環境経営

気候変動対策が企業の競争力と直結する時代において、その評価基準のあり方が大きな転換点を迎えている。本記事では、企業の脱炭素対策を巡る主要な世界的基準設定機関であるSBTi(サイエンス・ベースド・ターゲッツ・イニシアチブ)が発表した新たなルールブックを巡る議論と、その背景にあるビジネスの現実や米テック企業のロビー活動について詳しく解説する。

SBTiの新たなジレンマと「企業ネットゼロ標準v2.0」

企業の気候変動に関する取り組みを評価する枠組みは、いわゆるグルーチョ・マルクスのジレンマに直面していると指摘されてきた 。メンバーシップのルールを厳格にしすぎると要件を満たせる企業がほとんどいなくなり、逆に緩すぎると全く意味を失ってしまうからである 。

6月11日、SBTiは、多くの企業の脱炭素化取り組みにおける事実上の指針となっている主要なルールブックの新しいバージョンを公開した 。新たな「企業ネットゼロ標準v2.0」は、世界の時価総額の4割以上を占める1万以上の認定企業に適用される 。SBTiの最高経営責任者であるデビッド・ケネディ氏は、この文書が厳密さと現実主義が重なり合う「最適点(スイートスポット)」を見つけたと語り、「ビジネスにとって良く、地球にとって良い」と評価している 。*1

SBTiの企業ネットゼロ基準の初版発表から5年近くが経過した今回の改訂では、5年ごとの脱炭素化のマイルストーンを優先する大幅な変更が盛り込まれ、バリューチェーンの排出量を削減するための追加的な選択肢も提供されている。*2 同イニシアチブの新たな戦略計画は先月発表され、目標設定ルールの執行者という立場から、より企業に配慮した「変革のパートナー」へと重点を移すことを示唆している。

しかし、全てのステークホルダーが直近のSBTiの動きに同意しているわけではない 。新基準発表の前夜には、国際環境NGOのシエラクラブや憂慮する科学者同盟を含む25の非営利団体が、SBTiが「企業の圧力」により無意味さへの恒久的な一歩を踏み出そうとしていると警告する公開書簡を発表した 。彼らの懸念の中心は、米国の大手ハイテク企業が特に関心を寄せる、再生可能エネルギー証明書(REC)を巡る専門的なルールであった 。

グリーン電力の購入を巡る「アワリーマッチング」ルールの見送り

SBTiのルールのもとでは、企業はデータセンターにガス火力発電所から電力を供給しつつ、他の場所にある太陽光発電所に関連づけられたRECを購入することで、その「環境的属性」を利用し、自社の事業による排出量を相殺(オフセット)することが可能である 。この形式のオフセットは、グリーンウォッシュへの懸念から厳しい監視の目に晒されてきた 。

昨年11月に公開された新標準の草案では、企業がRECで排出量を相殺する際、実際に使用している電力と証明書の背後にあるグリーン電力が同じ時間に発電されたことを確実にする「時間内一致(アワリーマッチング)」の要件を段階的に導入する予定であった 。今月The Electricity Journalに掲載された調査では、時間内一致がグリッド規模の蓄電への投資拡大を後押しし、現在のアプローチよりもはるかに大きな排出削減を促進できることが示されている 。

しかし、Meta、Amazon、アップルなどのテクノロジー企業は、排出削減目標の達成が困難かつ高コストになるとして、これらのルールに反対するロビー活動を行った と報道されている。*3

最終版の枠組みではアワリーマッチングの要件は削除され、

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