気候変動

合計9.2兆ドル(約1300兆円)の運用資産を保有する機関投資家からなるネット・ゼロ・アセットオーナー・アラインス(NZAOA)※は、投資家が投資活動を通じて森林破壊を阻止するための新たなガイドラインを発表した。*1

NZAOAは国連環境計画-金融イニシアチブ(UNEP-FI)が事務局を務め、アリアンツ、カリフォルニア州公務員退職年金基金(CALPERS)、日本生命や第一生命などの大手機関投資家が加盟する団体で、メンバーは2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロの投融資ポートフォリオに移行することをコミットするイニシアチブである。*2

NZAOAの新たな報告書によると、ネットゼロを目指す投資家は森林破壊へのエクスポージャーを把握し、牛肉、ココア、パーム油などの商品への投資から生じる森林への損害を2030年までに「段階的に廃止」する措置を講じることが必要となる。NZAOAは、投資家、政策立案者、企業、データ提供者間の連携強化が自然損失対策に不可欠だと強調する。

世界レベルでは、森林破壊は主に、森林リスク商品への需要と国際貿易を満たすための農業拡大によって駆動されている。森林破壊と関連する主要な商品には、牛肉、皮革、コーヒー、ココア、大豆、パーム油、パルプ、紙、木材、ゴムなどが含まれ、これらの商品は規制、市場、評判リスクに関する変化の影響を受けている。

新たなガイドラインには、関連企業、資産管理者、政策決定者との積極的な関与が含まれる。

森林破壊は、11月にブラジルで開催予定のCOP30の主要な議題となる見込みだ。ブラジルは世界最大の熱帯雨林を有し、世界最大の炭素吸収源の一つとして機能している。同時に、森林破壊は化石燃料に次ぐ世界第2位の温室効果ガス排出源であり、山火事などの気候関連気象現象によりその傾向が加速している。

政策決定者は森林伐採対策の最初の試みを始めている。EUは2年前に「森林破壊防止規制(EUDR)」を導入し、EUで取引される製品における森林破壊リスクの最小化を目的としている。一方、ISSBやTNFDなどのサステナビリティ開示基準は、企業と投資家にとって自然リスクを議題の上位に押し上げる重要な役割を果たしてきた。

アセット・オーナーのコミットメント

「NZAOAのメンバーは、ポートフォリオをネットゼロ目標と整合させることで、森林破壊に関連するリスクを削減することにコミットしている。私たちは、2030年までにサプライチェーンからの森林破壊と森林転換を段階的に廃止するため、他のステークホルダーと協力して行動を推進し、地球の生態系を保護しつつ、受益者の財務的リターンを向上させることを目指しています」

–国連合同職員年金基金の投資管理事務局長ペドロ・グアソ氏*2

銀行や資産運用会社のネット・ゼロ・アライアンスが会員の大量離脱に直面しているのに対し、NZAOAは会員からの強い支持を維持しており、これまで僅かな離脱と複数の主要な新規加入者しか見ていないのが特徴的だ。*1

ただし、そのガイドラインは推奨事項であり、最終的に会員資格の法的拘束力はない。また、世界最大の機関投資家市場の一部では、大規模な機関投資家に対するTCFD報告の義務化が導入されているが、現在までに単一の国がTNFD開示の義務化を採用した例はない。

長期的な投資期間を有するアセットオーナー(年金基金や保険会社など)は、経済と金融市場の長期的な健全性と安定性に依存している。森林破壊はこれら両方に脅威をもたらし、人々の保険や年金収入へのアクセスにも影響を及ぼす。アセット・オーナー(資産保有者)は、ポートフォリオをネットゼロ目標に整合させ、森林破壊を段階的に廃止することでシステム的な変化を推進する独自の立場にある。遵って、NZAOAのメンバーは、自然環境の健全性の悪化は経済や社会にとって森林破壊は長期リスクであることを認識し、森林破壊に関連するリスクを削減することにコミットしている。

「森林は、私たちの惑星の境界を尊重し、経済的繁栄を確保する上で、大きなポジティブな影響力を持ちます。逆に、これらの生態系を保護しないことは、森林、生物多様性、地域社会、先住民だけでなく、金融市場にも破壊的な影響を及ぼします。企業、政策決定者、データ提供者との連携した投資家の行動は、サプライチェーンからの森林破壊と森林転換の段階的廃止を実現し、最終的に地球的、社会的、経済的なレジリエンスを確保するために不可欠です。」

Jan Kæraa Rasmussen、PensionDanmarkのESG・サステナビリティ部門責任者

ガイドラインの主な推奨事項

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