気候変動
気候変動および自然資本の劣化は、もはや将来世代の課題ではなく、企業の収益性、事業継続性、市場評価に直接影響する経営リスクである。CDPとOliver Wymanが共同で公表した「Corporate Health Check 2026」は、企業がESGをどこまで実行段階に落とし込めているのかを、世界規模で比較可能な形で示したレポートである。*1
Corporate Health Checkとは何を測っているのか
まずCDPとは、企業や自治体の気候変動・水・森林などに関する環境情報開示を促進する国際的な非営利組織で、投資家・政策当局・企業の意思決定に資する環境データを提供し、透明性を通じた行動変化を目的としている。
そしてCDPから発行された「Corporate Health Check」は、CDPがOliver Wymanと連携して実施した年次評価であり、大企業がどの程度「アース・ポジティブな意思決定」*を経営に統合しているかを定量的に評価している。情報開示にとどまらず、ガバナンスや戦略、実際の進捗まで含め、企業のESG実装力を定量的に可視化しており、企業のESG対応を、以下の5分野で立体的に評価する枠組みである。
- 情報開示(Disclosure)
- 環境目標の設定(Target setting)
- ガバナンスとインセンティブ(Governance)
- 戦略・移行計画(Strategy)
- 実際の進捗(排出削減・自然対応)(Progress)
*「アース・ポジティブ」とは?
アース・ポジティブとは、ビジネス目標を達成するとともに、環境を保護・回復し、地球への悪影響を軽減するような行動をとることを意味する
評価結果は4段階に分類される。重要なのは、上位レベルに進むほど、今後の規制・投資家要請へ対応能力が高い構造になっている点である。
レベル1:遅れている
レベル2:最低基準を満たす
レベル3:意欲を示している
レベル4:変革を主導している
指標は、世界経済フォーラムの「State of Nature and Climate」の枠組みの一部として開発され、ポツダム気候影響研究所(PIK)とCDPの協力のもと、地球の健全性データと企業行動データを並べて分析している。2000年以降、CDPを通じた環境情報開示は、企業の環境対応に関する比類なき洞察を提供してきた。現在、世界の時価総額の67%を占める約25,000社がCDPを通じて情報開示を行っている。本レポートは、その中でも特に影響力の大きい企業群を対象に、気候変動対応および自然分野における進捗状況を評価している。
環境対応は進んだが、「実行力」が企業間の差を分け始めている
本レポート「Corporate Health Check 2026」は、世界最大級の企業が、気候変動および自然に関するコミットメントに対して、どの程度実質的な行動を取っているのか、またそれが企業の財務パフォーマンスにどのような意味を持つのかを分析するものである。分析の結果、企業による環境情報の開示は大きく進展している一方で、行動と実行の水準は依然として限定的であることが明らかとなった。
多くの企業はリスクを認識し目標を設定しているが、それを経営戦略、投資判断、ガバナンスの中核にまで統合できていない。評価対象企業のうち、気候および自然分野でリーダーシップ水準に到達している企業は少数にとどまるものの、これらの企業は排出削減や自然対応で他社を大きく上回る成果を示し、過去12か月で合計約33.7兆円(2,180億米ドル)の環境関連ビジネス機会を実現している。一方、世界全体では排出削減の進捗は1.5℃目標と整合しておらず、現行の削減ペースは明らかに不十分である。企業努力だけでは限界があり、政策、金融、制度設計との連動が不可欠であることが浮き彫りとなっている。以下はレポートにて明示された4つの所見である。
調査結果1:環境情報の透明性は進展したが、行動への転換は依然として遅れている
CDPを通じた環境情報開示は着実に進展している。2016年から2023年にかけて、継続的にCDPへ開示している企業は、スコープ1排出量を年平均2%削減してきた。一方、同期間に世界全体の排出量は年平均1%増加しており、開示が一定の効果を持っていることは否定できない。
しかし、2026年版が示すのは、開示と実行の間に大きなギャップが存在するという現実である。自社が掲げた排出削減目標の「達成軌道」にある企業は、世界全体で35%にとどまっている。透明性は前提条件ではあるが、それだけでは戦略転換には至らない段階に来ている。
調査結果2:リーダー企業は少数だが、気候変動・自然の両分野で成果を出している
評価の最上位である「Leadership」レベル(レベル4)に到達している企業は、全体の約10%にすぎない。しかし、この10%は、排出削減、自然関連指標、ガバナンス体制のいずれにおいても、他の評価レベルを大きく上回る成果を示している。これらの世界的リーダーは、移行を利用して新たな収益機会を促進し、効率性を向上させながら、平均複合年間成長率 (CAGR) 約 4% で排出量を削減している (企業平均は1%)。
注目すべきは、この少数の企業が、評価対象企業全体の時価総額の約20%を占めている点である。つまり、ESGの実装は「企業数」では限定的である一方、「経済的影響力」という観点では、すでに無視できない水準に達している。
調査結果3:環境レジリエンスは明確な成長機会となっている
2026年版では、環境対応が明確な商業機会を生んでいることが示された。Leadership企業は、過去12か月で合計約33.7兆円(2,180億米ドル)の環境関連ビジネス機会を実現している。これは、排出削減や自然対応が単なるコスト要因ではなく、新市場の創出や競争優位の確立につながっていることを意味する。
産業別に見ると、
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