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IEA:エネルギー技術の展望2023

〜ネット・ゼロ達成に不可欠な6つのクリーン・エネルギー技術とサプライチェーン〜

IEAの新しい報告書によると、世界は新たなエネルギー産業革命、すなわちクリーンエネルギー技術製造の時代の幕開けを迎えており、主要な新市場と数百万の雇用を創出する一方で、新たなリスクも生じ、世界各国は新しいグローバルエネルギー経済における地位を確保するための産業戦略を再構築する必要に迫られている。

エネルギー技術の展望2023(以下、本報告書)」は、IEAの主要なシリーズの最新版であり、将来のクリーンテクノロジー産業に関するグローバルガイドブックとなっている。本報告書は、IEAの「2050年までのネットゼロエミッション(NZE)シナリオ」で示されたクリーンエネルギーへの移行における重要性に基づき、6つのクリーンエネルギー・技術サプライチェーンを詳細に分析している。

これらのサプライチェーンは、2050年までの累積排出量削減の約半分に貢献するという。

クリーンエネルギーのサプライチェーンは以下の3つを調査対象にした。

  1. 低炭素電力(太陽光発電と風力発電とそれぞれの技術サプライチェーンを含む)
  2. 低炭素水素やガス(電気分解機や炭素回収・貯留(CCS)を備えた天然ガスベースのプラントに関する技術サプライチェーンを含む)。
  3. 低炭素合成燃料(低炭素ガス水素サプライチェーンに接続された、CO2を供給するための直接空気捕捉(DAC)およびバイオ燃料製造プロセスに二酸化炭素回収貯留(CCS)を組み合わせた技術(BECC)のサプライチェーンを含む)

クリーン技術のサプライチェーンは、以下の3つに注目した。

  1. 電気自動車(バッテリーサプライチェーンを含む)
  2. 燃料電池トラック(燃料電池サプライチェーンを含む)
  3. ビル用ヒートポンプ

分析によると、世界各国が発表したエネルギーと気候変動に関する公約を完全に実行した場合、主要なクリーンエネルギー技術の世界市場は、2030年までに現在の3倍以上となる年間約6500億ドル規模になるとされている。

関連するクリーンエネルギー製造業の雇用は、現在の600万人から2030年には2倍以上の約1,400万人となり、その半分以上が電気自動車、太陽光発電、風力発電、ヒートポンプに関連するものになる。2030年以降にクリーンエネルギーへの移行が進めば、クリーンエネルギーへの移行を原動力とする産業と雇用のさらなる急速な成長につながるだろう。

IEAの新しい報告書は、新たなクリーンエネルギー経済が経済戦略の中心的な柱となり、すべての国がその機会からどのように利益を得て、どのような課題を克服できるかを明らかにする必要があることを裏付けている。

「新しいクリーンエネルギー技術市場は、数千億ドルの価値と数百万人の新規雇用をもたらすだろう。」

IEAビロル事務局長

この報告書は、主要経済国が気候変動、エネルギー安全保障、産業政策を自国経済のより広範な戦略に統合するために行動していることを指摘している。米国のインフレ抑制法はその明確な例であり、EUのFit for 55パッケージやREPowerEU計画、日本のGX実行計画、太陽光発電や電池の製造を奨励するインドのスキームもあり、中国は最新の5カ年計画の目標を達成、さらにはそれを上回るよう取り組んでいる。

IEAは、クリーンエネルギー経済の中で競争力を高めるために、クリーンエネルギー技術製造のためのグローバルなプロジェクト・パイプラインが大規模かつ拡大していることが明らかになっていると報告している。今まで発表された政策がすべて実行されれば、クリーンエネルギー技術製造への投資は、2050年までに排出量ネットゼロへの道筋に必要とされるものの3分の2を提供することになると試算する。現在の勢いは、今後もまだまだ続く見込みだ。

サプライチェーンの多様化が必要

同時にIEAは、クリーンテクノロジーのサプライチェーンがより多様化すれば、世界は恩恵を受けるだろうと指摘する。ヨーロッパのロシア産ガスへの依存に見られるように、国や地域が一企業、一国、一貿易ルートに過度に依存した場合、混乱のリスクが高まる。その結果、世界中の多くの国が、新しいエネルギー経済のリーダーとなるべく、またネット・ゼロへの競争においてクリーンテクノロジー製造の拡大を推進すべく、競い合っているのだ。しかし、IEAは、この競争は公平であるべきで、健全な国際協力が重要であると指摘している。なぜなら、どの国もエネルギーの島ではなく、各国が協力しなければ、エネルギーの移行はよりコストがかかり、時間がかかるからである。

重要な鉱物資源と製造能力

現在のクリーンエネルギー技術のサプライチェーンは、資源の採掘や加工、技術の製造が地理的に集中しているという形でリスクを抱えている。ソーラーパネル、風力、電気自動車用バッテリー、電解槽、ヒートポンプなどの技術については、3大生産国が各技術の製造能力の70%以上を占めており、そのすべてにおいて中国が優位に立っている。一方、重要な鉱物の採掘は、少数の国に集中している。例えば、コンゴ民主共和国は世界のコバルトの70%以上を生産し、リチウムはオーストラリア、チリ、中国の3カ国だけで世界の生産量の90%以上を占めている。

近年、クリーンエネルギー技術の価格を押し上げ、各国のクリーンエネルギーへの移行をより困難でコストのかかるものにしているサプライチェーンの逼迫のリスクを、世界はすでに目の当たりにしている。コバルト、リチウム、ニッケルの価格上昇は、2022年に世界で10%近く跳ね上がった史上初のEV用バッテリー価格の上昇につながった。中国以外の風力タービンのコストも長年低下していた後、上昇しており、太陽光発電にも同様の傾向が見られる。

また、多くのクリーンエネルギー技術に必要な重要鉱物に関連する具体的な課題として、新規鉱山開発のリードタイムの長さや、環境・社会・ガバナンス基準の強化が必要であることを指摘している。重要な鉱物資源が地理的に不均一に分布していることから、供給の安定性を確保するためには、国際的な協力と戦略的なパートナーシップが不可欠となる。

積極的な貿易・投資政策がカギを握る

一方、クリーンエネルギープロジェクトの開発者や投資家は、競争力を高めるためのそれぞれの国や地域の政策に注目している。製造施設の稼働までのリードタイムが平均1〜3年程度と比較的短いため、投資に適した環境であれば、プロジェクトのパイプラインは急速に拡大する可能性がある。報告書によると、世界で発表された太陽光発電の製造プロジェクトのうち、建設中または間もなく建設が開始されるものはわずか25%である。EV用電池では約35%、電解槽では10%以下となっている。政府の政策や市場の動向は、これらのプロジェクトの残りの行き先に大きな影響を与える可能性があると指摘されている。

本報告書は、製造業の規模を拡大するという地域別の目標がある一方で、クリーンエネルギー技術のサプライチェーンにおける国際貿易の重要な役割を強調している。それによると、世界で生産される太陽光発電モジュールの60%近くが国境を越えて取引されている。また、電気自動車のバッテリーや風力タービンの部品も、その大きさにもかかわらず、貿易が重要であり、現在では中国が主な純輸出国となっている。

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