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IEAネットゼロ・ロードマップ:再エネが地球温暖化の救世主に?

国際エネルギー機関(IEA)は9月26日、「ネットゼロ・ロードマップ」(*1)を発表した。このレポートは、地球の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5℃に抑えるために、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロ(ネットゼロ)にするための今後の道筋を示すものである。本レポートは、2021年に発表されたものの改訂版で、コロナ禍後の景気回復や、一部の再生可能エネルギー技術の驚異的な成長など、過去2年間のエネルギー情勢の大きな変化を盛り込んでいる。*2

本レポートによると、再生可能エネルギーの急成長が、世界のエネルギー部門からの温室効果ガス排出を実質ゼロにし、地球温暖化を1.5℃に抑えることをかろうじて可能にしているが、今後再生可能エネルギーを様々な分野で拡大していく必要がある。

この10年間はより大胆な行動が必要である

本レポートは、「再生可能エネルギーへの転換の進捗状況」「温室効果ガス排出実質ゼロに向けた新たな道」「実質ゼロを現実にするために」「公正な移行と協力体制」から構成されている。*3

レポートは今後10年間の重要性を強調しており、2030年までに世界の再生可能エネルギー発電容量は3倍、エネルギー効率の改善率は年間2倍、エネルギー部門のメタン排出量は75%減少、化石燃料需要は25%減少する。これによってNZEシナリオに必要な削減量の80%以上を達成することができる。ではこれらを達成するためには実際にどんな行動が必要だろうか。

再生可能エネルギーへの転換の進捗状況

 エネルギー部門の二酸化炭素排出量は依然として高水準にあり、2021年の報告書で想定されていたように化石燃料の需要が減少に転じるどころか、2022年のロシアのウクライナ侵攻後のエネルギー危機によって化石燃料の需要が増加し、供給への投資も増加している。

 一方で、再生可能エネルギーの技術の進歩は、エネルギー供給の選択肢を増やし、コストを引き下げている。市場の拡大やコスト低下に牽引され、政策による太陽光発電と風力発電の拡大や、電気自動車の導入が効果を出している。2021年以降、太陽光発電容量と電気自動車の販売台数は記録的な伸びを示している。この2つの技術だけで、現在から2030年にかけての排出削減量の3分の1を達成できるため、今世紀半ばまでに世界全体で温室効果ガス実質ゼロを達成するという筋書きに沿っている。

温室効果ガス排出実質ゼロに向けた新たな道

 2050年までにエネルギー部門からの二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロの達成は、低排出技術と排出削減オプションの幅広いポートフォリオの展開、そしてグローバルな協力と協調に依存している。本レポートでのネット・ゼロ・エミッション シナリオ(NZEシナリオ)では2040年までに先進国が、2045年までに中国が、そして2050年までにその他の新興国が実質ゼロを達成する。電力部門が最も早くゼロエミッションを達成することが前提となっており、2035年までに先進国が、2045年までに途上国や新興国の電力発電システムがネットゼロとなる。NZEシナリオでは、自動車販売台数に占める電気自動車の割合は2030年までに65%以上に急増し、太陽光発電の容量は現在の5倍に拡大する。その結果、低排出電力は急速に増加し、2023 年初めに建設中であった石炭火力発電所以上の新しい石炭火力発電所は建設されないため、化石燃料の需要は2030年までに約20%減少する。また風力発電は依然として実質ゼロ達成に不可欠であり、風力発電導入の課題を克服するためのさらなる政策支援が必要である。 

実質ゼロを現実にするために

 NZEシナリオでは、再生可能エネルギーの発電容量を3倍に増やすことが、2030年までの排出量削減の唯一、そして最大の推進力である。先進国と中国は、現在の政策で、2030年までに必要な自然エネルギー容量の約85%を確保できると予測される。それに合わせて、エネルギー原単位の効率を2倍にして、エネルギーの価格と安全性を強化する。燃料の電気への切り替えによる効率向上、技術効率の改善、行動変容を含む材料とエネルギーの効率的利用によって、2030年までの排出削減を達成する。その結果、エネルギーの需要が満たされるため、長工期の新規石油・ガスプロジェクトや、新たな炭鉱、炭鉱の拡張、休止中の石炭発電所の新設も必要ない。さらに、水素や炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)などの新技術の開発も今後必要となってくる。今後実質ゼロを現実にするためには、このように再生可能エネルギーの拡大、エネルギー効率の向上、化石燃料の需要と有害性を減少させるなどが欠かせず、これらを実現するためには、より強力な政策が必要である。

公正な移行と協力体制

2050年までに世界のエネルギー部門が、温室効果ガス実質ゼロを達成するためには、各国の事情を考慮した公正な移行を促進することが重要である。例えば、先進国にはより早い実質ゼロの達成を求める一方、新興国や発展途上国には達成までの時間を用意する。特に新興国や発展途上国において、エネルギー転換や効率性などの投資を大幅に増やすことが求められる。これらが達成できない場合、さらなる気候変動リスクが発生し、高価で規模が実証されていない炭素除去技術の大規模な運用に頼らざるを得なくなる。報告書が検証している「行動遅延ケース」では、2030年までに再生可能エネルギーを十分に拡大できない場合、今世紀後半には、毎年50億トン近くのCO2を大気から除去しなければならない。炭素除去技術がこのような規模で実現できなければ、気温を1.5℃に戻すことは不可能である。大気からCO2を除去することは、コストがかかり、不確実である。私たちは、そもそも大気中に炭素を排出しないよう、あらゆる手段を講じなければならない。

レポートの主な発見

1.5℃の目標に沿った世界のエネルギーシステムの変革が、かつてないほど必要とされている。2023年8月は記録的な猛暑となり、2023年7月に次いで史上最も暑い月となった。気候変動の影響はますます頻繁かつ深刻になっており、現在の経路の危険性に関する科学的警告はかつてないほど強くなっている。わたしたちがすべきことについて、ロードマップの主張をまとめた。

1閉ざされそうになった1.5℃達成の道は再生可能エネルギーによってこじ開けられている
2今後再生可能エネルギーを急速に拡大するための施策が必要だ
3再生可能エネルギーとエネルギー効率性は化石燃料の需要を下げる
4電化の促進とメタンガス削減が不可欠
5技術革新によって、すでに新しい手段は提供されており、コストも引き下げられている
6インフラ整備は、まだ道半ばである
7途上国におけるクリーンエネルギー投資の拡大は不可欠
8石炭、石油、天然ガスへの新規投資は必要ない
9移行は、安全で安価でなければならない
10国際的な協力が早急に必要
11「今」すぐの行動が切実に求められている

1. 閉ざされそうになった1.5℃達成の道は再生可能エネルギーによってこじ開けられている

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