オーストラリア第2位の年金基金「ファーストステート・スーパー」は、気候変動のリスクを軽減するために、10年以内に投資ポートフォリオにおける二酸化炭素排出量をほぼ半減させることを目指すと発表した(*1)。
同基金は、2030年までに温室効果ガスの排出量を45%削減するようオーストラリア政府に働きかけ、その目標を自身のポートフォリオに反映させていくとしている。1200億豪ドル(約9兆円)の同ファンドは、2023年までに保有する株式のCO2排出量を30%削減し、石炭生産者からダイベストメント(投資撤退)を行うことで、いわゆる座礁資産の保有を避けるためにエネルギーポートフォリオの見直しを続けていくと明らかにした。
最高経営責任者(CEO)のディーン・スチュワートは新方針について次のように述べた
『責任あるオーナーとして、年金ファンドは、より豊かで持続可能な未来に向けて、今必要とされている行動を実現するために、強力で野心的で透明性の高い目標を設定することが不可欠です。』
この行動計画は、多くの年金加入者やステークホルダーが、世界大手のブラックロックやオランダの公的年金ABPのような欧米投資家に倣って、オーストラリアの年金基金に対し数ヶ月間に渡り温室効果ガス排出量が多い企業への投資を減らすよう圧力をかけてきた後に発表されたものである。年金加入者やNGO団体は、昨年末発生したオーストラリアの森林火災により気候変動の影響に対する懸念が高まり、年金基金へこのような要求を強めるようになったという。ファーストステート・スーパーに先立ち、ヘルスケア業界の大手年金基金である HESTAは先月、野心的な「気候変動移行計画」を発表した。それは2030 年までに投資ポートフォリオの二酸化炭素排出量を 33%削減し、2050 年までに「ネット・ゼロ(実質ゼロ)」にすることを約束したものである。(*2)
なおファーストステートは低炭素経済に向けて以下の具体的な措置を取ると発表している。
- 株式ポートフォリオにおけるスコープ1とスコープ2の二酸化炭素排出量を、2023年までに12月31日の水準から30%削減する。(同ファンドは、Anglo American Plc. 、Exxaro Resources Ltd. 、Whitehaven Coal Ltd. 、Stanmore Coal Ltd. 、New Hope Corp. 、Washington H. Soul Pattinson & Co.など、収益の10%以上を石炭採掘により得る企業からダイベストメントを行っている)。
- ポートフォリオ全体の二酸化炭素排出量を2030年までに12月31日時点の排出量から45%削減する。
- 適用されるすべての資産および投資におけるCO2排出量に価格を付けるカーボンプライス(社内炭素価格)を組み込む。
- 基金のエネルギーポートフォリオの構成を見直し、低炭素経済への移行が困難な分野の売却や除外を検討する。
- 再生可能エネルギーと持続可能な技術に3年間で約5億豪ドル(370億円)を投資する。
- 投資先企業に温室効果ガス削減目標や計画に沿った取り組みを促すために継続的にエンゲージメントを実施する。
しかし、ファーストステート・スーパーは新型コロナウイルスの大流行により、投資判断において環境、社会、ガバナンスの問題に焦点を当てるべきであるにもかかわらず、同ファンドが設定した排出削減目標を達成できない可能性があることも認める。長期的な目標は、他の企業が参加して初めて達成できるものであり、ファンドは業界内の他の企業を積極的に巻き込んでコミットメントを強化していくことが必要とされている。
近い内に日本でもESG配慮を重視する年金基金、保険会社や資産運用会社にファーストステート・スーパーのような積極的な方針転換を期待したい。
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