国連

気候変動のリスクを適切に評価することは、企業にとって予期せぬ損失を防ぎ、運営コストを削減し、ブランド価値を向上させるだけでなく、新たなビジネスチャンスを見つけるための鍵となる。投資家や消費者の意識が高まる中、持続可能性を重視する企業が増えており、これらの企業は長期的な成長が期待されるため、競争優位性を高めることができる。

本記事では、地球沸騰化(*1)に伴う異常気象の加速やそれによって企業がどのような影響を受けるリスクがあるのか、そしてその気候変動リスクの評価が企業成長にどのように寄与するのか、について詳しく説明する。

*地球沸騰化は地球温暖化の進行による影響が危機的な状況であることを伝えるために、グテーレス国連事務総長が発言した言葉です

地球沸騰化がもたらす異常気象

8月に入り、外は暑さが増している。異常な高温の影響で、アメリカでは1日に100件以上の山火事が発生した。日本では、異常な熱波で年々と熱中症の患者数が急増している。世界中で火災が多発し、海面上昇とハリケーンが沿岸地域を浸水させ、深刻な洪水が急増している。その他の異常気象も地球規模で悪化している。*2

これらの問題が深刻化するにつれ、企業が対策すべき物理的な気候リスク、例えばエネルギーの変動、自然災害の被害や供給網の中断、農業の混乱なども増大している。気候変動は、2050年までに年間38兆ドル(約5,510兆円)の損害をもたらすと予想されている。2023年には、10億ドル(約1,450億円)規模の災害が米国だけで28件発生し、前例のない数となった。

物理的なインフラを直接所有していない企業でさえ、サプライチェーンへの気候変動の影響による脅威に直面している。しかし、こうしたリスクを評価し、軽減することは、計り知れないビジネスチャンスをもたらす。

商品が消費者に届きにくくなっている理由

地球沸騰化の影響は、以下のような形でビジネスの継続性を阻害している

  • 【エネルギーの変動】 異常気象は、停電を引き起こし、エネルギー消費パターンを変化させ、エネルギーインフラを損傷し、エネルギー価格上昇の一因となっている。 世界の電力ネットワークの約4分の1は、台風等による破壊的な強風の高いリスクに直面しており、淡水冷却火力発電所の3分の1は、水関係のリスクが高い地域にある。 これらのリスクは、時間の経過とともに増大すると予測されている。
  • 【インフラの被害】 海面上昇と異常気象は、貿易港、道路、鉄道、製造工場、その他サプライチェーン運営の重要な構成要素を含む重要なインフラに損害を与えている。 オックスフォード大学の環境変動研究所(ECI)によると、世界の主要港のほぼ10港のうち9港が気候変動による被害を受けており、その結果、世界貿易への経済的影響が深刻化している。
  • 【農業の混乱】干ばつ、洪水、山火事、その他の異常気象は、農作物の収穫量を減少させ、家畜の健康に害を及ぼし、食品部門に重大な財務リスクをもたらす。 気候変動による気温と降水量の変化は、米国全土および世界の作物収量に悪影響を及ぼす可能性が高い。 2019年、中西部の洪水は農産物販売に45億ドル(約6,525億円)の損失をもたらした。

こうした物理的な影響によって気候変動はサプライチェーンを混乱させ、商品が消費者に届きにくくする。 これはまた、価格を押し上げ、需給の不均衡を生み出すことによって、インフレを悪化させる。 世界経済全体では、船積みの遅延、商品の紛失、インフラの損傷、航路の閉鎖や変更などの問題が、企業に時間とコストの損失をもたらしている

気候変動リスクに関する情報開示の義務化

これらの世界的な出来事は、物理的な気候変動リスクが金融リスクで あることを裏付けている。 この裏付けに対応するように、規制の枠組みも成熟しつつある。

 欧州連合(EU)では、企業のサステナビリティ報告に関する義務としてCSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive)という指令がある。この指令は、企業に対し、気候変動に関連する重大な影響、リスク、機会、および関連する財務的影響を特定し、評価するよう求めている。 米国では、SEC(証券取引委員会)が気候変動規則を制定し、企業に対し、気候変動に関連するリスクが自社のビジネスモデルや財務見通しにどのような影響を与えるか、また、それらのリスクをどのように軽減していくかを説明することを求めている。世界的には、国際財務報告基準(ISSB)の 要求事項に、気候関連の物理的リスクと機会を評価するためのシナリオ分析が含まれている。

企業に求められる対策

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