オーストラリアの気候技術系新興企業であるコンリーテック(英:Conry Tech)は、空調産業が地球に与える深刻な影響を主張する報告書(*1)を発表した。コンリーテックは、空調機器の再発明を使命とし、その排出量を大幅に削減(40%削減)することを目指している企業である。報告書の著者であるコンリーテックのCEO兼共同設立者、サム・リングワルト氏は、「暑くなる世界において快適に過ごすために必要な空調技術が、気候変動の主な原因となっている」と指摘した。「特に40℃を超える日が増えている地域では、空調は贅沢品ではなく、人間の健康、福祉、生存のための必需品となるだろう。そのため、空調なしでは生きられないのであれば、空調によって地球が大混乱に陥らないようにするより良い方法を見つける必要がある」と強調した。(*2)
報告書の発見
冷暖房などの空調業界は毎年55億トンのCO2を排出している。これは世界のエネルギー関連排出量の15%に相当し、地球上のすべての乗用車の排出量よりも大きく、また問題視されている鉱業、コンクリート製造、航空業界の排出量よりも格段に多い。各国の排出量と比べても、中国を除き、一国の排出量で、空調業界合計のCO2排出量を越える国は存在しない。日本の2021年の年間CO2排出量の約10億8千万トンに比べると、空調業界の排出量は日本全体の5倍以上に匹敵する。
さらに、空調業界は主要な汚染源であるだけでなく、その極端な電力消費は送電網に余分な負担をかけ、再生可能エネルギーへの世界的な移行を遅らせている。毎年、空調だけで、世界中で発電される太陽エネルギーの2倍のエネルギーを消費しており、さらに、世界中の2023年の空調用エネルギー需要を満たすには、住宅用ソーラーパネル6兆枚分と同量のエネルギー貯蔵が必要となる。これらのパネルを横に並べると、イギリスの国土全体をカバーするのに十分な大きさになる。
迫り来る冷気の危機
一年の大半、もしくは空調が必要なほど暑い地域に住む人々は、世界人口の35%で、そのうちエアコンを所有しているのは現在15%程度である。今後、インフラが整い、生活水準が向上し、気候変動によってさらに暑い日が増えることで、この割合は2050年までに60%、2070年までに70%に跳ね上がると予測されている。また人口増加もこれに拍車をかけており、2030年までに増加する建物の床面積の半分以上は、冷房の必要性が高い地域で発生すると予想されている。国際エネルギー機関(IEA)はこの傾向を「迫り来る冷気の危機」と呼び、今後数十年で冷房需要が急増すると予測している。明言されている政策意図に基づけば、冷房需要は今後30年間、過去30年間の需要の8倍の速さである年率3%以上で成長する。
日本の空調事情
ヨーロッパでは比較的夏が涼しいため、冷房機器を設置している世帯の割合はドイツで全体の3%、イギリスが5%、フランスが5%に留まる。しかし近年の気候変動で猛暑が増えているため、今後は冷房機器の需要が高まると見られている。一方日本ではすでに90%の世帯に空調機器が設置されている。また経済産業省によると、1世帯につき平均3台のルームエアコンが設置されている。一方でエアコンは省エネ機能を初めとするテクノロジーの進化のおかげで、エネルギー消費が30年前と比較して約半分となっている。(*3) 従って、国内メーカーの挑戦場は海外に移っており、大手空調メーカーで売上一位のダイキン工業の空調事業の22年度の海外売上高は既に全体の85%を占めている(*4)。
これからの空調業界
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