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「カーボンニュートラルLNG」、本当に可能なのか?

1. はじめに

2020年10月、第203回臨時国会の所信表明演説において、菅義偉内閣総理大臣は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言した。

そんな中、温室効果ガスの最大の排出源であるエネルギー分野の脱炭素化が急務だ。政府は発電時に排出量を出さない再生可能エネルギーを「最優先」とする方針だが、安定供給の課題が残るため、再エネの次に排出量が少ないとされる天然ガスを燃料とするガス火力発電の役割が注目されている。そのガス火力発電の活用がカーボンニュートラルの実現に整合するかが欧米で争点になっている。

2. 天然ガスは脱炭素社会への架け橋となる燃料?

近年液化天然ガス(LNG)の需要は世界的に拡大してきた。歴史的に見ても、ガスは石炭や石油よりもクリーンで二酸化炭素の排出量が少ない「架け橋となる燃料」と考えられてきた。 LNG(Liquefied Natural Gas)は、天然ガスを冷却した無色透明の液体である。天然ガスは、ほぼ大気圧下でマイナス162℃まで冷却すると液体になり、体積が気体のときの600分の1になる。この特性を利用して、LNGタンカーで大量の天然ガスを輸送することができる。下記日本ガス協会により、天然ガスは燃焼時に二酸化炭素発生量が石炭に比べて約半分とされる。

出典:日本ガス協会

しかし、LNGは炭素排出量の観点から完全にクリーンではなく、LNG輸出産業が予測通りに拡大すれば、気候変動に関する国際的枠組みであるパリ協定で定められた温暖化を1.5℃未満に抑えるという目標を達成することはほぼ不可能になると予測されている。また、世界エネルギー機関(IEA)の2050年ネットゼロ・ロードマップでは、新規の化石燃料開発プロジェクトへの投資を即時取りやめることや、CO2の回収、貯蔵や再利用(CCUS)を行わない石炭火力発電所への投資を行わないことなど、2040年までに世界の電力部門におけるCO2排出量の実質ゼロ達成、2050年までに発電の約90%を再生可能資源由来に転換させること、などを求めている。下記グラフから、2020年で世界のエネルギー供給の約8割は石炭・石油・ガスの化石燃料が占めていたが、2050年までには約2割に減少するとされる。IEAのシナリオ通りにネットゼロの目標を達成するにはLNGを推し進め続けることは厳しいものとなるだろう。

出典:公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES) IEA(国際エネルギー機関)による 2050年ネットゼロに向けたロードマップの解説「2050年のエネルギー需給構造」

3.「カーボンニュートラルLNG」とは

 カーボンニュートラルLNG(CNL)とは、「天然ガスの採掘から燃焼に至るまでの工程で発生する温室効果ガスを、新興国等における環境保全プロジェクトにより創出されたCO2クレジットで相殺すること(カーボン・オフセット)により、地球規模では、天然ガスを使用してもCO2が発生しないとみなされるLNGである。」(東京ガス電力HPから引用)。

CO2クレジットというのは、政府や企業間で取引される、CO2の削減もしくは吸収効果のこと。つまり、LNGの製造や使用によって発生してしまうCO2(=カーボン)を、森林による吸収や省エネ設備への更新により創出された他の場所の削減分(クレジット)で埋め合わせ(=オフセット)する取組のこと。

2013年4月より J-クレジット制度という、企業が自社の排出量をオフセットするために実施される省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるCO2等の排出削減量や、適切な森林管理によるCO2等の吸収量を、クレジットとして国が認証する制度ができ年々需要が増加している。

 しかし、カーボン・オフセットは各企業による自主的な制度であるため、商品やサービスを業界別にカーボンニュートラルとしてみなされる基準が定められていない点が問題視されている。

4.「カーボンニュートラルLNG」の需要は批判にもかかわらずアジアで急増

 国内外でもカーボンニュートラルLNGが注目されている。世界的なエネルギー大手会社は、ガスの出荷を「グリーン」にするためにカーボンオフセットを使用している。ブルームバーグNEFのトラッカーによると、今年の「カーボンニュートラルLNG」出荷台数は、2019年と2020年を合わせたものの2倍の取引が行われていると言う。

 「カーボンニュートラル」とタグ付けされた液化天然ガスの出荷は、実際にはガスの生産から燃焼までの工程によって発生するCO2の排出を相殺するものではないという批判を受けているにも関わらず、アジアのバイヤーの間で人気を集めている。

 2021年8月だけでも、 イギリスの大手石油会社The British Petroleum Company plc(BP Plc、以下BP社)とマレーシア国営ビジネスの石油石油ガス会社Petroliam Nasional Berhad は、それぞれ台湾と日本の顧客に、環境保全プロジェクトで温暖化ガスが相殺されたLNG貨物を納入したと発表した。しかしプルームバーグの取材によると、カーボンオフセットのクレジット内容は、燃料を受け取るターミナルに輸送するまでに発生したCO₂とメタンの排出量をカバーしたのみで、総フットプリントの約70%に想定される化石ガスの燃焼からの排出量をカバーしなかったという。

 BP社は、2021年8月18日、日本の四国電力に「カーボンニュートラルLNG」の初出荷を納入したと発表した。四国電気の広報担当者によると、オフセットは生産から出荷までの排出量をカバーしていたが、日本でLNGを消費した際に発生した排出量はカバーしていなかったという。

 どちらの会社も、オフセットに対して支払った価格を共有しておらず、グリーン指定が燃料のコストを変更したかどうかも共有していない。

5. ライフサイクル排出量の比較から見えてくるLNGの問題点

 日本ではカーボンオフセットとしてJ-クレジットの需要が増加しているが、下記の電力中央研究所による各種電源別のライフサイクルCO2排出量のグラフを参考に、再生可能エネルギーと比較すると断然にLNGであっても発電時に多くのCO2を排出していることが見て取れる。また、LNG供給に必要となる設備・運用に関しては、石炭火力よりも多くCO2を発生していることも見て取れる。いくらオフセットしても、LNGの燃焼は温暖化ガス排出量を増加させる。この産業を支えるパイプライン、液化施設、輸出ターミナル、タンカーなどの新しいインフラへの大規模な投資は、化石燃料への依存を固定化し、実際の低炭素・ゼロエメエネルギーへの移行を困難にすると懸念される。このことから、脱炭素社会の実現に向けて再生可能エネルギーなどのゼロ・エミッションのエネルギー源への移行が望ましいと考えられる。

出典:電力中央研究所

5. 膨大なグリーンウォッシュ?

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