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ESGの「S」の重要性

今回2回目となるESGインタビューでは、Think ESGの古野編集長が、「ビジネスと人権」専門の弁護士、佐藤暁子氏からお話を伺いました!

現在、ことのは総合法律事務所で弁護士として活躍する佐藤暁子さんの専門分野は、人権デューデリジェンス全般です。佐藤さんは日本弁護士連合会で国際人権問題委員会の幹事として活動する傍ら、認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウのメンバーとしてもビジネスと人権に関する調査やセミナーを担当しています。佐藤さんは、上智大学法学部国際関係法学科、一橋大学法科大学院を卒業後、International Institute of Social Studies(オランダ・ハーグ)で開発学修士号(人権専攻)を取得されました。

今回は、そんな佐藤さんにESGの「S」の重要性についてインタビューしました。

目次

まずは自己紹介からお願いします。

佐藤さん:

もともと私が弁護士になりたいと思ったきっかけが、いわゆる途上国支援、国際協力でした。カンボジアに住んでいた頃、街の中心にどんどんビルが建ち並ぶ一方で、スラム街やゴミ山が連なっているのを見て、「何のために開発ってあるんだろう」という疑問を肌で感じたのが、「ビジネスと人権」に関心を持ったきっかけでした。

その後オランダの大学院で開発学の修士号を取得してから、タイのバンコクにてUNDP、国連開発計画でビジネスと人権のプロジェクトに参画しました。

今は日本に帰ってきて、弁護士という立場から企業に対してビジネス人権に関するアドバイスをしたり、NGOの一員として政策提言をしたりしています。

 ESGはの「S」、社会への配慮はなぜ重要ですか?

佐藤さん:

まず前提として、ESGの「S」は社会という風に抽象的に見るのではなく、「人権」と捉えています。環境やガバナンスの問題に取り組むのがなぜ大切かといえば、それは、影響を受ける人々の権利を守るためですよね。具体的には、従業員や消費者、さらにはサプライチェーンに関わっている人達です。どんな企業活動も、人とは切っても切れない関係です。だから「S」を構成するのは人であり、それを抜きにしては、ESGを語ることができないのではないかと考えています。

どうやって人権への配慮に優れる企業を探したら良いですか?

佐藤さん:

まずは、その企業が従業員の権利保障のために何をしているかがポイントです。日本の文化の中には「お客様は神様です」というフレーズがありますが、この言葉は昔からのおもてなしの文化を象徴する一方で、顧客のために生産に関わる従業員の権利が侵害されては、どれだけ良い製品で消費者を喜ばせたとしても、結局意味がないと思います。

ですから、自社の従業員やサプライチェーン先の労働者の権利を、どうやって保障しようとしているかを知るためには、外部に公表されているコミットメントだけでなく、具体的に実施されている取り組みにも注目してみてください。

企業の社会的配慮はどのようにランキング付けされていますか?

佐藤さん:

ビジネスと人権に関する代表的な第三者評価機関には、「Corporate Human Rights benchmark (CHRB)」や「Know the Chain」などがあります。こういった機関が見ているポイントは主に3つあります:

①企業が従業員の人権をどう保障しているか

②その仕組みをどうガバナンスの中に組み込んでいるのか、

③作った仕組みがどう機能しているかモニタリングできているか

また、以上の項目が自社だけではなく、サプライチェーンやバリューチェーンにまで適用されるのか、そういったことにも注目しています。

一方で、レーティングや第三者評価というのは一つの通過点に過ぎないので、企業が点数を上げることに固執しないように、NGO側も評価項目をもとに企業と対話をしていくのが大切です。さらには、そういった対話の仕組み自体もどのように機能しているのか、といった点もランキングで見られていることだと思います。口先だけではなくて行動の伴った企業が高く評価されています。

高く評価される企業行動とは具体的にどんなものですか?

佐藤さん:

まず企業が取るべき行動は、一般的に起こりやすい問題に対してしっかり注意を払うことです。企業が、人権問題に関して負のインパクトを与え得る存在であるということをきちんと自覚しなければなりません。しかも、自社の影響が及ぶ世界中のサプライチェーンの中で、国ごとにどんなリスクがあるのかまで、把握して取り組むことが求められます。

最終的には、予測される問題が完全に防げればベストですが、それも現実的には難しいという前提で、何か問題が起きたときに素早く対応するための「グリーバンス」と呼ばれるホットラインの構築も大切です。そういったプロセス全体で、どんなことをしているかが重要なポイントだと思います。あと企業が与え得るネガティブなインパクトの可能性を、どれだけ開示できているかという点は非常に大切だと思います。やはり、リスクを自分たちで認識して、改善することで外部の会話が生まれると思うので、情報開示と行動のセットかと思ってます。

ステークホルダーとの対話を通じて事業形態が改善された例はありますか?

佐藤さん:

様々な例に共通しているのは、労働者が声を上げやすい環境を整えているか。何か問題が上がってくるかもしれないけれど、それは企業にとって取り組まなければいけないリスクです。問題が浮上しやすいように、自社やサプライチェーン先の従業員達をエンパワーするということが非常に重要だと思います。

例えばタイの漁業セクターの企業は、NGOや労働組合と一緒に問題解決に取り組んでいます。まさに従業員からのボトムアップ的なアプローチで取り組んでいるという点で、一つの良い例になるかなと思います。

新型コロナウィルスの感染拡大により企業の社会的配慮はどう影響されますか?

佐藤さん:

これまでESGの中でも取組みが最も遅れているとされている「S」の重要性が、今回の危機下で改めて問われています。企業が「S」への本質的なコミットメントと実践を示し、社会と企業の存続に直結させることが幅広いステークホルダー間で合意される契機となっていると感じています。

コロナウィルスの影響が先に出てきた欧米では、「S」への関心が明らかに出てきています。それはまさに、「S」が今までなんとなく抽象的だったものが、今回コロナという共通の危機によって、具体的になったからです。

このリスク下で従業員をどうケアしていくのか、サプライチェーンをどう維持していくのかなど様々な問題が出ています。サプライチェーンとの契約を切ることは、企業の短期的利益からすると最善の判断になるかもしれません。でも、その契約を打ち切ることでサプライチェーン先の失業者はどうなるのでしょうか。もともと不安定な雇用が無くなることで、その人たちの今後5年10年はどうなるのか。そういった課題は、企業にとって決してプラスではないですよね。まさに今、このリスクの中で「社会の持続可能性」に企業が貢献できるのかどうかが問われています。「S」の取り組みとして試されていると感じます。

ビジネスと人権の分野について、学びたい人にお勧めするリソースはありますか?

佐藤さん:

1番色々揃っているのは「ビジネスと人権リソースセンター」です。この機関は、世界中のビジネスと人権に関する事案やガイドライン出したり、国際機関の動向を共有あります。今は特に、ビジネスと人権に関しては法律化の動きが、とりわけEUにおいて、高まっていて、そういった最新情報なども豊富に揃っているサイトです。国ごとやトピックごとのリサーチもできるので、「ビジネスと人権」やESGの「S」として、どういったことが議論されているのかというのを知りたい方にオススメのサイトです。

最後に、補足情報はありますか?

佐藤さん:私が関わるヒューマンライツナウが新型コロナウィルスの世界的流行によって引き起こされている人権問題を緩和するために、様々なステークホルダーが対応策を検討する際に参照できる報告書を公表しています。詳しくは以下のリンクまで:

【声明】新型コロナ感染拡大を受けて、企業と投資家に対し、ESG、とりわけ「S(社会)」に対する取組みをより一層推進することを求める

また、ビジネスと人権ロイヤーズネットワークという弁護士らの有志研究会では、新型コロナウイルス感染症拡大による人権への影響と企業への提言について調査レポートを公表しました。詳しくは以下のリンクまで:

調査レポート「新型コロナウイルス感染症拡大の人権への影響と企業活動における対応上の留意点」

まとめ

ESGの「S」は抽象的に定義されがちですが、「企業に関わる全ての人の人権」という具体的な定義が目から鱗でした。さらに、人権を保障すべき対象は自社の従業員だけでなく、サプライチェーン先まで配慮しなければならない、というのも大切なポイントです。「E」や「G」の問題に取り組むのも、結局は影響を受ける人々のためです。だからこそ、ESGのそれぞれの項目が全て揃った時に、初めて成り立つものでしょう。

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