ESGニュース

2025年3月、世界気象機関(WMO)は『State of the Global Climate 2024(地球気候の現状 2024年版)』を発表した。このレポートは、観測史上最も高温となった2024年の地球環境を、科学的根拠に基づき詳細に分析したものである。*1

地球温暖化は記録的な速度で進行しており、大気中の温室効果ガス濃度は過去80万年間で最高レベルに達した。海洋熱、海面上昇、海洋酸性化、氷河や海氷の減少といった主要な気候指標のすべてが、異常を示す方向に振れている。極端気象による人的・経済的損失も過去最大規模となり、社会・経済・環境リスクの高まりが明らかとなった。パリ協定の1.5℃目標を守るためには、もはや猶予はない。WMOは本レポートを通じて、世界の意思決定者や投資家に対し、科学に基づいた行動と迅速な対応を強く促している。

本記事では、このWMOの報告書について詳しく解説していく。

主なポイント
気候変動の科学的な基盤を成す7つの主要指標が、すべて悪化傾向
温室効果ガスとエルニーニョの影響で、2024年は観測史上最も暑い年に
2024年の世界平均気温は産業革命前に比較して+1.55℃と、パリ協定の「1.5℃目標」に一時的に到達
海面上昇と海洋温暖化は数百年単位で不可逆的
気候変動が災害の多発化につながっており、極端気象による新たな避難民数が過去最多を記録し、人道危機・経済損失・インフラ崩壊が複合的に連鎖
早期警報と気候サービスの重要性がさらに高まる

本報告書によると、2024年は、1850-1900年の平均気温を約1.55℃上回り、産業革命以前を1.5℃以上上回った最初の年となった。これは、175年間の観測記録の中で最も暖かい年となった。またそれ以外にも以下のような報告がされた。*2

  • 二酸化炭素の大気中濃度は、過去80万年間で最高値
  • 過去10年間のすべての年が、単独でも史上最も暑い10年に該当
  • 過去8年間、海洋の熱含量(OHC)は毎年新記録を更新
  • 北極海氷面積の18最低値は、過去18年間に集中
  • 南極海氷の最小・最大面積も、過去3年間で最低レベル
  • 氷河の質量損失は、過去3年間が史上最大
  • 衛星観測開始以降、海面上昇速度は倍増

(出典:State of the Global Climate 2024

国連事務総長アントニオ・グテーレス氏は「地球は明らかな危機の信号を発している。それでも、長期的な気温上昇を1.5℃以内に抑えることは、まだ可能である。各国は再生可能エネルギーへの転換により、自国民と経済を守る道を選ばねばならない」とコメントした。

またWMO事務局長セレステ・サウロ氏は「1年だけ1.5℃を超えても、パリ協定の目標が失われたとは言えない。しかし、それは深刻な警告であり、私たちの命や経済、地球の未来に対するリスクが増大していることを示している」と見解を述べた。

深刻化する影響と対応の加速

WMOの国際専門家チームは、

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2025/3/30

地球気候の現状 2024年:異常気象が大混乱を招く

2025年3月、世界気象機関(WMO)は『State of the Global Climate 2024(地球気候の現状 2024年版)』を発表した。このレポートは、観測史上最も高温となった2024年の地球環境を、科学的根拠に基づき詳細に分析したものである。*1 地球温暖化は記録的な速度で進行しており、大気中の温室効果ガス濃度は過去80万年間で最高レベルに達した。海洋熱、海面上昇、海洋酸性化、氷河や海氷の減少といった主要な気候指標のすべてが、異常を示す方向に振れている。極端気象による人的・経済的損失も過 ...

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2025/3/23

反DEI運動に対する株主の拒絶

2025年2月26日、ジョン・ディア(Deere & Co)の年次総会において、株主の98.7%が反多様性提案を否決した。これに先立ち、1月23日のコストコ(Costco)では98%、2月25日のアップル(Apple)では97.7%が同様の提案に反対している。これらの議決権行使結果は、企業の多様性・公平性・包括性(DEI)方針に対する市場の支持を示すものとなった。*1 反DEI運動の流れ 近年、米国ではDEIに対する批判が強まっており、特に保守派の政治家やシンクタンクが「逆差別」や「政治的偏向」と ...

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2025/3/23

SBTIがネットゼロ基準2.0を発表

サイエンス・ベースト・ターゲット・イニシアティブ(SBTi)は今週18日、待望のネット・ゼロ基準の更新案を発表した。この基準案は、2025年6月1日までパブリック・コンサルテーションが行われ、2026年に最終決定される予定である。*1 企業は2027年にネットゼロ基準のバージョン2(V2)の使用を開始できる。それまでの間、企業は既存の基準で目標を設定することができ、5年間または2030年末までのいずれか早いほうの期間、V2基準を使用することができる。既存のルール上ネットゼロの目標設定を目指すことを公表して ...

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2025/3/20

日本のメガバンク、気候変動対策グループから相次ぎ脱退

三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)が脱退してからわずか二週間で、野村ホールディングスが2025年3月12日に*1 、そして三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)も3月19日に銀行の投融資活動における温室効果ガス削減を促す国際的イニシアチブであるネット・ゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)から脱退をする方向で調整していることが明らかとなり、日本の銀行の脱退が相次ぐ形となった。​ ​*2 NZBAとは? NZBA(ネット・ゼロ・バンキング・アライアンス)は、国連環境計画・金融イニシアチブ ...

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2025/3/9

ブラックロックの転換?〜自然資本市場とESG投資の新時代〜

世界最大の資産運用会社であるブラックロックが、自然資本を「外部性」ではなく「投資可能な資産」として正式に位置付けた。これは、資産評価のパラダイムシフトを示す重要な転換点であり、ESG投資の未来を再定義する可能性がある。*1 ブラックロックはこれまで、環境・社会・ガバナンス(ESG)に配慮した投資を推進してきたが、近年は「ESG」というラベルに対する市場の過敏な反応を受け、表立ったESG戦略から距離を置く動きを見せている。しかし、本質的な方向性は変わっていない。むしろ、長期的な財務レジリエンス(回復力)の確 ...

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2025/2/24

トランプ政権が欧州のESG指令を脅かす

トランプ米大統領とその支持者が、連邦政府機関によるDEI (ダイバーシティ:多様性、エクイティ:公平性、Inclusion: 包括性)イニシアチブの禁止や、投資家がESG関連問題に関して企業と関わる権利の制限など、アンチESGの主張を迅速に行動に移していることは明らかになっている。この動きは米国内にとどまらない。 2月12日、トランプ大統領が米国商務長官に指名したハワード・ルトニック氏は、米国上院の公聴会で、企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD)は米国企業に「大きな負担」を強いるも ...

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2025/2/11

2024年、世界のエネルギー転換投資が初めて300兆円を超える

調査機関ブルームバーグ・ニューエネルギー・ファイナンス(BNEF)の最新の報告書によると、2024年のエネルギー転換への世界投資は過去最高の2.1兆ドル(約315兆円)に達し、前年比11%増加した。 中国本土が再び成長の牽引役となり、世界全体の増加分の3分の2を占めた。成長に貢献したのは、昨年、エネルギー貯蔵投資とともに過去最高を記録した電動輸送、再生可能エネルギー、そして電力網の増強だ。 エネルギー転換技術への投資全体は過去最高を記録したが、成長のペースは、投資が年間24~29%増加した過去3年間よりも ...

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2025/2/3

米国のパリ協定撤退を受け、ブルームバーグ氏が国連気候変動枠組条約へ資金提供

マイケル・ブルームバーグ氏が、米国のドナルド・トランプ元大統領によるパリ協定からの離脱を受け、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の財政的支援を引き受けると表明した。※1 UNFCCC事務局は、国際的な気候変動対策の調整や各国の排出削減目標の監視を行う重要な機関であり、米国の拠出金はその運営において重要な役割を果たしているため、ブルームバーグ氏のこの決定は、アメリカ国内外での気候変動対策の継続と強化を支援するものであり、国際社会から高く評価されている。※2 国連気候変動枠組条約の資金確保 2025年1月2 ...

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2025/2/3

マイクロソフト、森林再生で650万トンのCO2除去を目指す

マイクロソフトは、ブラジルのアマゾンおよび大西洋岸森林の再生を目的として、クライメート・テック(気候テック)のスタートアップであるre.greenと新たな協定を締結した。 *1 本協定により、両社の協力関係は拡大し、パリ市の3倍の面積に相当する地域の森林再生が進められる予定である。 マイクロソフトは、これらのプロジェクトから合計650万トンのカーボン・クレジットを購入する計画である。 追加的に約350万トンの炭素除去 今回の協定は、2024年5月に締結された最初の協定を拡大するものであり、当初の協定では、 ...

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2025/1/13

JPモルガンがネット・ゼロ銀行連合から脱退、米大手銀行の脱退が完了

米国最大の銀行であるJPモルガン・チェースが1月7日、ネット・ゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)から離脱することを発表した。これは、国連が支援する、投融資活動を通じて世界のネット・ゼロ目標を推進する銀行連合からの相次ぐ離脱となる。邦銀5行は引き続き同イニシアティブにコミットしているが、米銀の離脱が他の加盟行に与える影響は不透明だ。*1 JPモルガンは、ここ数週間の間にシティバンク、バンク・オブ・アメリカ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、ウェルズ・ファーゴが離脱したのに続き、NZBAか ...

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