経済

気候変動適応は避けられないニーズであり、また投資機会でもある。気候変動による物理的影響が深刻化する中で、気候変動適応は脱炭素化と並び立つ、重要かつ補完的な投資テーマとして台頭している。本記事では、気候変動の物理的影響に対応する「気候変動適応(climate adaptation)」への投資が、今後どのような規模で拡大し、どのような資本の動員が必要となるかについて、シンガポール政府投資公社による最新の調査を基に詳しく解説する。

気候変動適応が浮上する新たな投資テーマ

気候変動による物理的影響が深刻化する中で、気候変動適応は脱炭素化と並び立つ、重要かつ補完的な投資テーマとして台頭している。これまでの気候関連投資は、低炭素経済への移行の緊急性を反映し、主に脱炭素化に集中してきた。地球温暖化に伴う異常気象や気象災害の頻度・強度の増加は、既存インフラや地域社会、経済活動に対して深刻な影響を及ぼしており、それに対応する「適応」は政府、企業、地域社会、家庭に至るまで、社会のあらゆるレベルで拡大する必要がある。このことは、物理的な気候リスクに対する経済および地域社会のレジリエンスを強化するうえで、民間セクターが重要な役割を果たすことを意味している。したがって、適応ソリューションを提供する企業は、気候変動への対応において、脱炭素化を補完する重要な存在として浮上し、今後ますます投資対象としての注目を集めることになる。*1

投資家にとって最も関連性の高い気候変動適応ソリューション

調査を行ったGIC(Government of Singapore Investment Corporation:シンガポール政府投資公社)とは、シンガポール政府の外貨準備金を運用する国営投資ファンドで、長期的なリターンを目指して世界中の株式、不動産、インフラなどに分散投資している。政府系ファンドとしては世界最大級の運用規模を誇る。*2

GICは、ベイン・アンド・カンパニーとの提携のもと、民間セクターの投資家にとって最も関連性の高い気候変動適応ソリューションを明らかにするため、産業界および科学分野の既存研究を幅広くレビューした。さらに、産業の実務家、気候科学者、保険業者、気象モデラーなど、複数分野の専門家へのインタビューを実施し、投資機会の規模と性質について包括的に評価を行った。

まず広範な投資ユニバースを検討した上で、特に有望と見なされた適応ソリューションのカテゴリに焦点を絞り、その中で新興および既存のソリューションを特定した。そして、それらの現在および将来的な投資機会について、初期段階の見積もりを実施し、総獲得可能市場(TAM)を測定したうえで、潜在的な投資価値の定量化と、気候変動によって生じる市場収益の割合の評価を行った。

調査によって導き出された5つの主要な知見

  1. 市場収益は4倍へ、温暖化が押し上げる成長分

調査対象に選定された21の気候変動適応ソリューション群※による世界の年間収益は、ベースケースにおいて現在の1兆米ドル(約145兆円)から、2050年までに4倍の4兆米ドル(約580兆円)へと成長すると予測されている。このうち2兆米ドル(約290兆円)は地球温暖化により追加的にもたらされる収益成長であり、これは従来の業界予測では通常考慮されていない要素である。

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