ESG

ネイチャークレジットとは

地球規模で自然環境の劣化が進むなか、自然を保全し再生する取り組みをどのように経済活動と結びつけるかが世界共通の課題となっている。現在、その解決策として注目されているのが「ネイチャークレジット」である。これは、生態系の回復、森林再生、湿地保全といった自然環境の回復に寄与する「ネイチャーポジテイブ」成果を、測定可能で検証可能な単位として発行する仕組みであり、自然に対して経済的価値を与える新たな金融手法である。

今回のThinkESGブログでは、自然分野をリードする専門家であり、生物多様性クレジットに関する国際助言パネル(IAPB)を率いるマリアンヌ・ハール氏の意見記事を取り上げ、ネイチャークレジットに関する政策動向の最前線を解説する。*1

COP30とネイチャークレジット市場の拡大

国連気候変動会議COP30 がアマゾンの中心地ベレンで開催され、自然由来のカーボンクレジットは自主的カーボン市場の 46%を占めるまでに成長した。炭素吸収・貯蔵といった自然の重要機能を貨幣価値として評価する動きは急速に広がっており、自然保全が企業戦略や投資判断に組み込まれる時代が訪れている。

ただし、自然が提供する価値は炭素にとどまらない。水資源、土壌の健全性、受粉、洪水防御など、多様な生態系サービスが経済と企業活動を支えている。そこで、これらの価値を包括的に評価し、金融市場に取り込む仕組みとしてネイチャークレジットが設計されている。

昆明・モントリオール合意と規制の進展

2022 年末に採択された生物多様性に関する世界目標である「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」は、2030 年までに自然損失を止め、2050 年までに「ネイチャー・ポジティブ」へ移行することを掲げている。この国際合意により、自然保全を金融市場とリンクさせる各国の政策が急速に動き始めた。*2 

2023 年には生物多様性クレジットに関する国際助言パネル(IAPB) が発足し、2024 年には「高い完全性を備えた生物多様性クレジット市場の枠組」を発表した。これにより各国が採用すべき測定・ガバナンス・透明性の原則が体系化された。さらに IAPB は世界各地の政策を調査し、現在までに 19 の国家・準国家レベルの自然クレジット制度が導入または開発されていることを明らかにしている。ここで、IAPB の調査報告の内容を紹介する。

政府主導のネイチャークレジット市場からの学び

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ESGブログ・意見 ThinkESGプレミアム会員限定

2025/12/21

自然に経済的価値を与える「ネイチャークレジット」の新潮流

ネイチャークレジットとは 地球規模で自然環境の劣化が進むなか、自然を保全し再生する取り組みをどのように経済活動と結びつけるかが世界共通の課題となっている。現在、その解決策として注目されているのが「ネイチャークレジット」である。これは、生態系の回復、森林再生、湿地保全といった自然環境の回復に寄与する「ネイチャーポジテイブ」成果を、測定可能で検証可能な単位として発行する仕組みであり、自然に対して経済的価値を与える新たな金融手法である。 今回のThinkESGブログでは、自然分野をリードする専門家であり、生物多 ...

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2025/11/29

COP30ベレン会議が示した成果と深まる国際的対立

国連気候変動会議COP30はブラジルで開催され、18時間超の延長協議の末に合意へ到達したものの、化石燃料削減の新たな約束は盛り込まれなかった。最終文書からは「化石燃料からの移行」の文言が削除され、適応資金や実施面でも対立が表面化し、多くの国が失望を表明した。一方で、脱炭素社会への移行への協力継続や適応分野での前進も示され、議論はCOP30後も続く見通しである。 COP30閉幕に見る化石燃料論争と残された国際的課題 COP30気候サミットが、2025年11月10〜21日にブラジル・パラー州ベレンで開催され、 ...

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2025/11/24

UNEP、各国の新NDCは温暖化抑制に「ほぼ寄与せず」と警告

世界の温室効果ガス排出量は増加を続け、各国の気候変動計画は依然として必要な削減水準に届いていない。今年ブラジルのベレン市で開催された国連気候変動会合COP 30に先立ち公開された国連環境計画(UNEP)の最新報告書は、各国が提出した新たな気候変動計画が温暖化を抑制する上でほとんど影響を与えていない現状を明確に示した。UNEPは現行政策と国際的な温暖化対策目標との間に存在する深刻な排出ギャップの実態を、改めて世界に突きつけている。*1 「国が決定する貢献」の弱さが浮き彫りに UNEP のインガー・アンダーソ ...

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2025/11/24

SBTiの企業ネットゼロ基準v2.0、主な変更点

企業の温室効果ガス排出量削減目標設定の主要基準策定機関であるSBTIは、企業向けネットゼロ基準バージョン2.0の最終草案を公表した。同草案はネットゼロ目標達成に向けた企業行動の柔軟性を強化すると同時に、実質ゼロ達成までの過程で削減しきれない継続的な排出量への責任ある対応を義務化する方向へ移行している。 主なポイント • 主な更新点:スコープ3目標達成方法の明確化、義務的な移行計画への対応を評価 • 今回の改訂案への意見提出期限は12月8日 • 現行スケジュールでは、新基準は来年(2026年)公表され、20 ...

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2025/11/9

COP30の舞台裏、アマゾン熱帯雨林での石油・ガス拡張支援に批判集中

11月10日からブラジルのアマゾン熱帯雨林に囲まれるベレン市で開催される国連気候変動会議COP30では、気候変動の最大の原因である化石燃料の使用削減と重要な解決策の一つとされる生態系の再生が注目テーマとなる。しかし、COP30に先立ち、環境NGO「Stand.earth」が公表した調査報告書によると、2024年1月以降にアマゾン熱帯雨林内で行われた石油・ガス採掘事業への大手銀行の直接融資が20億ドル(約3,000億円)に上る。脱炭素社会への道のりがやばめられる中、金融業界の社会的責任に再び焦点が当たる。* ...

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2025/11/7

食べ続ける限り決して排出ゼロにはならない

医学誌『ランセット(The Lancet)』に掲載された最新の調査報告書によると、2050年までに推定100億人の人口を養うための持続可能な食料システムにへ転換しても、農業の温室効果ガス排出量を半減させられる一方で、「人類に食料を届ける限り、温室効果ガスの排出を完全にゼロにすることはできない」と結論づけた。*1 食料生産には避けられない環境コスト EAT-ランセット委員会(EAT-Lancet Commission)による本報告書は、35か国70名の食料・気候科学者によって作成された国際的研究である。報告 ...

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2025/10/25

世界で注目が高まるネイチャーテックを徹底解剖

2025年10月17日、東京国際フォーラムで「NATURE TECH!」が開かれた。技術革新と自然再生を結びつける取り組みが紹介され、世界で注目が高まるネイチャーテックの動向が共有された。投資規模は約3000億円に拡大し、衛星やドローンによる自然の計測技術や、熊本など地域単位で自然を守る取り組みの重要性が示された。日本は今後、自然計測の国際標準化を主導していく方針を掲げている。*1 ネイチャーテックとは? ネイチャーテック(Nature Tech)とは、自然を測定・評価・再生・活用するための技術群である。 ...

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2025/9/29

COP30国連気候サミットを前に各国が新たな気候目標を提出

11月10日からブラジル・ベレンで開催される国連気候変動会議COP30まであと数週間となり、各国は2035年までの新たな気候変動対策目標の提出を急いでいる。 しかし、それらは壊滅的な気候変動を防ぐのに十分になるだろうか?日本以外の主要国の現状の国別目標の提出状況や進展について、本記事でピックアップする。 「これ以上の危機はない」と国連高官はニューヨークでの国連気候サミットを前に記者団に語った。過去数ヶ月の夏だけで、大規模な洪水、干ばつ、長期化する熱波など、数々の異常気象が各地の人々を襲った。気候災害は「あ ...

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2025/9/28

SBTIや国連で、自然に基づく解決策を排除する動きに科学者が反論

気候科学者の連合は、気候変動に関する国際枠組みから自然を基盤とした気候変動対策(NCS)を排除する制約的な政策の再考を世界の政策立案者に強く求めている。こうした排除は緊急に必要な温室効果ガス排出削減を遅らせる恐れがあると警告している。*1 企業の科学的根拠のある温室効果ガス排出量削減目標設定を推進するSBTi(Science Based Targets Initiative)と国連パリ協定第6条4項監督機関宛ての書簡*2で、40名以上の科学者らは「自然に基づく解決策」を永続性が欠如しているとして不当に軽視 ...

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2025/9/19

TICAD9から見るESG投資でつなぐ日本とアフリカ

アフリカの未来をめぐる国際的関心が高まる中、日本は持続可能な協力の新たな方向性を示している。 2025年8月に横浜で開催された第9回アフリカ開発会議(TICAD 9)は、その象徴的な舞台となった。会議では「協働」と「質の高い成長」が掲げられ、単なる援助からESG投資を通じたパートナーシップへの転換が打ち出された。 アフリカ初のESGサムライ債の発行や太陽光発電の急速な普及は、この新潮流を裏付ける具体的成果である。本記事では、TICAD 9の意義と日本・アフリカ協力の新たな潮流、そしてESG投資がもたらす展 ...

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