米国

気候変動の影響が顕著化する中、年々異常気象や自然災害が増加しており、環境への取り組みが各国で優先事項となってきている。

一方で、近年、各国の金融センターでは、サステナブル・ファイナンスの方針が見直されている。石油・ガス価格の高騰やエネルギー安全保障の優先が影響し、特に米国ではサステナブル・ファイナンスが困難に直面している。

金融セクターは、将来のエネルギー転換を支える道を選ぶのか、それとも現在のエネルギー需要に押し流されるのか?本記事では、2025年におけるサステナブル・ファイナンスに関する7つの予測(*1)と2025年に注目すべき主な環境・社会・ガバナンス(ESG)投資に関わるテーマ(*2)をお届けする。

気候変動対策を推進するための枠組みからの脱退が相次ぐ

近年の動向として、ロンドン、ニューヨークといった主要な金融センターでは、気候変動への取り組み方針が見直されつつある。過去2年間に石油・ガス価格の高騰が起こり、エネルギー安全保障が最優先課題となったことで、サステナブル・ファイナンスは、特に米国において、敵対的な政治環境の中で厳しい状況に直面している。そのような環境の中、2025年にサステナブル・ファイナンスに影響を及ぼす7つの動向を紹介する。

2025年におけるサステナブル・ファイナンスの主要な動向と予測

米国での反ESG運動の影響は避けられないものの、ESG投資家の忍耐力も負けない

  1. 株主提案の権利制限
    • 米国では、トランプ政権下で株主が環境・社会問題に関する提案を行う権利が制限される見通しである。これにより、企業がESG提案を拒否しやすくなる可能性が高い。
  2. 気候情報開示規則の撤回
    • バイデン政権が導入した企業の二酸化炭素排出量の開示義務が撤回されると予想される。ただし、欧州やカリフォルニア州の厳しい規則により、この影響は軽減されるだろう。
  3. ESG受託者の権利の変更
    • 年金受託者が投資判断でESG要因を考慮することを認めた規則が変更される可能性があるが、サステナブル投資を支持する年金基金の反論により、規則の実施には課題が残る。
  4. ESG関連株主提案の減少
    • ESG課題に関する株主提案は減少し、その支持率も低下すると予想される。特に、2024年には支持率が27%に低下しており、2025年も同様の傾向が続くと考えられる。
  5. 長期投資家の継続的な支持
    • 長期的なESG志向の投資家は、2025年もその戦略を維持する予定である。特に年金基金は、気候変動リスクを重視し、サステナブル投資を拡大する見込みだ。
  6. サステナブル投資信託・ETFの回復
    • 短期投資家が利用するサステナブル投資信託やETFは、2025年に資金流入が回復すると予測される。金利環境の改善や欧州の規則整備が市場の信頼を高める。
  7. 欧州のESG規制の簡素化
    • 欧州では複雑化したESG報告義務を簡素化する動きが進行中であり、規制廃止ではなく、成果を重視した合理的な見直しが期待される。

米国におけるサステナブル投資家への3つの挑戦

トランプ大統領が米国証券取引委員会(SEC)の委員長に選んだポール・アトキンス氏は、証券規制の合理化を志向するESG懐疑論者である。 強硬な右派イデオローグとは見なされないが、バイデン政権時代にSECが支持したESGフレンドリーな規制を覆すだろう。

ここから先は「ThinkESG プレミアム」会員限定の
コンテンツです。

4つの特典が受けられる「ThinkESG プレミアム会員(1ヶ月定期購読)」の詳細についてはこちらをご覧ください

「ThinkESG プレミアム会員(1ヶ月定期購読)」へはこちらからお申し込みいただけます

「ThinkESG プレミアム」会員の方はログインしてください。

ESGブログ・意見 ThinkESGプレミアム会員限定

2025/1/19

2025年のESG展望~サステナビリティの重要な年に向けて~

気候変動の影響が顕著化する中、年々異常気象や自然災害が増加しており、環境への取り組みが各国で優先事項となってきている。 一方で、近年、各国の金融センターでは、サステナブル・ファイナンスの方針が見直されている。石油・ガス価格の高騰やエネルギー安全保障の優先が影響し、特に米国ではサステナブル・ファイナンスが困難に直面している。 金融セクターは、将来のエネルギー転換を支える道を選ぶのか、それとも現在のエネルギー需要に押し流されるのか?本記事では、2025年におけるサステナブル・ファイナンスに関する7つの予測(* ...

ESGニュース ThinkESGプレミアム会員限定

2024/11/9

液化天然ガスのカーボンフットプリントは石炭より悪い

コーネル大学の新しい研究によると、液化天然ガスは、生産、処理と輸送を考慮すると、石炭よりも33% 多くの温室効果ガスを排出する。 *1 これは、10月3日発行の「エネルギーサイエンスとエンジニアリング」に掲載された「米国から輸出される液化天然ガスの温室効果ガスフットプリント」という研究から判明した。*2 米国は世界最大の輸出国 2016年に液化天然ガスの輸出が解禁されて以来、米国からの輸出は劇的に増加し、今や米国は世界最大の輸出国となっている。  この液化天然ガスは主にシェールガスから生産される ...

ESGニュース ThinkESGプレミアム会員限定

2024/9/8

ブラックロック、ESG株主提案の4%のみ支持

8月、世界最大の投資会社であるブラックロックは、環境および社会問題(ESG)に対処する株主提案への支持を大幅に削減したと報告した。2023年7月から2024年6月まで、同社はそのようなESG株主提案493件のうちわずか4%を支持した。2021年、ブラックロックは株主によるESG議案の47%を支持した時と比べて、賛成票は1割以下まで激減した。*1 これは、持続可能性と社会関連の株主提案の総数が全体的に増加しているにもかかわらずだ。たとえば、米国では、気候変動と自然資本のリスクと、従業員とコミュニティへの企業 ...

ESGニュース ThinkESGプレミアム会員限定

2024/7/28

ハリスが大統領になったなら気候変動にどう取り組むか?

バイデンのレガシーを引き継ぐ もしハリス政権となった場合は、バイデン政権が達成した環境政策の長いリストを引き継ぐことになる。バイデン大統領は、再選を目指して立候補を継続しないことを発表した書簡の中で、バイデン大統領の時代にアメリカは 「世界史上最も重要な気候変動に関する法律を成立させた 」と強調した。*1 これはバイデン大統領が成し遂げたインフレ抑制法(IRA)のことで、史上最大の気候変動対策法案である。IRAは、再生可能エネルギー開発に対する数千億ドルの税制補助金や助成金を動員し、グリーン雇用の促進、公 ...

ESGニュース ThinkESGプレミアム会員限定

2024/6/13

バイデン政権、炭素市場への責任ある参加のための7つの新原則を発表

バイデン政権は、自主的な炭素市場に関する7つの新原則を発表し、連邦政府の気候変動アドバイザーや農務省、エネルギー省、財務省の官房長官らが署名した。この原則は、最近論争の的になっている自主的な炭素市場(VCM)への信頼を回復することを目的としている。 5月28日に発表された同原則は、企業のCO2オフセットクレームの信頼性への懸念が出ていることを認めながらも、炭素市場への投資は米国の気候変動目標に向けて「大きな前進をもたらす」ことができると述べている*1。 VCM市場では、企業が新たに植林するなど、温室効果ガ ...

ESGニュース ThinkESGプレミアム会員限定

2024/6/30

2024年総会シーズン、気候変動関連の株主総会決議に注目

毎年4月から5月にかけて米国で、そして日本では6月頃に、多くの大企業が年次株主総会を開催する。総会では、株主が取締役会専任議案に対する賛否や、サステナビリティ課題に関する懸念やその他の重要事項に関する決議を行う機会である。 2024年の総会シーズン、株主は金融機関やその他の炭素集約型企業に対し、気候変動関連の情報開示を強化し、世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるという世界的目標を達成する道筋と整合する事業戦略を求めている。 国際エネルギー機関(IEA)によれば、2050年までに世界の気温上昇を1.5 ...

ESGニュース ThinkESGプレミアム会員限定

2024/4/4

米EPA、トラックの排ガス規制強化

米国環境保護庁(EPA)は3月29日、大型車による排気ガスを大幅に削減し、ディーゼルエンジンによる貨物輸送から電気自動車への移行を加速させることを目的とした、新型トラック、配送バン、バスの新排出ガス基準を最終決定した。*1 連邦政府がディーゼルトラックによる排出ガスを取り締まるのは、20年以上ぶりのことである。*2 新しい排出基準は、バイデン政権が3月中旬に電気自動車充電と水素燃料供給インフラを全米の貨物輸送路に配備する計画を発表したことを受けて導入された。*3 運輸部門は、米国の温室効果ガス排出量の約2 ...

ESGニュース ThinkESGプレミアム会員限定

2024/3/27

カーボンニュートラルな44階建タワマン、ニューヨークに誕生

この春、カーボンニュートラルな44階建ての高層ビルがニューヨークで公開される。ブルックリンのステート・ストリート505番地に建設されるこの高層ビルはオール電化で、敷地内で化石燃料を燃やさない。さらに、自家消費型太陽光発電、断熱性の向上、トリプルガラス窓、住宅用ヒートポンプ、電気温水器などの創エネ・省エネ・電化技術を統合することで、このビルはすべて太陽光発電で運営される。 二酸化炭素排出量の40%近くを排出する建築業界 冬にはガスストーブで家を温め、調理にはガスコンロを使う家庭が今でも一般的であるこの世界に ...

ESGニュース ThinkESGプレミアム会員限定

2024/3/9

米証券取引委員会(SEC)、気候関連情報開示規則を最終決定

2024年3月6日、米国証券取引委員会(SEC)※は、上場企業による気候関連情報開示の強化・標準化を図るため、年次報告書や財務諸表などにおいて、 一定の気候関連情報を開示することを要求する最終規則を採択した。*1 ※米国証券取引委員会(英:U.S. Securities and Exchange Commission、略称: SEC)は、アメリカ合衆国における株式や公社債などの証券取引を監督・監視する連邦政府の機関である。*2 SECは、2022年3月21日にこの規則を提案し、その詳細な要件について、投資 ...

ESGニュース ThinkESGプレミアム会員限定

2024/2/19

米資産運用大手が気候変動グループから離脱

世界的資産運用会社であるJPモルガン・アセット・マネジメントとステート・ストリート投資顧問が、投資先企業との積極的なエンゲージメントを通じて企業の気候変動対応を改善することを目的とする著名なグローバル投資家連合であるクライメート・アクション100+(CA100+)から離脱した。CA100+には700以上の機関投資家が参加しており、加盟企業の運用資産総額は68兆ドル規模(約1京円)に上る。 この動きは資産運用業界の最大手ブラックロックも同様で、ブラックロックはCA100+の会員資格を国際部門に移し、参加を制 ...

© 2025 ThinkESG