脱炭素投資のトレンドについてシリーズでお届けしているが、産業部門、運輸部門に続いて温暖化ガス排出量の多い分野とされる商業・サービス・事務所などを含む業務・その他部門を取り上げる。
目次
業務その他部門とは?
そもそも業務・その他部門では、事務所、店舗、ホテル、学校といった建築物におけるエネルギー消費及びそれに起因する二酸化 炭素排出量を測定されている。
脱炭素化を議論する際、注目されがちなのが産業分野だが、オフィスビルを含むこの部門のエネルギー消費は膨大である。環境省が公開している2018年度のエネルギー転換部門の発電及び熱発生に伴うCO2排出量で、産業部門、運輸部門に次いで業務・その他部門は1.98億トン(17%)となっている。また、資源エネルギー庁の調査によると、オフィスビルを含めた「企業・事業所他部門」は、日本の最終エネルギー消費全体の約62%を占めている。
(出処:国立環境研究所)
さらに、国立環境研究所によるとCO2排出量の7割は電力によるものだ。業務・その他部門の消費電力削減または電源のグリーン電力への切り替えは喫緊の課題であると言えるだろう。
(出処:国立環境研究所)
そこで、小売業・建設業の中から脱炭素化を牽引している企業を紹介する。
小売業
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスはセブンイレブンなど日米約3万のグループ店舗運営から排出されるCO2を2050年までに実質ゼロとする新たな環境目標を設定。毎年設備投資の5%以上を環境分野に充て、5年間で1千億円を再生可能エネルギー・次世代技術に投じる。
セブン&アイHDはグループ全体で国内小売業で最多規模の年間220万トンのCO2を排出。元々、50年までに13年度比で80%以上削減する目標を掲げていたが、菅首相の実質排出ゼロ目標表明により、削減目標をゼロ修正する。
具体的な措置として、日米コンビニエンスストアやスーパーで太陽光パネルや発光ダイオード(LED)照明など省エネ設備を拡大していく。物流分野ではトヨタ自動車と連携し、水素を原動力とする燃料電池トラックの実用化を試みる。既に燃料電池トラック2台で実証実験中だ。将来的に風力・水力など再生エネによる発電拠点の自社運営や再生エネ事業会社への資本参加も検討。グループで削減しきれないCO2については排出枠を購入するなど、実質排出ゼロを目指す。
消費者に提供するサービスの面でも環境配慮を進める。米セブンは27年までに、250店舗に電気自動車(EV)の充電設備を設置。米国のコンビニはガソリンスタンドとの併設型が多く、EVシフトが進んでもドライバー需要を維持できると期待される。日米のプライベートブランド(PB)でも再生可能資源使用に努める。
丸井
丸井グループは、2030年までにグループ全体で消費する電力をすべて再エネ由来へ転換する。中間目標として、2025年までに再エネ比率を70%まで高めると公表。
手段として、みんな電力の新サービス「ENECT RE100プラン」の実験に参加。これは100%再エネ由来の電力の供給プランで、ブロックチェーンを活用して発電した発電所を追跡可能にするサービスだ。
さらに、同社が掲げたCO2排出量削減目標を「SBTイニシアティブ」が認定したと発表。SBT(Science Based Targets)イニシアティブとは、国連が設立したUN Global Compact、都市や自治体などのCO2排出量を調査公開しているCDP、世界自然保護基金(World Wide Fund for Nature)などが設立した団体だ。
同グループは自社の車両移動や物流センターなどからのCO2排出量、店舗や事業所の運営によるCO2排出量の合計を、2030年度までに2016年度比で40%削減、製品の製造販売消費などによるCO2排出量を2030年度までに2016年度比で35%削減するという目標を立てている。さらに、2050年までには自社車両や物流センター、店舗、事業所運営によるCO2排出量を2016年度比で80%削減する。
イオン
国内小売り最大手イオンは50年の実質排出ゼロの目標を掲げている。2030年にCO2排出量を35%削減(2010年比)することを中間目標とする。
10年以上前の2008年に「イオン温暖化防止宣言」を策定、日本の小売業として初めてCO2削減目標を定めた。2011年には同目標を前倒しで達成。翌年「イオンのecoプロジェクト」を策定し、脱炭素への取り組みにリーダーシップを取ってきた。現在は、2018年3月に表明した「イオン 脱炭素ビジョン2050」の達成に努める。
発電事業者が設置し、発電した電力を、イオンが需要家として買い取るPPA(Power Purchase Agreement: 電力販売契約)モデルの導入を進めている。同社はメリットとして、調達する再エネ電力価格が従来の電力と同等程度である点、初期投資などのコスト負担がない点を挙げている。発電事業者にとっても、パネルを設置するスペースや買い取り先を確保できるなどのメリットがあり、固定価格買取期間が満了した再エネ電力が大量に発生する卒FIT時代において、注目されている形態の一つだ。
(出処:イオン株式会社)
イオンの電子マネーであるWAON加盟店で利用できるWAONポイントを使った仕組みも導入。2018年11月、同社は中部電力株式会社と提携し、余剰再エネ電力を中部電力に提供した家庭にWAONポイントを付与すると発表。以降、四国電力、中国電力とも同様の提携を発表している。固定価格での買取期間が満了した家庭が対象で、消費者にとってはWAONポイントを獲得できるメリットがある。イオンにとっては顧客のエンゲージメントを高めつつ、クリーンエネルギーが調達可能だ。
(出処:イオン株式会社・中部電力株式会社)
不動産・建設業
積水ハウス
積水ハウスはRE100のみならず、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)の正会員の企業としてイニシアチブを発揮。事業活動における省エネルギー・ 再エネ活用など、バリューチェーン全体のCO2排出削減を進め、2050年脱炭素社会の実現を目指す。
事業全体のCO2排出量で最も大きな割合を占める住宅・建築物の居住・使用段階におけるCO2排出削減のためにネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)とネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)の普及を推進。これらは省エネ・創エネなどにより、快適な室内環境を実現しながら年間の一次エネルギー収支プラスマイナスゼロを目指す住宅と建物を指す。
さらに、新築戸建住宅におけるZEH商品「グリーンファースト ゼロ」を市場にいち早く投入。日本初のZEH賃貸住宅・分譲マンションを建設するなど、住宅業界のZEH化をリードしている。また、FIT(固定価格買取制度)において電力会社の買い取り期間10年(あるいは20年)を満了することを指す、卒FITを迎えたオーナー宅の余剰電力を購入してRE100を目指す「積水ハウスオーナーでんき」も開始。SBT認定を受け、脱炭素に向けた取り組みを具体化している。
(出処:積水ハウス株式会社)
投資オプション
不動産の投資ファンド- 上場インデックスファンド日経ESGリート(愛称:上場ESGリート)
運用管理費は0.165%のインデックス型のファンドだ。日経ESG-REIT指数に採用されている不動産投資信託証券に投資し、信託財産の1口あたりの純資産額の変動率を日経ESG-REIT指数の変動率に一致させるよう運用している。この指数は東京証券取引所に上場している不動産投資信託証券を対象にした、不動産セクターのサステナビリティーを評価する国際的なESGの評価基準「GRESB」に応じて設定する係数(ESG係数)を適用した時価総額×ESG係数ウエート方式の指数だ。
日経ESG-REITの組入上位の不動産投資信託証券にはNBF 日本ビルファンド投資法人、日本プロロジスリート投資法人、ジャパンリアルエステイト投資法人が含まれている。それぞれ、GRESBで高く評価されている。
建設会社によるグリーンボンド発行
グリーンボンドとは企業や地方自治体等が、国内外のグリーンプロジェクトに要する資金を調達するために発行する債券だ。現在機関投資家向けであり、個人投資家にチャンスが巡ってくるか明らかでない。しかし、建設会社の間ではグリーン債券の発行は今後も増えるだろう。ここでは2社のクリーンボンドを紹介する。
清水建設
「地球環境に配慮したサステナブルな社会の実現」に向け、「再生可能エネルギーの普及」「省エネ・創エネ、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビル)化の推進」「事業活動におけるCO2排出量削減」「自然環境と生物多様性の保全」に取り組んでいる。グリーンボンドをこれらの一環である省エネ・環境に配慮した建物開発のために建設資金として充当している。
戸田建設
戸田建設グリーンボンド、戸田建設オフショアウインドパワーグリーンボンド(リテール債)、戸田建設グリーンボンド((仮称)新TODA BUILDING)の3種類を展開している。これらは、「汚染予防、資源の有効利用、気候変動緩和・気候変動への適応、生物多様性の維持・保全等に係わる環境負荷低減活動の推進」「環境関連事業及び技術開発、建設物の設計・施工及び施設の管理等すべてにおいて環境課題の解決に向けた活動」「環境に関する法令、協定等順守、情報開示」を掲げた環境指針に関連する事業に充当される。
まとめ
冒頭で触れたように、エネルギー消費の割合が大きい商業施設・オフィスビルの脱炭素化はCO2排出量全体の削減に大きく影響を与えるだろう。電力受容側のサービス・小売業と供給側の再生可能エネルギーを発電する電力会社の業種間を超えた連携が今後も進むことが期待される。さらに、投資家としてはクリーンエネルギーに転換している不動産を一つの判断材料として投資を検討していきたいところだ。
参考リンク:
日本経済新聞:セブン&アイ、脱炭素へ1000億円 日米で50年排出ゼロ
インプレスビジネス:丸井グループが「RE100」に参加、ブロックチェーンを活用した再エネ電力導入へ | 再生可能エネルギー