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カーボンクレジット市場予測:「高品質」の定義が鍵

カーボンオフセットとは、人間の活動によって排出される温室効果ガスを、他の場所での同ガス削減・吸収活動で埋め合わせるという考え方。多くの企業や自治体は自ら2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指す中、カーボンオフセットの事業が世界的にも広まっている。

民間主導のカーボンオフセット市場は、1トン当たりの炭素排出量に相当する検証済み排出削減・吸収クレジットの取引を可能としており、今後数年間は、岐路に立たされるだろう。ブルームバーグNEF(BNEF)が1月末に公表した調査レポート「2023年長期カーボンオフセット見通し」では、2022年の市場を総括し、2050年までの3つの主要シナリオ(1)自主的市場(成り行きシナリオ)2)炭素除去市場(1.5Cシナリオ)3)分岐シナリオのもとでのカーボンクレジットの供給、需要、価格を予測している。

BNEFは、いくつかの基本的な問題が解決されれば、長期的に強気の見通しが描かれ、カーボンオフセット市場は早ければ2037年には年間1兆ドルの市場価値に成長する可能性があると指摘する。

2022年のオフセット市場は縮小した

しかし2022年中に企業は低品質クレジットの購入による風評リスクを懸念し、2021年から4%減のわずか1億5500万トン分のオフセットを購入した。同時に、前年度にカーボンオフセット購入で大きく取り上げられた暗号通貨会社は、トークン化によって市場の透明性をさらに曖昧にするとの懸念から、最大のカーボンクレジット認証プロバイダーのベラ(Verra)から追放された。こうしたクレジットの供給は2021年にわずか2%増加し、77の異なる市場のプロジェクトによって2億5500万トン分のオフセットが創出された。投資家やメディアは、クレジットの質、特に森林破壊の回避によって排出削減クレジットが創出されたプロジェクトに対して厳しい目を向けた結果、それらの2022年の供給量が32%も低下したこという。同時に、オフセット市場のために新たに創設された一連の先物契約の価格も年間を通じて急落した。コモディティーエクスチェンジCBLの「ネイチャーベース・オフセット先物」は、コベネフィット(複数の分野における複数のベネフィット)のある高品質のREDD+(森林保護)や森林再生プロジェクトをソースとしており、2022年2月に14.4ドル/トンで取引を開始したが、その後2022年末には4.6ドルまで低下した。

長期的に基本的な需要がテンポを決める

現在の変動するオフセット需要のほとんどは行動的なもので、企業が製品の差別化や顧客満足のためにオフセットを購入することを意味する。BNEFは、行動的需要が2023年の1億8100万トン(MtCO2e)から2050年にはゼロになると予測しており、基本的な需要によって置き換えられるとする。これは、企業がネット・ゼロの目標に向かって努力し、総排出量を削減した後に残る排出量を相殺するためにオフセットが必要になることを意味する。BNEFのベースライン予測では、基本的な需要は2030年に11億トン(GtCO2e)、2050年に5.4GtCO2eまで増加するとされている。基本的な需要は価格弾力性が低く、長期的に引き継がれるが、企業が目標を守り、金融機関がポートフォリオの中でこれを強制することが条件となる。

現在の市場構造は持続不可能である

BNEFの自主的市場(ボランタリーマーケット)シナリオでは、企業は、現在の市場が機能しているのと同様に、行動的・基本的な需要を満たすために、どのような種類のオフセットでも自由に購入することができる。これには、セクター、地域、ビンテージ(発行年数)、プロジェクトが炭素を回避または除去するかどうかに関する完全な柔軟性が含まれる。このシナリオでは、2030年の供給量(4.5GtCO2e)は需要量(1.2GtCO2e)のほぼ4倍となり、森林破壊の回避が創出されるクレジットの64%を占める。この時点でのオフセット価格は1トン当たりわずか13ドルであり、市場の価値はわずか150億ドルである。2050年には、ネットゼロの目標を達成する必要がある企業からの需要が高まり、価格は35ドル/トンに上昇する。このような結果になると、企業は安価で低品質なオフセットへの投資を続けることができ、一方、直接空気回収(DACC)などの重要な技術に基づく大気中から炭素を除去する事業は、必要な投資を得ることができなくなる。

炭素除去のみの市場では、オフセット価格が高騰する

炭素除去シナリオでは、ネットゼロを目指す同じ企業が、炭素除去プロジェクトによるカーボンオフセットのみを購入できる市場を想定する。

この場合、森林再生や再生農業といった自然を基盤とした解決策(ネイチャー・ベースド・ソリューション)や、大気中からCO2を直接回収する技術(DACC)がより重視され、森林破壊の回避や再生可能エネルギーといった分野からの削減系のクレジットの需要が激減することになる。炭素除去のみの市場では、2050年まで需給は逼迫し、2037年から2044年までは一時的に供給が不足する。価格は2030年に42ドル/トンまで上昇し、2032年には105ドル/トン、2037年には254ドル/トンに跳ね上がり、市場の価値は年間1兆ドル近くになる。このシナリオは、市場を最も大きく成長させ、技術に基づく炭素除去に必要な投資を誘導する一方で、このような高価格は、購入者を遠ざけ、達成するには高すぎるため、ネットゼロ目標を断念させる可能性がある。

高品質と低品質の標準的な定義を作成することは、オフセット市場の宇宙開発競争である

市場の行方を決めるのは「品質」の定義だ。

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