米国

ウォール街の大手金融機関は、190カ国以上が合意した気温上昇の上限を大幅に超える、深刻な地球温暖化の未来を既成事実として捉えつつある。各社はこれに備え、気候変動によるリスクとチャンスの両面を見据えたビジネス戦略を構築している。

パリ協定を超える気温上昇を織り込む金融業界

業界関係者向けの文書から明らかになったのは、ウォール街の大手金融機関が、2015年に190カ国以上が合意したパリ協定が定める世界の平均気温の上昇を産業革命前と比較して、2℃より十分低く抑え、1.5℃度に抑制する努力を追求する目標を大きく超える、深刻な地球温暖化の未来に備えているという事実である。*1

2度を超える気温上昇を防ぐことはもはや不可能だとするこうした大手銀行の認識は、クライアントや投資家、業界団体のメンバー向けに発行された、あまり目立たない報告書の中に明記されている。多くの報告書は、ドナルド・トランプ大統領が再選された後に公表された。トランプ氏は、再生可能エネルギーを支援する連邦政策を撤廃しようとし、同時に地球温暖化の主因である石油・ガス・石炭の生産を一層推進している。

最近では、モルガン・スタンレー、JPモルガン・チェース、国際金融協会(Institute of International Finance)による報告書が発表されており、それらはウォール街が事実上、温暖化の目標は達成不能と判断したことを示している。そして、気温と被害が今後さらに悪化することを前提に、これらの金融機関がどのように利益を維持しながら事業を続けていくのかが語られている。

「我々は現在、+3℃の世界を想定している」と、モルガン・スタンレーのアナリストは今月初めに記し、「最近の世界的な脱炭素化への努力の後退」を理由として挙げている。

拡大するビジネスリスクとチャンス

この驚くべき結論は、モルガン・スタンレーが、深刻な干ばつや農作物の不作が広範囲に広がり、海面上昇が数インチ(※1インチは2.54cm)ではなく数フィート(※1フィートは30.48cm)単位となり、熱帯地域では何週間にもわたり極度の高温多湿が続き、屋外で働く人々にとって命に関わるリスクをもたらすような未来が現実に迫っていると見ていることを意味している。

米国がトランプ政権下で脱退を進めている「パリ協定」は、平均気温の上昇を産業革命前の水準よりも「2度を十分に下回る水準」に抑えることを目標としているが、科学者は、1.5度という閾値(世界が昨年初めて単年で超えたレベル)を恒常的に超えることで、サンゴ礁の崩壊のような、気候変動によるより深刻な影響が現れる可能性があると警告している。サンゴ礁は、何億人もの人々にとって、食料や高潮からの保護の源となっている。

モルガン・スタンレーの気候予測は、3月17日にクライアント向けに提供された、空調関連株の将来についての一見平凡な調査報告の中に記載されていた。

アナリストは、気温が3度上昇するというシナリオでは、

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