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欧州でPFAS規制案~日常に潜む危険な化学物質~

2023年2月7日に、欧州化学品庁(ECHA)は人間や環境へのリスク低減のため、有害性が指摘されている化学物質である有機フッ素化合物「PFAS」(ピーファス)の使用と製造を禁止する新たな規制案を発表した。ECHAは、EUにおける化学物質の法規制を実施する責任を担っている機関として、2024年中に欧州委員会に法案の元となる最終案を提出する予定で、その内容が世界的に注目されている。*1

本記事では以下の流れに沿ってPFASについて説明する。

  1. PFASを禁止するEU規制案
  2. 永遠の化学物質、PFASとは
  3. EU議委員の血液から少なくとも7種類の有毒なPFAS化学物質
  4. PFAS規制の動向
  5. 日本での取り組み
  6. 経済界の反応
  7. 消費者がPFASによる健康被害を避けるため
  8. 日本企業への影響と勝機

1. PFASを禁止するEU規制案

2023年1月13日、欧州の5つの当局(デンマーク、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン)が欧州化学品庁(ECHA)に物質制限案を提出した。この提案は、EU域内におけるPFASの使用を制限するもので、過去3年間にわたり、PFAS、その用途、およびそれらが人間や環境にもたらすリスクについて幅広く研究してきた。そして2023年2月7日、PFASが人間や環境にもたらすリスクを低減するため、PFASの使用と製造の禁止を求めるという新たな規制案が発表された。

以下、PFASの使用禁止に向けたプロセスの主な段階である。 *2

  • 第一段階として、ECHAのリスクアセスメント科学委員会(RAC)と社会経済分析科学委員会(SEAC)が、2023年3月に開催される会合で、提出された規制案がREACHの法的要件に適合しているかどうかをまず議論する。その後、委員会は提案の科学的審査を開始する。
  • 次の段階は、2023年3月22日から開始される予定の6ヶ月間のパブリックコンサルテーションである。次の段階は、2023年3月22日から開始される予定の6ヶ月間の公開協議である。
  • その後、ECHAの2つの科学委員会(リスクアセスメント委員会(RAC)と社会経済アセスメント委員会(SEAC))が意見を発表し、REACH規則に従って12ヶ月以内に終了する。
  • 最終的には、欧州委員会が加盟国の投票に向けた最終案を作成する。その後、禁止措置は2025年に発効する予定である。

2. 永遠の化学物質PFASとは

PFAS(Per- and polyfluoroalkyl substances:パーフルオロアルキル物質およびポリフルオロアルキル物質)は、カーボンとフッ素の結合を持つ有機フッ素化合物のグループで、米国環境保護庁(EPA)によると約12,000種類ものPFASがあるとされている。

化学的に非常に強力で安定しているため、環境中で分解されにくく、生物濃縮性が高いため、長期間にわたって環境中に残存し続ける特性があり、「永遠の化学物質」と呼ばれている。*3

高い耐久性や非粘着性を持ち、耐熱性や撥水性にも優れているという特性から、産業品から日用品まで多様な分野で使用されている。主な用途としては、防水加工剤、油や汚れを防ぐコーティング剤、テフロン加工の調理器具、防水ジャケットやスポーツウェア、食用包装材料、建築材料、冷蔵庫やエアコンの冷却剤、化粧品、半導体製造やバッテリー、塗料、発泡抑制剤、フッ素含有プラスチック材料などに広く使用されている。*4

環境中で自然に分解されないPFASは、雨水や土壌から母乳に至るまで、あらゆるものに含まれていることが確認されている。飲料水、食品や日用品などを介して人間がPFASを生体内に取り込まれると、排泄されずに体内に蓄積される可能性もあり、ホルモンバランスの乱れや発がん性、不妊症など健康に悪影響を与える

例えば、PFASは内分泌撹乱物質としての特性を持ち、ホルモンバランスの乱れを引き起こす可能性がある。特に、甲状腺ホルモンの機能に影響を与える可能性が指摘されている。また、一部のPFASは動物実験においてがんのリスクを高める可能性があるが、人間における影響はまだ確定的ではない。さらに、PFASの曝露が免疫系の機能を低下させる可能性が研究から示唆されている。最後に、妊娠中のPFASの曝露は、新生児の体重減少や発育遅延のリスクを高める可能性があるとされている。

3. EU議委員の血液から少なくとも7種類の有毒なPFAS化学物質

環境NGOは、ブリュッセルの公人の血液中に有害物質が含まれていることを突き止めた。欧州環境局(European Environmental Bureau)とケムセック(ChemSec)が実施したこの血液検査は、EUが化学物質の使用禁止を議論する中で、NGOが主導した啓発キャンペーンの一環である。参加した16人の政治家や公人(EUの競争責任者マルグレーテ・ヴェスタガー、前グリーンディール責任者フランス・ティメルマンス、EU環境委員ヴィルジニウス・シンケヴィチウスを含む)の血液中には、少なくとも7種類の有毒なPFAS化学物質が検出された。5つのケースでは、その量は化学物質の既存の安全基準値を超えていた。*5

過去30年間、自分と子供たちの健康のために、化粧品に含まれる有毒化学物質を避けるよう注意してきたEUの競争責任者ヴェスタガー氏は「自分でできることはいくつもあるが、それだけでは十分ではないということを学んだ」「PFASはどこにでもある」と語った。そして「ヨーロッパは、代替物質を見つけるための研究に投資し続けなければならない」と付け加えた。またオランダの政治家のティメルマンス氏は、「化学物質は私たちの環境、自家製野菜、魚、そして私たちの体に侵食し、永遠に生き続ける」「市民を(永遠の化学物質から)守らなければならない」「この合法化されたゴミの排出をすべて止めなければならない」と、NGOを通じた声明で述べた。*6

このように欧州委員会が、PFAS化学物質が環境や人々の健康に与える影響を懸念している一方で、欧州5カ国が提出したPFAS化学物質の使用禁止提案は、新たな措置がEUの競争力を阻害するという理由から現在のPFAS化学物質に頼る多くの分野から猛反発を招いている。

シンケヴィチウス環境担当委員は声明の中で、多くの分野が化学物質に依存しているため「容易なプロセスではない」と述べた。「しかし、EUの企業や研究者は、より安全な代替物質の開発に非常に積極的であり、すべての関係者との継続的な対話によって、人々、環境、経済の利益のために、実行可能な解決策が可能になると確信している」と述べた。

4. PFAS規制の動向

PFASに関する規制は、国や地域によって異なる動きを見せている。今後、健康リスクや環境への影響を受けて、国際的に厳格な規制が進められているのは明らかである。中でもPFOSとPFOAは特に注目され、すでに多くの国々で規制や監視の対象となっている。*7

  • 「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」(POPs条約)

ストックホルム条約は、持続性有機汚染物質(POPs)に関する国際的な協定で日本も批准している。2009年、PFASの中でも特に問題視されているPFOA(ピーフォア)とPFOS(ピーフォス)が、この条約において新たに制限物質追加され、製造、使用、取り扱いの規制が決定した。その後2019年に「PFOAとその塩及びPFOA関連物質」は製造や使用、輸出入を禁止する廃絶物質に特定された。類似物質のPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)は2022年のCOP10で廃絶物質に追加された。*8

  • 欧州連合(EU)

EUにおける環境と健康への懸念から生まれた重要な取り組みであるPFASの規制案は、PFASが人間や環境に与えるリスクを減らすため、PFASの使用と製造の禁止を求めるものである。同規制案が可決されれば、欧州で過去最大の物質禁止規制となる。また、1万種類以上のPFASが存在するため、禁止は複雑なものになるだろう。

規制案を提出した5カ国は、1万種類を超える化学物質の生産、使用、販売を一挙に禁止しようとしており、その影響は甚大である。この禁止措置は、

EU域内で製造または輸入されるあらゆる種類のPFASに適用される。例外はあるものの、少なくとも1つの完全フッ素化メチル(CF3-)またはメチレン(-CF2-)を含む物質を特に対象としている。欧州委員会がこの提案を採択した場合、企業はこれらの物質が使用されている用途において、約10,000種類のPFASの代替物質を探す必要に迫られることになる。多くの場合、そのような代替物質は存在しないし、将来も存在しないかもしれない。この提案の正式な提出は、それ自体、企業がPFASの代替物質を探す必要があるという明確なシグナルを送るものである。規制が導入されれば、EU加盟国全体でPFASの環境への影響が減少し、人々の健康と環境保護が促進されると期待されている。EUの規制が他の地域や国際社会にも影響を与え、PFASに対する取り組みが世界的に進展していくと予想される。

  • 米国

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