生物多様性

企業活動と生物多様性の関係は、これまで主に「環境配慮」や「CSR」の文脈で語られることが多かった。しかし、2026年2月に生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)が発表した最新の報告書は、その前提を根本から問い直している。*1

IPBESは、最新の科学的知見などの調査を通じて企業と自然の関係を「依存」と「影響」という二つの視点から体系的に整理し、企業と自然の関係がいかに経済の安定性や長期的価値創造に直結しているのかを明らかにする。

企業は変革を主導するか、絶滅のリスクを負うか

2026年2月9日、英国マンチェスターで開催された第12回IPBES総会において、加盟150か国以上の政府代表により、「企業による生物多様性および人々への自然の貢献への影響と依存に関する方法論的評価報告書」(通称:ビジネスと生物多様性報告書)が承認された。

本報告書は3年間にわたり、世界35か国から選出された79名の主要専門家によって作成された。科学界および民間部門から選出され、先住民族および地域コミュニティとの協議のもとで作成された。報告書は、企業が活動する現在の条件は、公正かつ持続可能な未来の実現と常に両立するものではないこと、またそれらの条件がシステムリスクを持続させていることを明らかにしている。

報告書の中心的メッセージは明確である。すべての企業は生物多様性に依存しており、すべての企業は生物多様性に影響を与えている。そして、現在の経済活動の在り方は、生物多様性の損失を通じて、経済・金融安定・人間の福祉に重大なシステムリスクをもたらしている。

自然は「環境問題」ではなく経済基盤である

自然から遠いように見える企業や、自らを自然関連企業と認識していない企業であっても、直接的または間接的に自然に依存している。その依存は、次のような形で現れる。

  • 物質的投入資源(原材料、水、土壌、遺伝資源など)
  • 洪水緩和や水供給などの環境調整機能
  • 観光、レクリエーション、教育、精神的・文化的価値といった非物質的貢献

自然は単なる背景ではなく、経済活動の前提条件なのである。1820年から2022年にかけて、世界経済は約180兆5,400億円(1.18兆ドル)から約1京9,906兆8,300億円(130.11兆ドル)へと拡大した。しかし、この拡大は自然資本の減少と並行して進行してきた。

1992年以降、人為的資本は一人当たり平均100%増加した一方で、自然資本は約40%減少している。企業活動は自然に負荷を与えているが、その負の影響は十分に市場価格へ反映されていない。多くの企業は、生物多様性への正の貢献から直接的な収益を得る仕組みも持っていない。この構造が、自然劣化を経済システムの内部に組み込んだまま固定化している。

資金の流れが示す構造的非対称性

報告書は、資金フローの歪みを明確な数値で示している。2023年、自然に直接的な負の影響を与える公的・民間資金は約1,116兆9,000億円(7.3兆ドル)に達した。その内訳は、約749兆7,000億円(4.9兆ドル)が民間資金、約367兆2,000億円(2.4兆ドル)が環境に有害な補助金である。

一方で、生物多様性の保全および回復に向けられた公的・民間資金は約33兆6,600億円(2,200億ドル) にとどまる。自然を損なう資金と自然を守る資金の規模には、桁違いの差が存在する。つまり、環境保全に流れる資金は、有害な行動を助長する資金のわずか3%である。また、公開報告企業のうち、生物多様性への影響に言及している企業は1%未満である。情報開示の不足は、リスクの見落としと機会の逸失を同時に生み出している。

測定なくして管理なし

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