再生可能エネルギーの世界的普及により、太陽光パネルの設置が急速に拡大している。一方、使えなくなったパネルの廃棄物の処理も問題となっている。また、太陽光パネルの製造に必要なレアアースメタル(希土類金属)の価格高騰やサプライチェーンの混乱による仕入れの遅れも目立っている。
そんな中、オーストラリアのディーキン大学最先端材料研究機構の研究者らは使用済みのソーラーパネルからシリコンを安全かつ効率的に回収し、1キロあたり410万円の価値を持つ新規のナノマテリアルに変換する技術のテストに成功した。太陽光発電の需要の拡大に伴うソーラーパネルの廃棄問題を解決するだけでなく、ソーラーパネルの最も高価な構成材料の一つであるシリコンに高付加価値を付与し、再利用を実現するという点で期待されている技術である。
太陽光パネル廃棄問題
太陽光発電ブームに合わせ、世界的な太陽光パネルの廃棄問題が予想されている。IRENAによると、世界で1年間に発生する太陽光パネル廃棄物の量は、2016年の4万トンから、2035年には100万 t 、2050年には6,000万 t 以上に増加するという。一方、国際再生可能エネルギー機関は太陽光パネルから回収された材料が2050年までに20兆円の価値を持つと見積もっている。現在世界は大量の廃棄物問題だけでなく、有限な鉱物資源の持続可能な採鉱やエネルギー負荷の大きい精錬プロセス等の問題に直面しており、持続可能な太陽光パネルの利用を目指す上で、太陽光パネルの再利用が必須であることがわかる。同時に太陽光パネルの再利用がビジネス機会となることが期待される。
世界の太陽光パネル需要と廃棄量の予想(IRENAより)
太陽光パネルのリサイクル工程
世界で最も使用されているシリコン太陽光パネルは、アルミ製の骨格フレーム、雨風の防壁となる強化ガラス、太陽光をエネルギーに変換するシリコン製の太陽電池セル、ガラスとセルを接着する高分子素材とプラスチックの端子ボックスから構成されている。接着剤によってガラスと太陽電池セルは強力に密着しているため、太陽光パネルの再利用では高い温度や環境負荷の大きい化学溶剤を用いて分離が行われることが課題となっている。
現在、太陽光パネル重量の最大 95 %が既存の技術でリサイクル可能であり、ガラスとアルミニウムの回収が容易であるのに対し、パネルに含まれる銀や鉛などの重金属の効率的な抽出は実現されていない。また、太陽光セルに含まれるシリコンの回収は可能とされているものの、精製に課題があるとされている。
ディーキン大学によるシリコンの回収・変換技術の開発
ディーキン大学では、安全で環境に優しい技術を開発し、低コストで効率的に、純度99 %のシリコンを回収することに成功している。さらに、得られたシリコンを特殊な粉砕加工技術によってナノ材料化したナノシリコンを黒鉛と混合することで、リチウムイオン電池の容量を10倍向上させる新型の電池負極が開発され、エネルギー貯蔵技術における重要な技術革新となることが示されている。さらに、このナノシリコンは電池材料としてだけでなく、肥料、炭素回収技術(CCT)、水素ガス生産への利用が期待されている。ナノシリコンはキロあたり400万円と6万円の一般的なシリコンに対して大変高価となっているが、ディーキン大学の研究グループが開発した生産手法は、ナノシリコンの入手性を飛躍的に向上させるとされ、2050年に廃棄される6,000万 tの太陽光パネルからシリコンを回収することでおよそ20兆円の利益が生まれると見込まれる。
「私たちは、このナノシリコンを使って、低コストで高性能、長寿命のバッテリー材料を開発し、オーストラリアのクリーンエネルギーへの移行を推進するために不可欠なバッテリー技術を提供します」
ディーキン大学 最先端材料研究機構研究リーダー ラーマン博士
日本国内における太陽光パネルリサイクルの最新動向
国内では2035年に17〜28万トンの太陽光パネルが廃棄されると見られ、新エネルギー産業機構(NEDO)の太陽光発電リサイクル技術開発プロジェクトのもと、太陽光パネルのリサイクル技術の開発が推進されてきた。国内のメーカーである
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