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世界の温室効果ガス排出量は増加を続け、各国の気候変動計画は依然として必要な削減水準に届いていない。今年ブラジルのベレン市で開催された国連気候変動会合COP 30に先立ち公開された国連環境計画(UNEP)の最新報告書は、各国が提出した新たな気候変動計画が温暖化を抑制する上でほとんど影響を与えていない現状を明確に示した。UNEPは現行政策と国際的な温暖化対策目標との間に存在する深刻な排出ギャップの実態を、改めて世界に突きつけている。*1

「国が決定する貢献」の弱さが浮き彫りに

UNEP のインガー・アンダーソン事務局長は、同機関が世界の「排出ギャップ」を分析した第16回年次報告書を公表した際に、最新の各国の気候変動計画が将来の温暖化に対して「ほとんど針を動かしていない」と警告した。

報告書は、各国が発表した政策と誓約に基づく将来の排出量の見通しと、パリ協定で定まれている世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べ2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する目標達成に必要な排出水準との差を明確に示している。そして、パリ協定では全ての締約国が温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として5年毎に提出・更新するルールとなっている中、今年提出期限を迎えた各国の最新のNDCが、このギャップを縮める効果は「限定的」であると結論付けた。

世界の気温は今世紀に2.3〜2.5度上昇する見通し

報告書によれば、各国が2035年までの排出削減計画を完全に実施したとしても、世界の気温は今世紀に2.3〜2.5度上昇する見通しである。現在の政策のみを実施すると、最大2.8℃の温暖化が見込まれる。*2 アンダーソン氏は「各国の取り組みに進展はあるものの、そのペースは全く不十分である」と述べた。

パリ協定から10年が経過し、UNEPは同協定が世界の気温予測を引き下げ、再生可能エネルギー技術や政策、導入目標の拡大を後押しした「極めて重要な役割」を果たしたと評価している。しかし同時に、排出削減の速度が遅いために、世界が今後10年以内に1.5度目標を「非常に高い確率で」超過することを警告した。

1.5度目標を超える場合でも、その超過(オーバーシュート)を「一時的かつ最小限」に抑えることが、人や生態系への被害や、将来的な「危険で高コストな」炭素除去技術への依存を減らすために極めて重要だと報告書は強調する。

報告書の他の主要な指摘として、中国の排出量が2025年にピークに達する可能性があること、そして

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2025/11/24

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2025/11/24

SBTiの企業ネットゼロ基準v2.0、主な変更点

企業の温室効果ガス排出量削減目標設定の主要基準策定機関であるSBTIは、企業向けネットゼロ基準バージョン2.0の最終草案を公表した。同草案はネットゼロ目標達成に向けた企業行動の柔軟性を強化すると同時に、実質ゼロ達成までの過程で削減しきれない継続的な排出量への責任ある対応を義務化する方向へ移行している。 主なポイント • 主な更新点:スコープ3目標達成方法の明確化、義務的な移行計画への対応を評価 • 今回の改訂案への意見提出期限は12月8日 • 現行スケジュールでは、新基準は来年(2026年)公表され、20 ...

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2025/11/9

COP30の舞台裏、アマゾン熱帯雨林での石油・ガス拡張支援に批判集中

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2025/11/7

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2025/10/25

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2025年10月17日、東京国際フォーラムで「NATURE TECH!」が開かれた。技術革新と自然再生を結びつける取り組みが紹介され、世界で注目が高まるネイチャーテックの動向が共有された。投資規模は約3000億円に拡大し、衛星やドローンによる自然の計測技術や、熊本など地域単位で自然を守る取り組みの重要性が示された。日本は今後、自然計測の国際標準化を主導していく方針を掲げている。*1 ネイチャーテックとは? ネイチャーテック(Nature Tech)とは、自然を測定・評価・再生・活用するための技術群である。 ...

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2025/9/29

COP30国連気候サミットを前に各国が新たな気候目標を提出

11月10日からブラジル・ベレンで開催される国連気候変動会議COP30まであと数週間となり、各国は2035年までの新たな気候変動対策目標の提出を急いでいる。 しかし、それらは壊滅的な気候変動を防ぐのに十分になるだろうか?日本以外の主要国の現状の国別目標の提出状況や進展について、本記事でピックアップする。 「これ以上の危機はない」と国連高官はニューヨークでの国連気候サミットを前に記者団に語った。過去数ヶ月の夏だけで、大規模な洪水、干ばつ、長期化する熱波など、数々の異常気象が各地の人々を襲った。気候災害は「あ ...

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2025/9/28

SBTIや国連で、自然に基づく解決策を排除する動きに科学者が反論

気候科学者の連合は、気候変動に関する国際枠組みから自然を基盤とした気候変動対策(NCS)を排除する制約的な政策の再考を世界の政策立案者に強く求めている。こうした排除は緊急に必要な温室効果ガス排出削減を遅らせる恐れがあると警告している。*1 企業の科学的根拠のある温室効果ガス排出量削減目標設定を推進するSBTi(Science Based Targets Initiative)と国連パリ協定第6条4項監督機関宛ての書簡*2で、40名以上の科学者らは「自然に基づく解決策」を永続性が欠如しているとして不当に軽視 ...

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ブルームバーグ・インテリジェンスの最新ESG投資家調査によると、投資家の約85%が今後2年間でESG関連運用資産(AUM)の成長を予想している。 3分の2が気候変動対策に焦点を当てたAUMの同様の成長を見込んでおり、政治的・市場的な反発が続く中でも持続的な勢いが示唆されている。*1 回答者のほぼ半数が、2027年までにポートフォリオの15%以上をESGに割り当てる意向を示し、44%が気候関連商品についても同様の割合を見込んでいる。本調査は北米、欧州、アジア太平洋、中米、南米の投資専門家252名を対象に実施 ...

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