化の影響で、アジアの経済成長のエンジンは中国からインドに移りつつある。インドは今年ついに中国の人口を超えると予想されており、英エコノミスト誌によると2022年の経済成長率はサウジアラビア以外の経済大国の中で最大である6.8%に上ったという。IMFの予想では2023年に6%以上の成長率を保つとされており、英国を抜き世界第5位の経済大国になる。さらに、乗用車市場では日本を抜き世界3位に浮上したことも報道されている。主な要因は強い国内需要と一般投資家のインド国内企業への投資増加と共に、中央政府主導のグリーン経済に向けた積極的支援だと指摘されている。インドは2030年までにエネルギー消費量の50 %を再生可能エネルギーで賄うことを目指しており、電子機器、バッテリー、グリーンモビリティ、グリーン水素などの14の「特殊産業」への投資を呼び込む補助金や税制優遇措置を次々と整備している。再生可能エネルギーの開発拡大に大きく関わるインドのエネルギー大手アダニ(Adani)やリライアンス(Reliance)、グリーンテックスタートアップのオラ(Ola)などはこの恩恵を受けるだろう。インドのグリーン成長を牽引する企業は、中国が世界に送り出したEV大手のBYDやバッテリー大手のCATLのように、拡大する国内市場を基盤に国際展開も期待される。一方日本企業にとっては、グリーン技術を誇る企業はインド市場参入もチャンスとなるだろう。

脱化石燃料の流れは強まる一方で、その解決策の経済性と持続可能性が問われる

ロシアによるウクライナ侵攻によって起きた資源高騰が引き金となり、グローバル経済の脱炭素化の実現に必要不可欠である脱化石燃料の流れがさらに強まるだろう。特に大きな期待が寄せられている水素の利活用の技術開発は進む一方で、社会実装に向けた壁が多数残る。その中で最大のハードルはコストだ。石油、天然ガスや石炭の化石燃料の代替として幅広く活用できるゼロエミッションの水素は、製造過程や使い道によってその経済性と持続可能性の評価は大きく異なってくる。主な使い道としては、運輸(自動車・大型車・船舶・航空など)、熱(建物、製造業、製鉄など)、電力(水素タービン・アンモニア混焼など)があるが、それぞれの分野で代替技術が開発されており、経済性や技術の成熟度も水素より優れた選択肢が出来上がってきている。運輸の場合はEVやバイオ燃料、熱ではバイオガス、電気炉や太陽熱、そして電力の場合は世界的に主要電源化する再生可能エネルギーとエネルギー貯蔵技術の革新が続いている。

また、水素の製造過程により、ライフサイクル排出量を含めて「ゼロエミッション」と言えるものは限られる。主流の製造過程である天然ガスを原料に用いた水蒸気メタン改質法(SMR)で作られる水素は「グレー水素」と呼ばれ、製造時の温室効果ガス(GHG)排出量を多く発生するため、脱炭素燃料として認められない。本来のゼロエミッション水素は、従来の製造過程に加えて製造時のGHG排出量の回収・貯蔵装置(CCS)を整備された過程で作られる「ブルー水素」、または再生可能エネルギーを利用して水の電気分解を行なって作る「グリーン水素」でなければならない。

ブルー水素の安価で安定した調達には、CCS に適した場所と安価な天然ガス資源が必須条件となり、グリーン水素の場合は安価で大量の再生可能エネルギーと効率性の高い水素分解装置を備えられるかがコスト削減の鍵となる。両方の製造過程において、日本は不利の状況に置かれている。海外から大量の水素を輸入することになればさらに運送・運搬・貯蔵に必要とされ、水素のインフラ整備には膨大なコストがかかることが想定される。比較的に運びやすいアンモニア(水素と窒素の合成)にも注目が集まるが、毒性やアンモニアの製造過程においても原材料にはやはり水素が必要とされ、その水素の「色」がアンモニア製造の持続可能性と経済性に関係してくる。従来型の天然ガス由来の水素を用いた「グレーアンモニア」、天然ガス由来の製造にCCSを加えた「ブルーアンモニア」そして再生可能エネルギーを用いて作ったグリーン水素を原料とした「グリーンアンモニア」が存在する中、脱炭素化の観点からはブルーまたはグリーンアンモニアの間で競争が生まれる。

2023年中に多くの国・地域・企業が掲げる、2030年までの温室効果ガス削減目標の達成に向けて、それぞれの分野で競争力を保てる代替技術の経済性と持続可能性を見極めるのが重要なテーマになるだろう。

健康と観光のバランス

最後に、コロナウイルスに関する渡航制限が緩和され始めると、海外渡航が復活するが、コロナウイルス以前のような従来の観光スタイル、規模にはまだ戻らないだろう。米国政府に続き、日本を含む複数の国が中国人観光客に対して厳しい水際対策を行うように、海外旅行は今後も出発国と到着国、双方の国の衛生体制に応じて何らかの形で制限されることになるだろう。しかし、このように渡航条件が厳しくなっても、これまで海外旅行を控えていた人の多くは、コロナウイルスのリスクを考慮しつつも、息抜きに海外旅行へ出かけることは確実に増えるだろう。比較的感染リスクが低い旅行体験ができ、健康志向の高い旅行者が安心して旅行できるようなしっかりとしたコロナ対策(高いワクチン接種率や現地での対応など)を行っている旅行先や地域は、間違いなく旅行回帰の流れから恩恵を受けることが予想される。

しかし、これは国民レベルの健康(つまり海外旅行者からの新型コロナウイルスの蔓延や医療システムの過負荷を防ぐこと)と、海外旅行者が特に地域や地方経済にもたらす経済的利益を、水際対策の緩和促進の間でバランスを取る必要がある。日本はこれまで国際的に規制緩和が遅れており、規制緩和の努力よりも、抑制的な措置が上回ってきたとも言える。今後は、特にインバウンドの観光客を迎えるにあたって、恐怖や政治的な理由ではなく、科学的なアドバイスに基づいて感染防止策を行うこと、責任ある観光の推進(安全な距離を保つ、衛生習慣の維持、室内での換気対策など)が、旅行者、観光事業者、地域の三者にとって、健全な観光を促進する重要な要素となるだろう。  特に中国の海外渡航制限の緩和は、日本のみならず、世界的にも観光業にもたらす影響は大きいとみられる。健康志向の高い観光客の獲得とともに、地元の公共衛生を守る対策の、両立とバランスを図るのが今後重要になるだろう。


参考リンク

The Economist

https://www.economist.com/the-world-ahead-2023

Forbes India

https://www.forbesindia.com/article/take-one-big-story-of-the-day/dawn-of-2023-a-cautious-world-economy/82093/1

World Economic Forum

https://www.weforum.org/agenda/2021/07/clean-energy-green-hydrogen/

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